高圧線(送電線)の下の土地の建築制限と地役権や線下補償料の有無

不動産会社で売買営業をやっていると、高圧線(送電線)の真下にある物件を扱うことがあると思います。

高圧線(送電線)下のこのような土地は、建築が制限されることが多いのをご存じですか?

この記事では、不動産売買における高圧線(送電線)下の土地の建築制限について、わかりやすくご説明します。

また高圧線(送電線)下の土地には、地役権というものが設定されたり、場合によっては、その高圧線(送電線)を扱っている電力会社から補償料が支払われたりします。

この記事では、それらの点についてもご説明します。

では、どうぞ。

目次

土地の所有権はその土地の上空にも及ぶ

高圧線(送電線)下の土地を扱おうとする場合、大前提として、どうしても知っておかなければならないことがあります。

それは、土地の所有権は、その土地の上空にも及ぶ、ということです。

そのことは、民法で明らかにされています。

(土地所有権の範囲)

第二百七条 土地の所有権は、法令の制限内において、その土地の上下に及ぶ。

e-Govポータル 『デジタル庁』

したがって、電力会社が他人の土地の上空に電線を通過させる場合には、結果として、他人の所有空間上空を「使用させてもらう」ことになります。

そして一般的には、その対価として、一定のお金が支払われます。

そしてこの時支払われるお金のことを、線下補償料と言ったりします。

敷地内に電力会社やNTTの電柱がある場合に、電力会社やNTTから電柱敷地料が支払われますが、高圧線(送電線)の線下補償料は、捉え方としては、これらのケースと同一です。

空間は土地ではありませんが、立派な所有対象である、ということです。

高圧線(送電線)の下の土地には地役権が設定されている

そして高圧線(送電線)下のこのような土地には、一般的に、地役権という権利が設定されます。

電力会社が他人の空間を「使用させてもらう」という権利は、しっかりとした、強固なものでなければなりません。

土地の所有者が入れ替わる度に危ぶまれるような弱い権利では、その高圧線(送電線)に電気供給を依存する方々は困惑してしまいます。

加えて、高圧線(送電線)下の土地所有者に、高圧線(送電線)の安全性を脅かすような建築物を建てられたりしたら、やはり困ってしまいます。

そこで電力会社は通常、高圧線(送電線)下のこのような土地に対し、地役権という権利を設定し、その上空を「使わせてもらう」という権利を守ると共に、その下の土地を、一定の目的で利用できるようにしています。

そしてその結果、その土地は、建築行為を初めとする一定の権利が制限されることになるわけです。

高圧線(送電線)の下の土地に設定される地役権の内容について

では実際に、高圧線(送電線)の下の土地に設定される地役権の内容とは、どういうものでしょう?

それは概ね、下記のような事項かと思います。

1.本件土地上空に送電のために電線路(支持物を除く)を施設すること。

2.送電線の設置・保守等のために、地役権者が土地に立入ることがあること。

3.送電線の最下垂時における電線から3.6mの範囲内に家屋、工作物の設置及び竹木の植栽などをしないこと。

4.送電線の設置・保守等に支障となる土地の形質変更等を行えないこと。

5.爆発性・引火性のある危険物の製造・取扱いおよび貯蔵等を行えないこと。

6.地役権の範囲。

7.地役権の要役地の場所。

8.地役権図(地役権の設定範囲が示された図)の番号等。

なお上記文中に、分かりづらい言葉があると思いますので、参考まで、以下にその意味の説明を添えておきます。

・「電線路」→高圧線(送電線)や鉄塔など、送電設備一体のこと。

・「支持物」→鉄塔のこと。支持物を除く電線路とは、すなわち高圧線(送電線)のこと。

・「地役権者」→ここでは電力会社。

・「最下垂時」→電線は、季節によって延びたり(真夏)縮んだりするものとされており、最下垂時とは、一番下にある電線が最も伸びて垂れ下がった時のこと。

・「要役地」→その土地に地役権を設定することで、利便性が高まる土地のこと。この場合具体的には、電力会社が所有する土地。なお逆に、設定される側の土地のことを承役地と言います。

・「地役権図」→地役権の設定範囲が示された図。物件によっては、地役権の範囲内と範囲外とで文筆されている場合があり、その場合は、地役権の範囲はその土地全部になることから、地役権図の備え付けが割愛され、無い場合あり。

