【不動産売買】三為契約とは?契約書に付す特約事項や決済までの流れ

不動産会社で売買営業に携わっていると、主にベテラン営業員の方々から、「サンタメ契約」という言葉を耳にすることはありませんか?

「サンタメ契約」は、「三為契約」と表記しますが、民法における「第三者のためにする契約」の略語で、主に不動産の転売等の場面で用いられます。

また同一の意味合いで、直接移転売買と言うこともあります。

この記事では、不動産売買における三為契約(直接移転売買)の実務について、具体例を交えわかりやすくご説明します。

正直少し難しい内容で、不動産の売買取引の経験がそこまで多くない方は、即実践で用いるのは、難易度が高いと思います。

とは言えその前段階として、その仕組み等を机上で学ぶことは、きっと意義深いものだと思います。

是非この機会に、三為契約(直接移転売買)の全体像を掴んでしまいましょう!

では、参ります。

目次

三為契約(直接移転売買)とは

例えばある方(Aとします)が、所有している不動産を早く現金化したいということで、近くの宅建業者(Bとします)を訪れ、売却の相談をしたとします。

宅建業者Bは、Aの要望に応じることができ、その不動産を購入することにしました。

なお宅建業者Bにとって幸いなことに、その不動産は、相場よりも、Aから安く購入できそうでした。

しかも宅建業者Bは、類似の不動産を購入したいと考えている顧客(Cとします)を抱えています。

宅建業者Bは、その不動産情報をCに提示しました。

するとCは、その不動産を気に入りました。

宅建業者Bは、信義則に反しない範囲でAから購入した価格に利益を乗せ、Cにほぼ相場額で、その不動産を売却することになりました。

さてこの場合、通常であれば、その不動産がAからCの所有になるまでには、下記の手順を経ますよね。

すなわち、Aと宅建業者Bとで契約と決済を済ませ、まずはしっかりと、宅建業者Bがその不動産の所有権を取得し、その後に、宅建業者BはCと契約し、決済します。

ところが実は、不動産売買においては、様々な条件が整えば、中間の者(上記宅建業者B)に所有権を移転せずに、最初の者(上記A)から最後の者(上記C)に、その所有権を直接移すことが可能となります。

中間者である宅建業者Bが所有権を得ると、宅建業者Bは必然的に、登録免許税や不動産取得税を負担することになります。

一方その所有権が、AからCに直接移転すれば、宅建業者Bは所有権を得ないので、それらを負担する必要がありません。

このような背景から、宅建業者の中には、その所有権を直接移転する手法を用いる業者があります。

そしてこの手法を、三為契約と言いったりします。

また直接移転売買という言い方を、する場合もあります。

(注)

厳密に言えば、直接移転売買とは、三為契約と他人物売買の2つの売買を用いた売買の総称であって、三為契約とは、直接移転売買のパーツの1つですが、ここの箇所では、その点はあまり囚われないこととします。

不動産売買の三為契約と民法537条

不動産売買におけるこの三為契約という言葉は、そもそも民法537条の「第三者のためにする契約」から来ています。

以下、不動産売買における三為契約(直接移転売買)の実務についてご説明して参りますが、その前段階として、この民法537条「第三者のためにする契約」を押さえておくとわかりやすいです。

別記事に、「第三者のためにする契約とは?具体例を交え、わかりやすく解説!」というものを用意しております。

是非ご一読ください。

三為契約と中間省略・新中間省略という言葉について

またベテラン営業員の方の中には、三為契約(直接移転売買)のことを、中間省略とか新中間省略という言葉で表す方もいるようです。

しかし、その分野に精通している司法書士の見解等によれば、現行の三為契約(直接移転売買)のこおを、中間省略・新中間省略言うのは、適切でないとされています。

この記事では、その見解に則り、中間省略・新中間省略という言葉は用いないこととします。

三為契約(直接移転売買)の契約書に設けるべき特約事項について

ではこの三為契約(直接移転売買)を、適切に結ぶためには、具体的にどうしたらいいのでしょう?

