【不動産】】崖(がけ)条例とは?その全体像と建築の際の制限内容

不動産会社で売買営業に携わっていると、崖(がけ)条例という言葉を耳にすると思います。

この崖(がけ)条例とは、一体どういうものなのでしょう?

この記事では、崖(がけ)条例について、他の法令との関連性を見ていきながら、その内容、更には重要事項説明における注意点について、不動産売買営業初心者の方向けにご説明します。

全体像を捉えるのが少し難しい崖(がけ)条例ですが、一緒に見ていきましょう!

では、どうぞ。

目次

崖(がけ)条例とは

そもそも崖(がけ)条例とは、どういうものなのでしょう?

それは概ね、下記のようなものです。

「一定の高さを超える崖(がけ)の上もしくは下に、居室を有する建築物を建築する場合は、一定の距離を空けるか、擁壁の設置その他安全上適当な一定の措置を講じなければなりません。」

いかがでしょう?

何となく崖(がけ)条例の全体像が捉えられたでしょうか?

とは言え、まだ漠然としすぎすよね!

そもそも文中の「一定の高さ」とか「一定の距離」とは、何メートルなのでしょう?

また「(擁壁の設置その他安全上適当な)一定の措置」とは何なのでしょう?

「一定の…」ばかりで、困りますね!

結論から申しますと、「一定の高さ」とは2メートルないし3メートルで、「一定の距離」とは、その「一定の高さ」の2倍です。

・一定の高さ⇒2メートルないし3メートル

・一定の距離⇒その2倍

崖(がけ)条例は、文字通り条例なので、その細かい内容は、都道府県や政令指定都市ごとに異なります。

Aという都道府県では「高さ2メートル」で「距離がその2倍」ですが、Bという政令指定都市では「高さ3メートル」だったりします。

なお「一定の措置」については、少しややこしいので後述します。

ここまでで、「一定の高さ」と「一定の距離」は分かりました。

でもまだ何となく、ボワーッとしてませんか?

今まで崖(がけ)条例についてお調べになった経験がある方は、分かると思いますが、崖(がけ)条例は、建築基準法や都市計画法とは少し違う、一種独特な捉え辛さがあるようです。

それは何故でしょう?

それはもしかしたら、崖(がけ)条例が、建築基準法や都市計画法のような法律でなく、条例だからなのかもしれません。

そもそも条例とは、国が定めた法令(法律や命令)の範囲内で、地方公共団体が定めることができる法規を言うとされています。

したがって崖(がけ)条例も、国が定めた何らかの法令に依存しているはずです。

もしかしたら崖(がけ)条例は、依存しているそれら法令との関係性を紐解くことで、幾分捉え易くなるかもしれません。

以下に、崖(がけ)条例と、崖(がけ)条例が依存する主要法令について、1つづつ順序立てて見ていくことにしましょう

崖(がけ)条例の崖(がけ)は、都市計画法及び宅地造成等規制法の崖(がけ)

崖(がけ)条例とは文字通り、崖(がけ)に関する条例ですが、そもそも崖(がけ)とはどういう物でしょう?

実は崖(がけ)については、都市計画法及び宅地造成等規制法で、「30度を超える角度をなす土地で、硬岩盤(風化の著しいものを除く)以外のものをいう」と、定義されています。

【「都市計画法」による崖(がけ)の定義】

地表面が水平面に対し三十度を超える角度を成す土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいう。

「都市計画法施行規則第16条第4項(表の造成計画平面図欄の第2項)」e-Govポータル 『デジタル庁』

【「宅地造成等規制法」による崖(がけ)の定義】

この政令において、「崖がけ」とは地表面が水平面に対し三十度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいい、「崖面」とはその地表面をいう。

「宅地造成等規制法施行令第1条第2項」e-Govポータル 『デジタル庁』

しかしこれだけでは、その高さは示されていません。

そこで高さについては、崖(がけ)条例で、2メートルないし3メートルと定められています。

崖(がけ)条例は、建築基準法第40条を根拠にしている

繰り返しになってしまいますが、崖(がけ)条例は条例であり、国が定める法令の範囲内で定めることができることになっています。

では崖(がけ)条例は具体的に、国が定める何という法令を根拠にしているのでしょう?

それは具体的には、建築基準法の第40条です。

建築基準法の第40条では、下記のように定めています。

(地方公共団体の条例による制限の附加)
第四十条 地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによつては建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる。

「建築基準法第40条」e-Govポータル 『デジタル庁』

建築基準法第40条ではこのように、「地方公共団体は条例で、必要な制限を附加できる」と述べています。

そして崖(がけ)条例は、これを根拠に定められています。

崖(がけ)条例は、建築基準法第19条第4項を補完している

上記の建築基準法第40条では、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによって目的を達し難い場合は、条例で附加てきる、と述べています。

なお、ここで述べられている「この章」とは、建築基準法の第二章のことで、第19条から第41条のことです。

では崖(がけ)条例は、建築基準法第19条から第41条の中の、どの部分を附加する条例なのでしょう?

