【不動産売買】it重説(オンライン重説)や非対面での契約のやり方

不動産会社で営業をやっていると、最近は売買営業においても、it重説とかオンライン重説という言葉を耳にしますよね。

このit重説(オンライン重説)を用い、お客様と直接会わずに(非対面で)、売買契約までを完結させる方法はあるのでしょうか?

この記事では、不動産会社の売買営業員が買主様側の仲介に付いた場合に、お客様(買主様)と非対面で、売買契約までを完結させる方法について、まとめてみました。

売買契約までの一連の手続きを、非対面で行うことの是非はさておき、そのやり方を、手法の1つとして押さえることは、きっと意義あることと思います!

早速、参りましょう!

目次

不動産売買の買主様側仲介で、買主様に非対面で売買契約まで済ませるやり方

今仮に、不動産の売買営業員として、あるお客様を売買物件の内見にご案内したとします。

そして後日お客様からお電話があり、その物件を購入したいと申し入れがあったとします。

ところがそのお客様はお忙しく、できれば契約までを、不動産会社等に行くことなく済ませたい、とおっしゃったとします。

さてこういう場合、どういう方法を用いたら、お客様と直接お会いせず、契約までを行うことができるでしょう?

一般的に宅地建物売買においては、契約までに買主様に対して行うべきこととして、下記3つが考えられます。

・本人確認(犯罪収益移転防止法の取引時確認)

・重要事項説明

・契約書等への記名・押印

買主様に直接お会いすることなく、これら3つを行うにはどうしたらいいでしょう?

結論から申します。

その方法は、まずお客様から住民票を郵便して頂き、その住所宛に重説・契約書等の取引関係文書を郵送し、it重説(オンライン重説)を行った上で各書類に記名・押印して頂き、それらを返送して頂くことで完結します。

ただしこれには、取引関係文書の郵送は転送不要郵便で行わなければならない等、いくつか注意すべきことがあります。

以下、それら注意点を踏まえ、それぞれの行程を少し詳しめにご説明します。

(注)

宅地建物取引においても、デジタル社会形成整備法の公布(令和3年5月19日)に伴う宅建業法の改正(令和4年5月18日 施行)により、電子書面の活用や電子署名が可能となりましたが、この記事では、それらについては言及しません。

非対面による本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)のやり方

賃貸でも売買でも、お客様に不動産の契約をして頂く場合、不動産業者は本人確認を行う必要があります。

更に、その取引が宅地建物の売買の場合、その本人確認は、犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認でなければなりません。

以下、本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)について、順番にご説明します。

本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)における、対面と非対面の違い

例えば、お客様を住居売買物件の内見に案内した時に、その場で購入したいと言われたとします。

その場合、その場で購入申込書を書いて頂き、同時に運転免許証を提示して頂くなどすれば、その場で犯罪収益移転防止法に基づく本人確認(取引時確認)を完結させることができます。

ところが対面での本人確認(取引時確認)の機会を逃し、かつその後契約完了まで会う機会が無いとすれば、必然的に、非対面による本人確認(取引時確認)を実施することになります。

非対面での本人確認(取引時確認)は、対面での本人確認(取引時確認)に比べると、残念ながらその手間はグッと増えますが、中でも比較的やり易いやり方があります。

住民票を本人確認書類とする、非対面での本人確認(取引時確認)です。

次にその方法について、ご説明します。

住民票を本人確認書類とする、非対面での本人確認(取引時確認)のやり方

住民票による、非対面での個人(法人でない自然人)への本人確認(取引時確認)の方法は、下記2つを抱き合わせて実施することで完結します。

【手順】

1.お客様に役所等で住民税を取って来て頂き、それを郵送で送って頂く。

2.取引関係文書を、その住民票に記載された住所に、転送不要郵便で郵便する。

以下、注意点です。

【注意点】

・お客様の現住所に住民票があるかを確認しましょう。無い場合は現住所に移して頂いた上で郵送して頂くようにしましょう。

・郵送して頂く住民票は、原本に限ります。コピーはNGです。

・お客様の住民票は、犯罪収益移転防止法の規程に基づき、速やかに本人確認記録・取引記録として添付しましょう。

・取引関係文書は、転送不要郵便(=宛名本人がそこに住んでいないと、転送されず差出人に返送される郵便)で郵送する必要があります。普通郵便等で郵送してしまうと、犯罪収益移転防止法に基づく非対面での本人確認(取引時確認)の規程を満たさなくなってしまいます。気をつけましょう。

