不動産の売買仲介営業をやっていると、お客様から受けた税金のご相談が難しくて、答え方が分からず慌てた経験はありませんか?
実はこの記事を読めば、お客様からの税金のご相談に、しっかり向き合えるようになります。
この記事では、宅建業従業者がお客様から税金についてご相談された場合、どう対応したら良いかについて、少し詳しくご説明します。
この記事を読めば、お客様を接客する時に「もし税金のことを聞かれて、答えられなかったらどうしよう」という不安から解放されますよ!
早速参りましょう。
宅建業者の税金に関する説明義務の有無と過去の判例
それにしても税金のことって難しいですよね。
私たち宅建業者が関わる税金をざっと挙げると不動産取得税、固定資産税と都市計画税、住宅ローン減税がまず浮かびますね。
他にも印紙税、登録免許税、不動産所得や不動産の譲渡所得による所得税と住民税、贈与税、相続税といったところでしょうか。
何だかクラクラしてきますね。
これら税金についてお客様から相談された場合、私たち宅建業者は正しく回答しなければならないのでしょうか?
結論から申しますと、そういうことはないようです。
実は宅建業者は、不動産取引に関連する税金については、原則として説明義務は無いとされています。
少し安心しましたね!
ただしその根拠を、「重要事項説明義務の範囲に入っていないから」とするのは少し早合点なようです。
重要事項として説明しなければならない内容は、宅建行法35条1項の1号から14号という箇所で定められています。
そしてこれらの箇所に、税金のことは一切出てきません。
このことが、宅建業者に税金の説明義務は無い、とする根拠と言えそうですよね。
しかし宅建行法35条では、「少なくとも次に掲げる事項について」と前置きされて、1項の1号から14号が示されています。
この前置きがあることで、1号から14号はあくまで「例」として位置付けられ、それら以外でも、買主の契約の意思決定に影響を及ぼすことは、重要事項として説明しましょう、となっているのです。
では一体何によって、「宅建業者には税金の説明義務は無い」と言えるのでしょう?
少し難しいハナシになってしまいますが、実は過去の裁判の判例の中に、「宅建業者には税金の説明義務は無い」旨を前提とするものが幾つかあるようです。
裁判所全体の情報や、各地の裁判所のサイトへの入口になっているサイトに「裁判所ウェブサイト」というものがあります。
そのサイトでは、過去の「裁判例情報」が閲覧できます。
その中の、平成17年7月20日判決のさいたま地方裁判所の判決に、農地所有者が税金について説明しなかった宅建業者に損害賠償請求したものの、裁判所その請求を棄却した、というものがあります。
なおこの判例は、宅地建物取引士資格試験の指定試験機関でもある(財)不動産適正取引推進機構の判例検索システムでも確認できます。
また(財)不動産適正取引推進機構の判例検索システムでは類似の判例として、平成30年6月6日判決の東京地裁の判例を確認することができます。
売買で得た代金に消費税が生じることを知らなかった売主様が、生じる旨を説明しなかった媒介業者に損害賠償を求めたものの、棄却となった判例です。
これら以外にも、同種の判例は幾つかあるようですが、宅建業者に税金の説明義務が無いとされるのは、これら判例によるところが大きいようです。
【宅建業と税金:前提1】
宅建業者に税金の説明義務はない。
【重要】お客様からの税金のご相談、その適切な対応法とは
さてここまでで私たち宅建業の従業者は、大前提として、税金に関する説明義務は無いとされていることが確認できました。
では実際に現場等でお客様から税金についてご相談を受けた場合、私たちはどのように対応したらいいのでしょう?
実はこの点については、上記の(一財)不動産適正取引推進機構、及び(公財)不動産流通推進センターで、同一の見解を示して下さっています。
それは税金については、宅建業者は安易に回答すべきでなく、お客様自ら税務署や税理士さんにご相談頂くよう誘導すべきである、というものです。
というのも、宅建業者による間違った説明で万が一お客様が損害を被ったら、宅建業者に賠償責任が発生する場合があるからです。
ここでの詳細は割愛しますが、実際に過去の裁判において、そのような判例があります。
私たち宅建業者は、お客様から税金のご相談があったら、税務署や税理士等にお問い合わせ頂くよう誘導すべきであり、安易な回答はくれぐれもしないよう気をつけましょう。
【宅建業と税金:前提2】
お客様から税金の相談があったら、税務署や税理士等に誘導すべき。
【宅建業と税金:前提3】
安易な回答は控えるべき。間違った回答は損害賠償の恐れあり。
税金がお客様の意思決定に大きく影響する案件、場合によっては手を引く勇気も
例えば賃貸のお部屋探しで、学校区指定のお部屋探しのお客様がいらしたりしますよね。
その場合、当たり前ですが私たち宅建業者は、お客様のその他のご要望条件に加え、学校区の条件も加味して物件を紹介します。
実は売買においても、税金に関することで同じような物件探しを求められる場合があります。
「消費税非課税物件限定で探してください」とか、「住宅ローン控除が最大限受けられる物件を探してください」等がそうです。
このように不動産取引においては、宅建業者であっても、税金を避けて通れない案件があったりします。
さてこういう場合、万が一宅建業者が間違ってしまったらどうなるでしょう?