それは、建築基準法第19条第4項という箇所になります。

建築基準法第19条第4項では、下記のように定めています。

(敷地の衛生及び安全)
第十九条
4 建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない。

「建築基準法第19条第4項」e-Govポータル 『デジタル庁』

実は崖(がけ)条例は、この建築基準法第19条第4項を補完する条例なのです。

崖(がけ)条例の名称について

ご説明が遅れましたが、実は崖(がけ)条例という名称は、正式名称ではありません。

正式名称は、各都道府県または政令指定都市で異なります。

それらは例えば、下記のようになります。

・宮城県:建築基準条例第5条

・東京都:東京都建築安全条例第6条

・神奈川県:神奈川県建築基準条例第3条

・横浜市:横浜市建築基準条例第3条

・愛知県:愛知県建築基準条例第8条

・名古屋市:(愛知県建築基準条例第8条が適用)

・福岡県:福岡県建築基準法施行条例第5条

・福岡市:福岡市建築基準法施行条例第5条

・北九州市:(福岡県建築基準法施行条例第5条が適用)

崖(がけ)条例の対象となるに崖(がけ)に近接して建築するための一定の措置とは

ここまで崖(がけ)条例は、都市計画法と宅地造成等規制法で定める崖(がけ)の定義に基づき、建築基準法40条を根拠として、建築基準法第19条第4項を補完する条例であることが確認できました。

そしてその内容は概ね、「2メートルないし3メートルを超える崖(がけ)の上もしくは下に、居室を有する建築物を建築する場合は、その高さの1.5倍ないし2倍の距離を空けるか、擁壁の設置その他安全上適当な一定の措置を講じなければならない」というものでした。

ではこの崖(がけ)条例における、「擁壁の設置その他安全上適当な一定の措置」とは、具体的にどういうものでしょう?

それは厳密には、それぞれの条例ごとに差異はあるようですが、概ね下記の4つになるようです。

1.擁壁を設置して、崖(がけ)の崩壊が発生しないようにする。

2.「地盤が強固なので崖(がけ)の崩壊は発生しない」ということを、調査等によって明らかにする。

3.崖(がけ)の上に建築する場合、建築物の下に高強度の杭を打つなどして、崖(がけ)が崩壊しても建築物が損壊、転倒、滑動、沈下しない構造にする。

4.崖(がけ)の下に建築する場合、崖(がけ)と建築物の間に土留を設置したり、崖(がけ)面の壁に開口部が無い鉄筋コンクリート造の建築物にするなどして、崖(がけ)の崩壊に伴う土砂の流入に対する安全性を確保する。

要約すると、擁壁を設置する、強固であることを証明する、崖(がけ)上では杭等を打って建築する、崖(がけ)下では土留めするか鉄筋コンクリートにする、といったところでしょうか。

崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)を伴う不動産売買について

ここまで崖(がけ)条例のおおまかな内容について見て参りましたが、不動産売買で、崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)を伴う物件を扱う場合、宅建業者はどういう点に気を付ければいいのでしょう?

その主なポイントを、以下で見ておくことにしましょう。

不動産売買における崖(がけ)条例の説明義務と過去の判例

不動産売買で扱う物件に崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)が存在する場合、宅建業者はその崖(がけ)について、必ず買主様に説明しなければなりません。

宅建業者が重要事項説明で説明しなければならない事項を定めた宅地建物取引業法施行令第3条には、崖(がけ)条例のことは挙がっていません。

しかし、その物件に崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)か存在するかどうかは、買主様の購入意思を大きく左右する要因です。

買主様の意思決定に大きく関わる事項は、重要事項説明で説明しなければなりません。

よって崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)についても、説明しなければなりません。

崖(がけ)条例をめぐる過去の判例に、重要事項説明書に崖(がけ)条例の適用の可能性がある旨の記載があったものの、買主様に口頭で曖昧な説明をしてしまったがために、説明不充分と判断され、媒介業者に損害賠償を命じられた事例があります。

崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)を伴う不動産を売買対象とするときは、その旨を重要事項説明書にしっかり記載すると共に、しっかり説明を行い、買主様に、崖(がけ)条例の崖(がけ)による不利益を充分ご理解頂いた上で、契約を締結しなければなりません。

崖(がけ)が崖(がけ)条例の対象かどうか判断がつかない場合は役所に相談

一口に崖(がけ)と言っても、様々なタイプの崖(がけ)があると思います。

中には、その崖(がけ)が崖(がけ)条例の対象となるかどうか、にわかには判断つかない場合もあると思います。

更には、その崖(がけ)の高さが2メートル(ないし)3メートルを越えていても、既に擁壁が施されている場合もあります。

ところがその擁壁が、必ずしも、現行の崖(がけ)条例に適合しているとは限りません。

つまりその崖(がけ)が、崖(がけ)条例の対象となるかどうかは、簡単には判断できない場合は少なくないのです。

では取引対象不動産に、これら判断に迷う崖(がけ)が存在する場合、不動産売買の営業員はどうしたらいいでしょう?

