【不動産】建て貸しとは?土地所有者の選択理由と建設協力金について

不動産会社で店舗・事務所等の事業用建物賃貸営業に携わっていると、ロードサイド型の事業用建物に、客付けする機会があると思います。

このような建物は、形状が個性的で、賃借人の業態が非常に限定されると感じませんか?

そもそもこのような形状の建物は、どういう経緯で建築に至ったのでしょう?

形状が個性的だと、建物が完成した後に賃借人を募っていたら、賃借人が現れないリスクがありそうですよね。

果たして物件所有者の方々は、そのようなリスクを犯してまで、汎用性が低そうな形状の建物を建てるものでしょうか?

実はこのような事業用建物は、建て貸しという、少し特殊な形態で建てられた可能性があります。

そこで今回は、建て貸しについてです!

この記事では建て貸しについて、不動産業に携わってまだ日が浅い方向けに、分かりやすくご説明します。

併せて、建築協力金というものについてもご説明します。

では、どうぞ。

目次

建て貸しとは

そもそも建て貸しとは、どういうものでしょう?

以下、基本的なことを確認しておきます。

建て貸しの概要

一般的に建て貸しとは、主に店舗・事務所等事業用建物賃貸借において、土地所有者が、その建物を賃借しようとする方の意向を取り入れて建築し、貸し出す形態を言います。

建物の賃借人予定者が予め決まっていて、その方の意向を踏まえて建物を建築し、貸し出す形態です。

建て貸しによる建物の所有者は、土地所有者と同一

建て貸しという形態で建てられた事業用建物の所有者は、あくまで土地所有者になります。

建てるに当たっては、その物件を使う賃借人の意向を可能な限り取り入れますが、それら意向を述べる側の者が、建物を所有することはありません。

建て貸しによる建物の所有者は、事業用借地による建物の所有者と異なる

慣れないと建て貸しと混同する賃貸借形態に、事業用借地というものがあります。

ご存じの通り事業用借地とは、土地所有者から土地を賃借し、その土地上に自ら所有する建物を建てる形態です。

建て貸しは、この事業用借地とは異なります。

上述の通り、建て貸しによって建てられた事業用建物の所有者は、土地所有者です。

建て貸しによる建物の賃貸借契約は、あくまで事業用の建物賃貸借契約です。

事業用借地契約ではありません。

土地所有者がその土地を有効活用する手段に建て貸しを採用する背景

このように建て貸しは、賃貸人が賃借人の意向を取り入れ、いわば賃借人のために、建物を建てて貸す形態です。

この形態は一見すると、賃借人側だけにメリットがあり、賃貸人にはメリットが無いような印象を受けます。

にもかかわらず、土地所有者(=建物の賃貸人)が、その土地の有効利用法として、建て貸しを選択するのは何故でしょう?

それには様々な要因があるようですが、分かりやすいところでは、下記のような要因があるようです。

・立地条件が建て貸しに相応しい。

・建物形状が建て貸しの選択を後押しする。

・土地所有者が建て貸しによる節税対策を検討している。

以下にこの3点について、少し踏み込んで見ていくことにしましょう。

建て貸しが選択される立地要因について

土地所有者がその土地を有効活用しようとする場合、公共交通による利便性や学校区等の立地的要因から、居住用賃貸物件よりも事業用賃貸建物のほうが好ましいが場合があります。

またすぐ近くに大きな住宅街があるものの、そのエリア付近に商業施設等が乏しい場合も、やはり事業用賃貸建物が好ましいです。

これらのような立地は例えば、ロードサイド型の1棟モノの店舗や医療施設、またはそれらを複合した施設等が適するとされています。

そしてこのような立地の土地に、採用される可能性がある形態が場合が建て貸しです。

建て貸し案件は、建て貸しを得意とする事業者が、そのプランを土地所有者に持ち込むことで、土地所有者に知らされるケースがあるようです。

その土地所有者が居住用建物による賃貸事業に難しさを感じている場合に、見込み賃借人付きの事業用賃貸建物プランが提案されることで、採用に至るケースがあるようです。

なお、その土地が事業用建物用地として適している場合、他の選択肢として、事業用借地も挙げることができます。

しかも現行の借地借家法においては、ご承知の通り、存続期間を最短10年とすることも可能です。

事業用建物に適する土地を所有する土地所有者は通常、建て貸しを選択肢にする場合、この事業用借地、とりわけ事業用定期借地も選択肢の1つとする場合が多いようです。

建て貸しが歓迎される建物形状について

上述の通り建て貸しは、土地所有者が、賃借人の意向を取り入れて建物を建て、それを貸し出します。

しかもその賃借人とは当然に、直近の賃借人に限定されます。

したがって、その賃借人が退去した後は、賃貸人はその建物をベースに、新たな賃借人を探さなければならなくなります。

そこで問題になってくるのが、その建物の形状です。

建て貸し物件は、その形状によっては汎用性が乏しく、当初の賃借人が退去した後、次の賃借人が見つけ辛い場合があります。

そしてこのような建て貸し案件は、どうしても土地所有者に警戒される傾向にあるようです。

このような建て貸し案件では、契約に際し、賃借人と賃貸人との間でより慎重な調整が図られ、どちらかと言えば、賃貸人側に手厚い内容で契約に至る傾向にあるようです。

また建て貸し案件によっては、その建物形状が汎用性に富み、当初の賃借人が退去しても、次の賃借人が見つけ易いイメージがある案件があるようです。

事業用建物賃貸営業に携わった経験がお有りの方々の中には、ロードサイド店舗にもかかわらず、募集がかかったらあっという間に申し込みが入ったり、水面下で既に次の借り手が決まっているような物件に、遭遇したことがある方もいらっしゃると思います。