不動産売買における、高圧線(送電線)の直下または近隣にある土地の調査方法

不動産の売買等で扱おうとする土地が、高圧線(送電線)の直下または近隣にある場合、不動産業者はしっかり調査を行う必要があります。

調査は電力会社に電話するなどして、下記事項等を聞き取るようにします。

・建築の制限の内容。

・線下補償料が支払われているかどうか。

・建築の計画段階における、協議や届出等の有無。

扱おうとする土地が高圧線(送電線)の直下にあり、登記情報などから地役権が設定されていることが明らかな場合は、その制限の内容に即して確認していき、不明点があれば説明を求めたりします。

一方、その土地が高圧線(送電線)の直下でなく近隣にあり、登記情報を見ても地役権の設定が見受けられない場合は、より一層注意しながら聞き取る必要があります。

くれぐれも独断で、「きっと制限は無いだろう」と結論づけず、電力会社の職員からしっかり聞き取りを行いましょう。

場合によっては、「だいたい2階建ぐらいまでだったら建てられますが、細かい点は、実際の建築(増改築)計画を確認させて頂かないと、何とも言えません」と言われる場合もあります。

そういう場合は、「建築・増改築の場合は電力会社と協議が必要」等の文章を、特約事項に盛り込むなどして、その旨をしっかり重要事項説明に反映させましょう。

また重要事項説明書を作成するにあたり、悩んだり迷ったりした場合は、躊躇することなく宅建協会や全日等、勤務先が所属する団体等に問い合わせるようにしましょう。

なお電力会社への電話についてですが、電力会社によっては、すぐには担当部署の電話番号が見つけ出せず、まずはコールセンターに電話して、そこから辿って行かなけれはならない場合もあると思います。

しかも高圧線(送電線)下の地役権等については、電力会社のコールセンターの方もよくご存じでなく、こちらが意図した箇所とは異なる箇所に回される場合もあると思います。

電力会社によっては、電話を担当箇所に繋いでもらうまでに、骨が折れる場合もあると思いますが、該当箇所は必ずありますので、根気よく辿って行きましょう。

【重要】不動産売買における、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の重要事項説明

不動産売買で扱おうとする土地が、高圧線(送電線)の直下または近隣にある場合、宅建業者は買主様に対し、そのことを重要事項説明で説明する必要があります。

これはとても重要ですので、少し細かく見ていきます。

高圧線(送電線)の直下または近隣の土地について、重要事項説明が必要な理由

言うまでもなく、不動産の購入は、お客様方にとって、とても大きな決断です。

そしてその意志決定は、その不動産に関するありとあらゆる事項を判断材料として行われます。

宅建業者は、買主の契約締結の意思決定に影響を及ぼす事項についは、重要事項説明を行わなければならないことになっています。

そして購入を検討する方々にとっては、その土地が高圧線(送電線)の直下または近隣にあるという事実は、意志決定に影響を及ぼす大きな事項に当たります。

そのことは例えば、インターネット等で「高圧線 土地購入」というワードを検索してみるとよく分かります。

その土地を一旦は購入しようとするも、高圧線(送電線)の下の土地ということで、やっぱり見送った、といったような記事を、容易に見つけ出すことができます。

不動産の購入の意志決定に、高圧線(送電線)の存在が大きく影響を及ぼしている事例と言えます。

扱おうとする土地が、高圧線(送電線)の直下または近隣にある場合、 重要事項説明でそのことを説明する義務があるということを、しっかり押さえておきましょう。

過去の判例に見る、宅建業者による高圧線(送電線)の直下または近隣の土地についての重要事項説明の重要性

(公社)不動産流通推進センターのホームページでは、宅建業に関する過去の判例を閲覧することができます。

その中に、「高圧線(送電線)の振れ幅下地であることの調査説明義務違反を理由とする買主の宅建業者に対する慰謝料請求が認められた事例」というものもあります。

不動産売買の現場営業員にとっては、意に留めておくべき重要な判例かと存じます。

その事例によれば、買主側の宅建業者は、高圧線(送電線)の振れ幅下地であることの説明を買主様にしなかった為に、買主様に慰謝料を払うことになった、ということです。

不動産の売買営業員は、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地について、重要事項説明をやらなかった場合に、慰謝料を請求される恐れがあるようですので、しっかり説明するようにしましょう。