不動産売買の契約までを非対面で行う場合に、買主様に郵送すべき書類等

上述した通り、次にお客様に、転送不要郵便を用いて取引関係文書を郵送しますが、そのお客様が、不動産を購入しようとする買主様で、契約までの一連の手続きを非対面で行う場合、郵送すべき書類は下記の通りです。

【郵送すべき書類】

・重要事項説明書

・重要事項説明資料一式

・「ITを活用した重要事項説明に関する同意書」(詳しくは後述します。)

・不動産売買契約書

・告知書

・その他契約関係書類

以下、注意点です。

【注意点】

・書類には、予め仲介業者による記名・押印を済ませておく必要があります。売主様側に別の仲介業者が付いている場合も、当然に、売主様側仲介業者の記名・押印もされている必要があります。

・各書類への売主様による記名・押印欄は、原則空欄としておきます。重要事項説明書に売主様による確認に基づく記名・押印欄がある場合は、先に済ませて頂いてOKです(義務ではありません)。また告知書も、先に売主様に記名・押印して頂いても良いようです。

(注)

本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)は、各不動産会社がeKYCサービスという有料サービスを導入し、それを活用すればオンライン上で完結できるとされていますが、この記事では、eKYCサービスによる本人確認については言及しません。

it重説(オンライン重説)のやり方

ではここから、it重説(オンライン重説)についてご説明して参ります。

順番に見て行きましょう。

it重説(オンライン重説)の導入は賃貸が先で売買が後

そもそもit重説(オンライン重説)は、不動産賃貸営業経験者の方はご存じと思いますが、国土交通省の判断で、2017年に賃貸からスタートしました。

不動産売買取引において、it重説(オンライン重説)が可能となったのは、送れること4年、2021年4月からです。

したがって不動産会社によっては、売買営業部では、it重説(オンライン重説)の浸透がまだまだであるものの、賃貸営業部では、かなり浸透している、というところもあるようです。

不動産の売買営業員の方の中には、まだ宅建士の資格を取得しておらず、上司や先輩にit重説(オンライン重説)を依頼しなければならない方も、いらっしゃると思います。

しかも依頼しようとする上司や先輩が、it重説(オンライン重説)未経験で、そのノウハウ自体を、むしろご自分からお伝えしなければならない場合もあると思います。

そういう場合、自らネット情報等を通じ、ノウハウを取得する必要に迫られると思いますが、もし身近に宅建士の資格を持った賃貸営業員の方がいらっしゃったら、it重説(オンライン重説)のノウハウを、その方にうかがってみるのも一案かと思います。

it重説(オンライン重説)に関する売主様の同意について

当初不動産売買におけるit重説(オンライン重説)は、完全解禁の2021年以前に、社会実験として行われていました。

その際、買主様からはもちろん、売主様からも、買主様の重説をit重説(オンライン重説)で行うことの同意を得ることが義務とされていました。

しかしこの売主様からの同意義務は、その後緩和されたようです。

令和3年3月に国土交通省の不動産・建設経済局の不動産業課が策定した「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」に、下記のような記載があります。

重要事項説明の内容によっては、売主や貸主の個人情報にかかる部分が含まれることもありえます。そのため、個人情報保護の観点から、当該取引物件の売主や買主等の関係者からの同意を取得することが望ましいと考えます。

国土交通省 不動産・建設経済局 不動産業課 ITを活用した重要事項説明 実施マニュアルP13 「IT重説実施に関する関係者からの同意」より抜粋

令和3年以降の国土交通省の指導では、売主様には、個人情報保護の観点から、it重説(オンライン重説)の同意を得ることが、義務ではなく「望ましい」としています。

ただし「望ましい」に緩和されたとは言え、売主様の中には、令和4年現在においても、現にit重説(オンライン重説)を敬遠したいとお考えの方は、やはり一定数いらっしゃるようです。