確かに前提として、宅建業者は税金についての調査義務、説明義務は無いとされています。
しかし税金のことが、お客様の契約の意思決定に大きく影響する場合、それ自体が重要事項説明の対象になると考えられます。
この場合お客様は、賃貸のお部屋探しの校区指定のお客様と同様に、非課税物件指定、あるいは住宅ローン控除を最大限受けられる物件限定で依頼しています。
このお客様に対しては、宅建業者は契約に際し、対象物件が間違いなく非課税物件、あるいは住宅ローン控除を最大限受けられる物件であり、かつ重要事項説明においても、そのことを説明する必要があると考えられます。
こういう場合、過去の判例では、宅建業者の間違いでお客様が損害を被り、お客様がその損害賠償を宅建業者に求めてきたら、宅建業者はそれに応じなければならない、としています。
いくら税金のことには説明義務が無いとは言え、お客様の意思決定に税金が大きく関わる場合、宅建業者に税金についての責任が生じる、ということです。
困りましたね!
どうしましょう?
もしそのお客様の意思決定に税金が大きく関わるようでしたら、売買に携わってまだ日が浅いうちは、勇気をもって手を引いたほうが無難なようです。
キャリアが充分にあり、税金についてもある程度精通していたら、お引き受けしても良いようです。
しかし一方で税金はただでさえ難しい上、ちょくちょく法改正されます。
とてもとても、知識を有しない状況で扱えるものではないよいです。
間違って回答した為に、お客様が損害を被ったりしたら大変です。
最初のうちは、税金がお客様の意思決定を左右するような案件は見送り、上司や先輩方にお任せするようにしましょう。
お客様からの税金のご相談、不動産の売買営業員ができること
ここまで、私たち宅建業の従業者と税金との関係についていろいろ見て参りました。
そしてお客様から税金に関するご相談を受けた時、私たち宅建業の従業者は極端に言えば、「税金のことは専門外で分かりません、税務署や税理士さんに聞いてください」と告げれば良いわけです。
でもただそれだけだと、せっかく当てにして頂いたのに、お客様に見切られ他業者様に行ってしまいかねませんよね。
何かして差し上げられることはないものでしょうか?
私たち宅建業者がして差し上げられる最低限のこととしては、例えば「予想される税金の種類」・「その概要」・「それら税金の相談窓口」を適切にご紹介することかと思います。
以下にまとめておきます。
【不動産取得税】
(概要)不動産を購入等した際に生じる税
(問い合わせ先)都道府県税事務所
【住宅ローン減税】
(概要)住宅ローンを借りたら、ローン残高の一部を所得税から控除できる制度
(問い合わせ先)税務署
【固定資産税・都市計画税】
(概要)不動産を所有していることで生じる税
(問い合わせ先)市町村役場の税務課
(注)
印紙税、登録免許税、不動産所得や不動産の譲渡所得による所得税と住民税、贈与税、相続税については触れておりません。
それでも税金のことについて、お客様にご説明する場合
これまで見て参りました通り、前提として宅建業者は、税金についての説明義務はないとされています。
とは言え不動産の売買営業員は、税金に関する知識を有し、それをお客様にご説明できれば強みになります。
やはり不動産の売買営業員は、税金に関する知識習得に向け、精進するべきなのでしょう。
以下に参考までに、個々の税金についてお客様にご説明する際のポイントをまとめてみました。
ただし前提は、お客様に直接税務署・県税事務所・市町村役場の税務課・税理士等にお問い合わせ頂くのが前提です。
加えて、ご説明した概要は現行の税制の内容であって、今後改正される可能性がある旨も、申し添えるようにしましょう。
不動産取得税についてのご説明
お客様方は、不動産取得税の額が幾らになるかということよりも、その対象不動産が、不動産取得税の軽減措置の対象になるかどうかに関心がある場合が多いです。
不動産取得税については、その点をご説明するようにしましょう。
不動産取得税が軽減されるのは、床面積50m2以上240m2以下の場合です。
また物件の建築年月日もポイントになりますが、1997年4月1日以降の建築であれば、大幅な軽減が期待できます。
したがって実際には、お客様が購入を検討するほとんどの物件が軽減措置の対象となると考えられます。
不動産取得税についてお客様にご説明する場合は、お客様の検討物件の床面積と建築年月日に着目し、軽減措置の対象となるかどうかをご説明しましょう。
その上で税制については、私たち宅建業者は素人である旨を申し添え、詳細については直接お客様に都道府県税事務所にお問い合わせ頂くよう、ご誘導しましょう。