それは、下記2つの売買を行うことになります。

売買1.売主をA、買主を宅建業者B、第三者をCとする第三者のためにする契約を結ぶ

売買2.売主を宅建業者B、買主をC、Aの所有権移転先をCとする他人売買契約を結ぶ

(A・B・Cは、冒頭の具体例に則ります。)

以下、それぞれの売買について、詳しく見ていきます。

売買1.【三為契約】売主をA、買主を宅建業者B、第三者をCとする

まずは売主をA、買主を宅建業者Bとする売買契約を結びます。

ただしそのまま普通に契約したのでは、Aの所有権は宅建業者Bに移転してしまいます。

そうではなく、Aの所有権は、直接Cに移転させなければなりません。

その為には民法537条に則り、適切な特約事項を設ける必要があります。

(社法)不動産流通推進センターが運営するホームページに、三為契約に盛り込むべき特約事項の参考例が確認できます。

下記に引用します。

1.買主は、売買代金全額の支払までに本件不動産の所有権の移転先となる者(買主を含む。)を指名するものとし、売主は、本件不動産の所有権を買主の指定する者に対し、買主の指定および売買代金全額の支払いを条件として直接移転するものとする。

2.買主は、売買代金全額の支払いまでに、所有権の移転先に指定した者から売主に対し受益の意思表示をさせるものとする。ただし、売主は、買主からの申し出があった場合には、その受益の意思表示の受領権限を買主に与えるものとする。

3.売主または買主が前項の受益の意思表示を受けたときは、売主は、買主がその者に対して負う所有権移転の債務を履行するために、その者に対し直接所有権を移転するものとする。

(社法)不動産流通推進センターHP 不動産相談 売買事例「0808-B-0077」

以下、少し補足説明です。

上記特約事項の1つ目に、「買主は、売買代金全額の支払までに本件不動産の所有権の移転先となる者(買主を含む。)を指名するものとし」という記載があります。

実は民法の第三者のためにする契約では、三為契約が成立する時点で第三者が決まっていなくても、その契約の効力は妨げられないことになっています(民法537条の第2項)。

すなわち売買1のAと宅建業者Bの契約が成立する時点で、Cが現れてあなくても、その契約は有効に成立する、ということです。

とは言え実務においては、「移転先となる者」が定まっている状態で、売買1の三為契約を結ぶのが一般的です。

また上記特約事項の2つ目では、「買主は、売買代金全額の支払いまでに、所有権の移転先に指定した者から売主に対し受益の意思表示をさせるものとする」となっています。

実は、第三者の利益については、民法537条の第3項で、その第三者が債務者に対し、その契約の利益を享受する意思を表示した時に初めて発生する、と定めています。

「Aから不動産を取得する」というCの利益は、Cがその不動産譲渡債務を負うAに対し、「私は確かにAから不動産を取得します」というふうに、その意思表示を行って初めて発生する、ということです。

なお、この種の意思表示のことを、専門的用語で「受益の意思表示」と言います。

ただし実務においては、利益を得るCが、その債務を負うAに対し、直接的に受益の意思表示を行うことは、現実的ではないですよね。

なぜならCとAの間には、宅建業者Bが入っており、直接関わり合うことは、基本的に無いからです。

したがって上記2の後半部のように、「ただし、売主は、買主からの申し出があった場合には、その受益の意思表示の受領権限を買主に与えるものとする」となっており、Cからの受益の意思表示はAでなく、宅建業者Bも受領できるようにしているわけです。

なお、第三者による受益の意思表示は、三為契約が履行される上でとても重要な意味を持ちます。

したがって通常は第三者(=C)は、「受益の意思表示通知書」等の書面によって、そのことを明らかにします。

「受益の意思表示通知書」等は、一般的には当該契約の登記業務等を担う、司法書士が用紙してくれます。

売買2.【他人物売買契約】売主を宅建業者B、買主をC、Aの所有権移転先をCとする

売主をA、買主を宅建業者Bとする売買契約を結んだ後は、売主を宅建業者B、買主をCとする、他人物売買契約を結びます。

その際特約で、Aの所有権移転先をCとする特約を設けます。

その特約の具体例としては、下記の通りです。

やはり(社法)不動産流通推進センターが運営するホームページから引用致します。

本件不動産の所有権は、現在の登記名義人が所有しているので、本件不動産の所有権を移転する売主の義務については、売主が売買代金全額を受領した時に、その履行を引き受けた本件不動産の登記名義人である所有者が、買主に対しその所有権を直接移転する方法で履行するものとする。