したがって現場における実務においては、義務ではないにせよ、引き続き売主様からの同意については、得るものと捉えておくほうが良いようです。

買主様へのit重説(オンライン重説)に関する同意書への記名・押印

一方重要事項説明を、実際にit重説(オンライン重説)で受けることになる買主様のほうには、その旨の同意をしっかり得るものとされています。

令和4年現在、全国宅地建物取引業協会連合会策定のマニュアルにおいては、買主様からの同意は「遵守事項」とされています。

it重説(オンライン重説)に対する買主様からの同意を得るにあたっては、各団体が「ITを活用した重要事項説明に関する同意書」等の定型書式を、用意していることと思います。

お客様には、犯罪取得移転防止法に基づく取引関係文書の送付時に、この同意書面も忘れることなく同封し、it重説(オンライン重説)実施前に、確実に記名・押印して頂くようにしましょう。

国土交通省がit重説(オンライン重説)を対面重説と同等とみなすための条件4つ

賃貸でも売買でも、国土交通省がそのit重説(オンライン重説)を、対面による重要事項説明と同等とみなすためには、下記4つの条件を満たす必要があります。

まずは以下に、国土交通省がまとめた「宅地建物取引業法解釈・運用の考え方」を、一部抜粋します。

1.宅地建物取引士及び重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること。

2.宅地建物取引士により記名押印された重要事項説明書及び添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ送付していること。

3.重要事項の説明を受けようとする者が、重要事項説明書及び添付書類を確認しながら説明を受けることができる状態にあること並びに映像及び音声の状況について、宅地建物取引士が重要事項の説明を開始する前に確認していること。

4.宅地建物取引士が、宅地建物取引士証を提示し、重要事項の説明を受けようとする者が当該宅地建物取引士証を画面上で視認できたことを確認していること。

国土交通省「宅地建物取引業法解釈・運用の考え方」より抜粋

以下、ご説明します。

1.it重説(オンライン重説)に相応しいit環境(映像及び音声)の準備

it重説(オンライン重説)を行う場合には、当たり前ですが、画面に写し出された図面や書類が、しっかり認識できる映像である必要があります。

また音声についても、双方が発する音声をしっかり聞き取れる必要があります。

it重説(オンライン重説)を行う場合には、用いようとするit環境が、これらを充分に満たす環境である必要があります。

したがって極端に言えば、お客様側の端末が、例えばスマートフォンであっても、その画像を通じてお客様がしっかり図面や資料を確認でき、音声がしっかり聞き取れれば、その環境で良いとされます。

2.仲介業者による記名・押印済みの重要事項説明書の事前送付

it重説(オンライン重説)で用いる重要事項説明書は、事前にお客様に送付しておく必要があります。

しかもその重要事項説明書は、予め仲介業者による記名・押印が成されている必要があります。

ただしこの点については、上述した犯罪収益移転防止法に基づく取引関係文書の送付を実行することで、遂行できます。

3.開始前チェック(重要事項説明書・画像・音声)

上記1で適切なit環境が準備され、上記2で適切な重要事項説明書が準備されたら、次はいよいよit重説(オンライン重説)本番です。

本番実施前には、担当宅建士より改めて、予め用意した重要事項説明書がお客様の手元にあるか、担当宅建士の示す画像がお客様にしっかり見えているか、担当宅建士の発する声がお客様にしっかり聞こえているかチェックし、it重説(オンライン重説)をスタートします。

4.宅地建物取引士証の提示

it重説(オンライン重説)スタートに際しては、対面による重要事項説明と同じように、担当宅建士はお客様に宅地建物取引士証を提示し、現に説明しようとする人物が、確かに宅建士であることをご確認頂き、説明を開始します。

買主様による契約書等への記名・押印

ここまでで、買主様側への本人確認、重要事項説明、買主様による重要事項説明書への記名・押印を、非対面で完了させることができました。

次に行うべきことは、買主様による、契約書や告知書等契約関連書類への記名・押印です。

とは言うものの、この時点で買主様のお手元には、仲介業者の記名・押印が施されたそれら書類が、既に届いています。

買主様には、it重説(オンライン重説)を実施した後に、重要事項説明書への記名・押印をお済ませ頂いた後、その流れで、そのままそれら書類にも、記名・押印して頂ければ大丈夫です。