なお現行(2021年10月)においては、軽減措置は2024年3月31日までとされています。
固定資産税・都市計画税についてのご説明
まずお客様には、一般的に固定資産税の額は、評価額×0.014(1.4%) で算出される旨をお伝えしましょう。
そして上記評価額とは、役所が対象不動産を調査して算出するものであること、そして一般的には売買価格の概ね7割程度であることをお伝えしましょう。
なおこれはあくまで概算であり、新築に至っては評価額の調査そのものがこれからであること、よって現段階では明確な額は出ないことは、強調してお伝えしましょう。
また一般的に、評価額×0.003(0.3%)の都市計画税も一緒に発生することを申し添えましょう。
ただしこの1.4%ないし0.3%という値は、市町村によって異なる場合があります。
そのことを忘れず申し添えるか、予め自ら市町村役場に確認しておくかしておきましょう。
そして最後必ず、該当する問い合わせ先をお伝えし、お客様自らご確認頂くよう申し伝えましょう。
なお取引対象不動産が中古の場合は、市町村役場の税務課で評価証明書を取得して確認することができる旨、また売主様から納税通知書の写しを頂くことで、より精度の高い想定額がお伝えできることをご説明しましょう。
また余力がある場合は、新築の場合の固定資産税の軽減措置についてご説明すると良いです。
現行(2021年10月)においては、新築戸建では3年間、新築マンションでは5年間、固定資産税率のうちの建物の額が2分の1に減額されます。
なお税額がまるまる半額になるわけでなく、あくまで税額全体のうちの建物の額である旨を繰り返し申し添えると良いかもせれません。
またもしその建物が長期優良住宅だったらさらに2年伸び、新築戸建だったら5年間、新築マンションだったら7年間になる旨申し添えましょう。
ただしこれらは様々な適応要件があること、また税制の専門家でない私たち宅建業者では間違ったり情報が古かったりしかねい旨を申し添え、最初的にはお客様自ら、市町村役場にご確認頂くようご誘導しましょう。
住宅ローン減税についてのご説明
まず住宅ローン減税をお受け頂くにあたっては、物件及びご本人様に様々な条件があり、その条件をクリアする場合に受けられる旨を申し伝えましょう。
そしてその条件については、税制の素人である宅建業者が間違ってご説明してはいけませんので、お手数ですが税務署に直接ご確認頂くよう申し伝え、最寄りの税務署の連絡先をお伝えしましょう。
その上で住宅ローン減税の概要として、10年間に渡って、ローン残高の1%を所得から控除できる旨を申し伝えましょう。
なお更なる諸条件が揃えば、13年の場合があったりなど、慣れないと正確な情報をお伝えするのは難しいです。
繰り返しになりますが、住宅ローン減税についても、最終的にはお客様ご本人に直接税務署にご確認頂くよう申し伝えましょう。
(注)
印紙税、登録免許税、不動産所得や不動産の譲渡所得による所得税と住民税、贈与税、相続税については触れておりません。
まとめ
いかがでしたか?
お客様から税金のご相談を受けた場合の、宅建業従業者としての対応について、ご理解頂けたことと思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□宅建業者の税金に関する説明義務
前提として、宅建業者に税金の説明義務はないとされている。
□宅建業従業者がお客様から税金のご相談を受けた場合の対応
宅建業従業者は税金については素人。安易な回答は禁物。相談があったら税務署や税理士等に誘導すべき。
□宅建業者がお客様に税金に関する間違った回答をした場合
その間違いによってお客様が損害を被った場合、賠償をしなければならない可能性あり。
□お客様の意思決定に税金が大きく関わる場合
売買経験が乏しかったら、手を引いたほうが無難な場合あり。
□税金のご相談に対し、宅建業従業者ができること
その税金の問い合わせ先を適切にお伝えする。
□それでも税金についてお客様にご説明する場合
最終的にはお客様ご自身で該当問い合わせ先にお問い合わせ頂くよう誘導しつつ、その概要をご説明するにとどめる。
またご説明した概要は現行の内容であり、今後法改正される場合がある旨申し添える。
詳細はあくまで税務署・都道府県税事務所・市町村の税務課・税理士等にご確認頂くよう申し添える。
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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