(社法)不動産流通推進センターHP 不動産相談 売買事例「0808-B-0077」

ここで幾つか、ご説明すべきことがあります。

まずこの売買契約は、記載の通り、他人物売買になります。

売主である宅建業者Bは、この時売却対象となる不動産を所有しておらず、Aが所有する不動産、すなわち他人の物を売ることになるからです。

他人物売買と言うと、「えっ、人の物を売ってもいいの?」と思ってしまいますが、そのことは民法でしっかり定められています。

下記の通りです。

(他人の権利の売買における売主の義務)

第五百六十一条 他人の権利(権利の一部が他人に属する場合におけるその権利の一部を含む。)を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。

e-Govポータル 『デジタル庁』

ただしこの民法561条においては、「売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う」となっています。

でも実際、不動産売買の三為契約(直接移転売買)における他人物売買では、売主(ここでは宅建業者B)は、一瞬たりとも所有権を取得することはありません。

どういうことでしょう?

実は民法のこの箇所においては、必ずしも売主が一旦他人から権利を取得してこれを買主に移転しなくても、権利者が直接買主に権利を移転することを約束しておけば良いとする解釈があるとされています。

すなわち、宅建業者BがAから所有権を取得してCに移転しなくても、宅建業者BとAの間で、「Aが買主Cにその所有権を直接移転する」とを定めておけば足りる、ということです。

上述した売買1の特約においても、随所にこのフレーズが登場しますし、この売買2においても、そのことが示されています。

よって、これで良いということです。

なお、不動産売買の三為契約(直接移転売買)における他人物売買では、もう1つ意に留めておくべきことがあります。

それは、宅建業法の自ら売主制限です。

実は宅建業法の自ら売主制限では、宅建業者による他人物売買は禁止されています。

ところがこの売買2は、売主を宅建業者B、買主を非業者Cとしていますから、宅建業法の自ら売主制限に当たります。

したがって通常であれば、この他人物売買はNGです。

どういうことでしょう?

実は、この宅建業法の自ら売主制限の他人物売買は、除外規程があります。

それは、宅地建物取引業法施行規則第15条の6の第4号という箇所で定められています。

宅建業者を買主とする売買1において、その宅建業者が指定する者に所有権を移転する特約を設けておけば、売買2においては、自ら売主制限の他人物売買の禁止は除外される、という規程です。

上述した売買1の特約の1つ目に、「買主は、売買代金全額の支払までに本件不動産の所有権の移転先となる者(買主を含む。)を指名するものとし」とあります。

この箇所が、この除外規程に相当します。

このようなことから売買2は、宅建業者を売主とする他人物売買であるものの有効となります。

三為契約(直接移転売買)の契約締結から決済・引渡しまでの流れ

三為契約(直接移転売買)においては、契約を締結する順番、及び決済・引渡しのタイミングが重要です。

一般的には下記の手順で行います。

手順1.売買1の契約「売主をA、買主を宅建業者B、第三者をCとする、第三者のためにする契約」の締結

まずは、売主をA、買主を宅建業者B、第三者をCとする、第三者のためにする契約を締結します。

その際、Aから宅建業者Bに、手付金が授受されます。

手順2.売買2の契約「売主を宅建業者B、買主をC、Aの所有権移転先をCとする他人売買契約」の締結

次に、売主を宅建業者B、買主をCとする他人物売買契約を締結します。

その際、宅建業者BからCに、手付金が授受されます。

なお実務においては、この時の手付金の額は、売買1における手付金の額と同一にする場合が多いようです。

手順3.売買1「Aと宅建業者Bの売買」の決済・引渡しと売買2「宅建業者BとCの売買」の決済・引渡しを同時に実施

2つの売買契約の締結後、もしCが金融機関から融資を受けるのであれば、その金消契約の後に、売買1のAと宅建業者Bの決済・引渡し、及び売買2の宅建業者BとCの決済・引渡しを同時に行います。