そういう場合には、そのエリアを管轄する役所の建築審査課等に相談するようにしましょう。

予め電話をして、「取引対象となる不動産の近くに崖(がけ)っぽいのがあり、それが崖(がけ)条例の対象になるかどうか解らないなで、窓口で相談したい」と申し伝えましょう。

すると大抵の場合、その崖(がけ)の写真や地図等を持ってお越しください、と言われます。

それら役所から求められた資料を準備して、窓口に行くとスムーズです。

崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)であることが明らかな場合であっても役所への確認は必須

上記と一部重複しますが、不動産売買で崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)を扱った経験が、まだおまり豊かでない場合、「この崖(がけ)は崖(がけ)条例の対象ではない!」と安易に結論付けるのは、非常に危険です

加えて、崖(がけ)条例の対象となることが明らかな場合であっても、その制限内容等を適切に把握するのは、やはり最初のうちは難しいです。

したがって結論としては、その崖(がけ)が崖(がけ)条例の対象となることが明らである場合を含め、いずれにせよ、それらしき崖(がけ)が近くに存在する場合は、最初のうちは、躊躇することなく、役所の建築指導課等に確認することをお勧めします。

崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)が存在する場合の特約事項

不動産売買において、取引対象不動産が崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)と関係してくる場合、特約事項にその内容を盛り込んで、買主様にご説明する義務があることは、上述した通りです。

ではその特約事項の内容とは、どういうものでしょう?

その前に1点、押さえておきたいことがあります。

まず実務においては、取引対象となる不動産が、仮に中古戸建住宅だったとして、その物件が崖(がけ)条例の規制の範囲内に存在することが明らかになった場合、一般的にはその建物を解体し更地として売却するか、古家付き土地として売却するかになろうかと思います。

つまりいずれにせよ、崖(がけ)条例の対象となる不動産売買は、主に土地売買になります。

さて、では崖(がけ)条例と関係してくる土地売買における特別事項とは、一般的にどういうものでしょう?

実際の特約作成においては、ケースバイケースであり、その詳細内容については、勤務先が所属する団体に相談して作成すべしですが、一般的には、下記のような内容を盛り込むことになろうかと思います。

・本土地が、○○県建築基準法施行条例第○条の対象となる崖(がけ)の下(上にある場合は上)に存在する旨。

・買主が、当該崖(がけ)の下端(上にある場合は上端)から崖(がけ)の高さの2倍の範囲内に、居室を有する建築物を建築する場合は、規制を受ける旨。

・またその規制により、当該建築物の安全性を確保するための措置を講じなければならない旨。

・その措置に要する工事費等一切の費用は買主が負担する旨。

(・必要に応じ、その措置のための具体的工事内容、擁壁設置や杭打ち込みや鉄筋コンクリート造にすること等。)

なお上記判例でもご説明した通り、これら特約事項は、重要事項説明書や売買契約書に特約事項として記載しただけでは駄目で、買主様にしっかりご説明し、崖(がけ)条例に関係してくる不動産を購入することのデメリットをしっかりご理解頂く必要があります。

まとめ

いかがでしたか?

崖(がけ)条例には、重要事項説明の説明義務があると共に、場合によっては、その崖(がけ)が対象となるかどうか、判断を誤る恐れもあります。

したがって不動産売買営業の経験が豊かでないうちは、扱う不動産にそれらしい物が存在する場合は、「それは崖(がけ)条例の対象となる崖(がけ)かもしれない」という前提に立って、調査を進めることが重要です。

最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。

□崖(がけ)条例とは

「一定の高さを超える崖(がけ)の上もしくは下に、居室を有する建築物を建築する場合は、一定の距離を空けるか、擁壁の設置その他安全上適当な一定の措置を講じなければなりません。」

・一定の高さ⇒2メートルないし3メートル

・一定の距離⇒その2倍

・一定の措置⇒擁壁の設置/強固であることの証明/杭等/鉄筋コンクリート造等

□崖(がけ)条例と国の法令

・崖(がけ)とは⇒都市計画法施行規則第16条第4項(表の造成計画平面図欄の第2項)/宅地造成等規制法施行令第1条第2項

・崖(がけ)条例は建築基準法第40条が根拠

・崖(がけ)条例は建築基準法第19条第4項を補完

□崖(がけ)条例の重説

・指定範囲内に建築場合は規制を受ける。

・その場合は安全性確保の措置が必須。

・その工事費等の費用は買主が負担。

(・必要に応じて擁壁設置・杭打ち込み・鉄筋コンクリート造等。)

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました、

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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