高圧線(送電線)の直下または近隣の土地についての重要事項説明の内容

ではその重要事項説明は、どのようなものなのでしょう。

記載すべき事項としては、概ね調査事項と重複しますが、下記の通りであろうかと存じます。

・建築の制限の内容。

・線下補償料が支払われているかどうか。

・建築の計画段階における、協議や届出等の有無。

・本件土地を第三者に譲渡する場合、譲受人に本内容を承継させること。

実は、宅建業者が所属する団体(宅建協会・全日・FRK・全住協)はどこでも、不動産売買における、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の重要事項説明の内容について、定型文を用意しています。

まずはその定型文を入手しましょう。

そして調査対象の土地の実態と定型文とで内容に相違がある場合は、定型文を実態に合わせて修正しましょう。

重要事項説明の文言作成のポイントは、制限等の内容を、担当の売買営業員が正しく把握することにあろうかと存じます。

不明点がある場合は、電力会社なり、所属の団体なりに、躊躇することなく問い合わせ、疑問点をクリアにした状態で、作成するようにしましょう。

不動産売買における、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の売り出し価格について

一般的に、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地を売り出そうとする場合、そうでない土地よりも、幾分価格を低めに設定するケースが多いようです。

では幾らぐらい、低めなのでしょう?

その点については、最終的にはその物件次第と言えそうですが、減額の根拠とされる要素としては、主に下記の3つが挙げられるようです。

1.建築不可の部分がある土地。

2.建築不可ではないが、建築が制限される部分がある土地。

3.建築が不可でもなく制限もされないが、マイナスイメージの土地。

このうち1の建築不可の部分がある土地については、土地全体のうち、建築不可に相当する部分を大幅に減額し、売り出し価格とする場合が多いようです。

建築計画において、建築不可部分があまり障害とならない場所だったら幸いですが、そこが建築不可であるが故に、建築計画に大幅な制約を受けるとなると、やはり売り出し価格はグンと低めに設定するのが一般的であるようです。

とは言えこの1のケースは、不動産売買の現場においては、実際には極めて稀なケースと言えそうです。

現場でも比較的あるのが、2のケースかと思います。

この2の場合も、考え方は1の場合と同じで、土地全体のうち、建築が制限される部分を減額する場合が多いようです。

ただしその減額割合は、建築不可の場合ほどには大きくないようです。

この1の場合と2の場合については、公的機関である国税庁も、現に評価額を減額しているようです。

その点を鑑みると、不動産業者による、これらの土地の減額査定は、客観性のある妥当なものであると言えそうです。

更に3の場合は、特段の制限は無いものの、高圧線(送電線)の下または近隣という事実それ自体を敬遠されるお客様方が実際いらっしゃるということで、少し減額して売り出すといのが一般的であるようです。

ちなみによく耳にする、高圧線(送電線)下の電磁波による建築被害等についてですが、上述した(公財)不動産流通推進センターの判例においても、「科学的根拠に基づいた具体的・客観的なものとは言えない」と判断しています。

不動産会社の売買営業員として、高圧線(送電線)の直下または近隣の土地を売り出す場合、また購入希望者に物件提案する場合には、その土地のもつこのような特性を念頭に置いておくと良いようです。

まとめ

いかがでしたか?

高圧線(送電線)の直下または近隣の土地は、扱う機会はそう多くはないと思いますが、購入の意志決定に大きな影響を及ぼす事項ですので、扱う時は調査並びに重要事項説明を忘れないようにしましょう。

最後にもう一度、内容を確認しておきます。

□土地の所有権はその上空にも及ぶ

□高圧線(送電線)下の土地の地役権の内容

電線路(支持物を除く)を施設/立入り/最下垂時3.6m制限/土地の形質変更等の制限/危険物の製造・取扱い・貯蔵等の制限/地役権の範囲/地役権の要役地の場所/地役権図の番号等

□高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の調査

電力会社に電話→建築制限の内容/線下補償料/協議や届出等の有無

□高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の重要事項説明

建築制限の内容/線下補償料/協議や届出等の有無/第三者譲渡の場合の譲受人への承継

□高圧線(送電線)の直下または近隣の土地の売り出し価格設定

減額の要素3つ→建築不可/建築制限/マイナスイメージ

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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