実はこれら2つの決済・引渡しは、同時でなくても良いとされています。

とは言え同時でないと、様々なリスクが生じるようです。

したがって実務においては、同時に行うのが一般的です。

主要なパターンとしては、AとCが直接対面しないよう、金融機関等のブースを2室お借りし、宅建業者Bと担当司法書士がそのブースを行き来しながら実務を進めていきます。

三為契約(直接移転売買)と司法書士

通常の不動産売買においてももちろんそうですが、三為契約(直接移転売買)においては、司法書士様の役割が特に重要であるとされています。

三為契約(直接移転売買)の登記業務等を担う司法書士様は、最終的に所有権を取得する、売買2の買主様(上記例のC)に手配して頂くのが一般的です。

その際、三為契約(直接移転売買)に精通し、できればコミュニケーションの取りやすい司法書士様を、手配して頂くのが望ましいです。

なぜなら三為契約(直接移転売買)は、非常に複雑な取引で、通常の不動産売買よりも、司法書士様への依存度が高まるからです。

三為契約(直接移転売買)においては、決済・引渡し前の事前打ち合わせから、当日の決済・引渡しまで、司法書士様のお力無くしては成立しない場面が多々あり、担当の宅建業者の営業員と担当司法書士様との連携が、通常の不動産売買よりも重要になってくらことを、念頭に置いておきましょう。

三為契約(直接移転売買)では、売買価格の差異が相手方に知られるのか

三為契約(直接移転売買)は、一般的に、宅建業者が転売差益を得る目的で行われるとされています。

ここで1つ懸念が生じます。

それは、売買2における売買価格が、売買1の売主に知られるかどうか、すなわち宅建業者が仕入れ値に幾ら利益を乗せたか、仕入れ元の方に知られてしまうのか、ということです。

これについては、宅建協会や全日等、勤務先が所属する団体、もしくは三為契約(直接移転売買)に精通する司法書士に確認してみると分かりますが、原則的には、知られることはないとされています。

と申しますのも、売買1と売買2は別の契約であり、ある契約の当事者が、他の契約の詳細を知ることは、通常は無いとされているからです。

ただし三為契約(直接移転売買)の売買2は、通常、売買1が結ばれたことを前提に結ばれるので、売買2の買主から、売買1の成立根拠を求められたら、その写しをお示しする等、誠意ある対応を取るべきとされています。

ただしこのような場合であっても、例えば、金額等の箇所を塗りつぶす等して、売買価格を伏せるケースが多いようです。

まとめ

いかがでしたか?

三為契約(直接移転売買)の実務は、非常に複雑で難易度が高いですが、まずはその全体像をしっかり捉えることから始めてみてはいかがでしょう?

最後にもう一度、内容を確認しておきます。

□三為契約(直接移転売買)における2つの売買契約とその特約事項

売買1.【三為契約】売主をA、買主を宅建業者B、第三者をCとする

(特約事項)

1.買主は、売買代金全額の支払までに本件不動産の所有権の移転先となる者(買主を含む。)を指名するものとし、売主は、本件不動産の所有権を買主の指定する者に対し、買主の指定および売買代金全額の支払いを条件として直接移転するものとする。

2.買主は、売買代金全額の支払いまでに、所有権の移転先に指定した者から売主に対し受益の意思表示をさせるものとする。ただし、売主は、買主からの申し出があった場合には、その受益の意思表示の受領権限を買主に与えるものとする。

3.売主または買主が前項の受益の意思表示を受けたときは、売主は、買主がその者に対して負う所有権移転の債務を履行するために、その者に対し直接所有権を移転するものとする。

(社法)不動産流通推進センターHP 不動産相談 売買事例「0808-B-0077」

売買2.【他人物売買契約】売主を宅建業者B、買主をC、Aの所有権移転先をCとする

(特約事項)

本件不動産の所有権は、現在の登記名義人が所有しているので、本件不動産の所有権を移転する売主の義務については、売主が売買代金全額を受領した時に、その履行を引き受けた本件不動産の登記名義人である所有者が、買主に対しその所有権を直接移転する方法で履行するものとする。

(社法)不動産流通推進センターHP 不動産相談 売買事例「0808-B-0077」

□三為契約(直接移転売買)における契約締結から決済・引渡しまでの流れ

手順1.「売買1の契約の締結」

手順2.「売買2の契約の締結」

手順3.「売買1の決済・引渡し」+「売買2の決済・引渡し」

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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