そのようなタイプの建物を建てる予定の建て貸し案件は、土地所有者の方々に歓迎され易い傾向にあるようです。

建て貸しを節税対策に用いる件について

所有する土地を有効活用しようとする土地所有者の中には、節税対策として建て貸しを採用する方もいらっしゃるようです。

資産家の方々の中には、高額な所得税や住民税を納付する方もいらっしゃいます。

そのような方々の中には、建て貸しに要する建築費用を借り入れ、当面の不動産所得を赤字(損益)にして、それを他の所得と通算することで節税対策を講じたほうが、目下の不動産所得を黒字(利益)にするよりも、好ましいと判断する方がいらっしゃるようです。

今仮に、ロードサイド型の事業用建物用地に相応しい土地を所有する、資産家の方がいらっしゃるとします。

その方の元には、土地活用の提案を得意とする不動産業者から、建て貸し案件が持ち込まれていましたが、その資産家はそれに応じず、事業用借地として土地を貸し出そうと考えていたとします。

その資産家は念のため、顧問の税理士さんに意見を求めたとします。

するとその顧問の税理士さんは、その資産家とは逆に、建て貸しを推したとします。

顧問税理士さんはその理由として、その土地に建物を建てることで、その不動産における所得が高額な減価償却費によって損益経常になり、それを他の所得と通算すれば、結果として節税対策になるから、と説明したとします。

そしてこの資産家の方は、建て貸し案件に応じることにしたとします。

このように建て貸しは、その土地の立地的要因に加え、その土地所有者が節税対策を講じたいと考えている場合等に、採用される場合があるようです。

(注)

この記事では、建て貸しの相続税対策としての側面については、事業用借地による節税対策との差別化が難しいとする見解もあることから、言及を控えます。

建設協力金について

以上見てきた通り建て貸しは、土地活用の有効な手段の1つではあるものの、一定のリスクを伴うものとされていますが、一方で、そのようなリスクを軽減しようとする、様々なスキームも存続するようです。

そのスキームの1つに、建設協力金と呼ばれるものを用いるものがあります。

以下、建設協力金というものについて、見ていくことにします。

建設協力金とは、土地所有者が賃借人予定者の意向を取り入れて建物を建てようとする際に、その賃借人予定者が土地所有者に貸し付ける費用のことです。

分かりづらいですよね。

土地所有者はその土地に建物を建てるわけですが、それにはもちろん費用がかかります。

土地所有者は通常、その費用を銀行等から借り受けますが、それには一定の利子が発生します。

そこで登場するのが建設協力金です。

建設協力金とは、その建設費用を、賃借人予定者が、銀行に変わって土地所有者に貸し付けるお金のことを言います。

建設協力金は一般的に、銀行よりも低金利であるため、土地所有者側にも利用するメリットがあるとされています。

とは言え建設協力金は借りたお金なので、土地所有者はそのお金を返済しなければなりません。

その返済は一般的には、月割りで返済されます。

したがって、賃借人による賃借が、建設協力金を完済する前に解約となってしまったら、賃料収入は入らないものの、建設協力金の月払い返済だけが残るという事態になります。

また契約内容にやっては、建築協力金の完済前に解約となった場合、以後の建築協力金の返済が免除される特約が付される場合があるようですが、その場合その免除相当額は、賃料収入相当額として財務処理されますので、意図するよりも高額な所得税が課せられる恐れがあるようです。

建設協力金は、土地所有者(=賃貸人)のリスクを軽減する有効な手段であるものの、そのリスクを完済に消すものではないとされています。

したがって土地所有者が、建築協力金付きの建て貸しを検討しようとする場合であっても、一般的には事業用借地、とりわけ事業用定期借地との比較検討を、慎重に行うべきものとされています。

なお建設協力金を用いたこのスキームは、その資金を出資する賃借人側から見ると、本来自ら所有して使用・収益すべきところを、相手方に所有してもらい、自らは賃借人として、賃料を支払って使用・収益していると見ることができます。

居住物件や住居付き店舗物件においても、所有者がその物件を売却し、自らは賃借人の地位を得て、使用・収益を継続するというスキームがあり、このことをリースバックと言いますが、建設協力金を用いたこのスキームのことも、リースバック方式と言う場合があるようです。

まとめ

いかがでしたか?

建て貸しは、一部の不動産会社にとっては、比較的身近な形態であるようですが、多くの不動産営業員にとっては、あまり馴染みがないものだと思います。

とは言え、事業用建物賃貸物件のオーナー様方や、それら物件を賃借しようとするお客様方(とりわけチェーン店の方や医院開業希望者)は、よくご存じだったりします。

不動産営業に携わっていると、そのようなオーナー様やお客様に接する機会もあると思いますので、この機会に是非、建て貸しの概要だけでも押さえておきましょう!

最後にもう一度、内容を確認しておきます。

□建て貸しとは

・土地所有者が、その建物を賃借する方の意向を取り入れて建築し、貸し出すこと。

・建て貸しでの建物の所有者は土地所有者。

・事業用借地とは異なる。

□土地所有者が有効活用の手段として建て貸しを選択する背景

・立地的に居住用建物よりも、事業用建物な相応しい場合に選択の余地あり。

・建て貸しは建物の汎用性が高い程、歓迎される傾向にある。

・建て貸しは、土地所有者が税金対策を検討している時に選択される場合がある。

□建設協力金につい

・建設協力金とは、賃借人予定者が、土地所有者が建物を建てる際に貸し付けるお金。

・完済する前に契約が終了したら、賃料が入らず、返済だけが残るリスクがある。

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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