その後、重要事項説明書の仲介業者控え分1部と契約書及び契約関連書類2部を、一緒にお送りした返信用封筒に封筒して頂き、返送して頂きます。

売主様による契約書等への記名・押印と手付金の授受

ここまでで、買主様による契約書及び契約関連書類への記名・押印が完了しました。

次は売主様に、契約書及び契約関連書類に記名・押印して頂く必要があります。

一般的にはこのタイミングで、売主様と売主様側仲介営業員が対面し、売主様による契約書等への記名・押印が成されることと思います。

ここで一番好ましいのは、買主様側の仲介営業員が、買主様の記名・押印済みの書類一式を持参して同席する方法です。

同席してその書類一式を売主様側にお渡しし、その場で記名・押印して頂ければ、売買契約の締結は完了となります。

契約が締結されたら、次は手付金の授受です。

売主様による契約書類等への記名・押印完了後、買主様側の仲介営業員は、買主様に直ちに連絡を入れます。

そして買主様に、ネット振込等を活用して速やかに手付金をお振り込み頂きます。

その後、売主様が着金をご確認頂けたら、手付金の授受は無事完了となります。

不動産売買の営業員として買主様側仲介に付く場合には、このようにして、買主様に直接対面せずに、本人確認、重要事項説明、売買契約の締結、手付金の支払いを、完了させることが可能です。

まとめ

いかがでしたか?

不動産売買において、本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)、重要事項説明、売買契約までを非対面で行うことの是非については、2022年の現在、様々な見解があるようです。

非対面で行うことは様々なメリットがあるとする見解がある一方、不動産という極めて高額な商品の購入手続きを、取引担当者と会わずに行うことに、不安を感じる消費者様もいらっしゃるようです。

また売主様についても、投資用物件の売主業者様、また実需においては、自らが売主物件の売主業者様や新築分譲マンションの売主業者様にとっては、一連の手続きを非対面で行うことへの抵抗感は少ないかもしれません。

しかし一方で、個人の売主様の方々の中には、やはりまだ、「きちっと対面して手続きしてくれる方でないと不安」というお気持ちの方もいらっしゃるようです。

ただし不動産売買の営業員としては、その是非は別として、手法の1つとして、売買契約までを非対面で行うやり方を、押さえておくことは、やはり意義があると思います。

そして不動産売買においても、犯罪収益移転防止法に基づく本人確認(取引時確認)や、書面発行・署名等が、今後益々オンライン可せれるかもしれない、という見解もあるようです。

是非この機会に、 まずは非対面で一連の手続きを完了させる手順を、押さえてしまいましょう。

最後にもう一度、内容を確認しておきます。

□不動産売買の買主様側仲介の営業員が、買主様の非対面で売買契約を行う場合にやるべきこと3つ

・非対面での本人確認(犯罪収益移転防止法に基づく取引時確認)

・it重説(オンライン重説)と重要事項説明書への記名・押印

・契約書及び契約関係書類への記名押印と手付金の支払い

□住民票を本人確認書類とする非対面での本人確認(取引時確認)のやり方

1.住民税原本を郵送して頂く。

2.取引関係文書を転送不要郵便で郵便する。

□it重説(オンライン重説)に関し、売主様からの同意の取得

□買主様からの「ITを活用した重要事項説明に関する同意書」の取得

□it重説(オンライン重説)が対面重説と同等とみなされるための条件4つ

1.it環境(映像及び音声)の準備

2.仲介業者による記名・押印済みの重要事項説明書の事前送付

3.開始前チェック(重要事項説明書・画像・音声)

4宅地建物取引士証の提示

□買主様による契約書等への記名・押印

□売主様による契約書等への記名・押印と手付金の授受

1.買主様側の仲介営業員は、売主様の契約手続きに買主様記名・押印済書類を持参して同席。

2.売主様による契約書等への記名・押印。

3.手付金の授受。

この記事は以上となります。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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