【賃貸】国土交通省原状回復ガイドラインにおける「原状回復」の定義

不動産会社で住居賃貸に携わっていると、「原状回復」の理解が大切ですが、国土交通省の原状回復ガイドラインは、もう読みましたか?

特に戸惑うことなく読み進めた方もいらっしゃると思いますが、中には「原状回復」の定義のところで、少し困惑した方もいらっしゃるのではないでしょうか?

この記事では、国土交通省の原状回復ガイドラインにおける「原状回復」の定義について、「原状回復」という言葉の他の用いられ方と対比しながらご説明します。

この記事を読めば、原状回復ガイドラインにおける「原状回復」の定義が、しっかり押さえられますよ!

では参りましょう。

(注)

この記事では、国土交通省の原状回復ガイドラインにおける原状回復の定義についてのみ説明しております。ガイドラインの内容そのものの詳細については説明しておりません。

目次

不動産賃貸借の現場における「原状回復」という言葉の2つの用いられ方

本題の国土交通省の原状回復ガイドラインについて触れる前に、「原状回復」という言葉の用いられ方について、確認しておきたい点がございます。

実は「原状回復」という言葉は、不動産賃貸の現場においては、その時々で異なる2つの用いり方をすることにお気づきですか?

2つの用られ方が混在する様は、インターネットで「原状回復」という言葉を検索してみるとよくわかります。

ある記事では「原状回復」を「賃借人が退去する際に入居時と同じ状態に戻すこと」と述べ、またある記事では「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」と述べています。

これは「原状回復」とする範囲を、オーナー様(賃貸人)の負担分も含めるか含めないかの違いです。

「入居時と同じ状態に戻すこと」では賃貸人の負担分も含めます。

例えば原状回復工事の「原状回復」がそうです。

賃貸物件を管理している管理会社は、賃借人が退去したら内装業者に工事を依頼しますが、この時の工事を原状回復工事と言ったりすると思います。

そしてこの原状回復工事という言葉における「原状回復」は、賃貸人の負担分も含めています。

一方、「入居時と同じ状態に戻すことではない」とする場合では、賃貸人の負担分は含まず、賃借人負担分についてのみを「原状回復」とします。

そしてこれこそが、国土交通省の原状回復ガイドラインにおける「原状回復」です。

このように不動産賃貸を取り巻く現場では、「原状回復」という言葉が2つの意味合いで用いられています。

果たしてこの2つは、どちらが正しいのでしょう?

結論から申しますと、どっちが正しくて、どっちが誤りということではないようです。

不動産賃貸の現場を取り巻く様々な方々が、様々な視点からこの「原状回復」という言葉を用いる結果、このように現に2つの用られ方が存在しているようです。

視野を広げてみると、このような混在現象は頻繁に見受けられます。

稚拙な例で申し訳ありませんが、「ご飯」という言葉などもそうです。

「ご飯」はおかずも含めた食卓に並ぶ食べ物すべてを言う場合もあれば、お米だけを言う場合もあります。

ただし不動産賃貸における、より専門性の高い場面においては、「原状回復」という言葉は、「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」とするのが良いようです。

なぜなら国土交通省の原状回復ガイドラインがそうだからです。

原状回復ガイドラインにおける「原状回復」の定義

国土交通省の原状回復ガイドラインは正式名称を「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」といいます。

そしてここでは「原状回復」を、「賃借人が借りた当時の状態に戻すことではない」としたうえで、下記のように定義しています。

「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」

国土交通省住宅局 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」

原状回復ガイドラインではまず、賃借人の賃借による建物の損耗等を、以下の5つの言葉であらわしています。

A.賃借人の故意・過失による損耗等

B.賃借人の善管注意義務違反による損耗等

C.その他賃借人の通常の使用方法を越えるような使用による損耗等

D.経年劣化

E.通常損耗

そしてこれら5つうち、A、B、Cの復旧を原状回復としています。

(ちなみに、上記で述べた原状回復工事においては、A、B、C、D、Eすべての復旧、すなわち「借りた当時の状態に戻すこと」を「原状回復」としています。)

繰り返しになりますが、国土交通省の原状回復ガイドラインにおいては、D、Eの賃貸人負担分である損耗等の復旧は、「原状回復」としていません。

この点はとても大切ですので、しっかり押さえておきましょう。

原状回復ガイドラインの「原状回復」と標準契約書の「原状回復」

私たち宅建業者が扱う賃貸借契約書の指針となるものに、標準契約書というものがあります。

やはり国土交通省が監修しています。

そして悩ましいことに、標準契約書においては「原状回復」という言葉の範囲が、賃貸人の負担分も含んでいるように読めてしまいます。

そう読めるだけであって、実際はそう書かれていないかもしれません。

とは言え少なくとも、「賃借人負担分のみを原状回復とする」等の記述はありません。

標準契約書では、第14条(明渡し時の原状回復)及び別表第5(第14条関係)の箇所で、「原状回復」について述べています。

もちろん建物の損耗の復元における賃借人負担分と賃貸人負担分の線引きそのものは、原状回復ガイドラインと相違しません。

しかし原状回復ガイドラインが「原状回復」を賃借人の負担分についてのみ用いることとしているのに対し、標準契約書では賃貸人の負担分含め、「原状回復」としているように読めてしまいます。

原状回復ガイドラインでは「原状回復の賃貸人負担分」という概念すら存在しないこととしているのに対し、標準契約書では賃貸人負担分までを含んで「原状回復」とした上で、「ここまでが賃借人、ここからは賃貸人」という捉え方をしているように読めます。

いわば原状回復工事で言う「原状回復」の用いられ方に近い印象を受けます。

共に国土交通省監修というところが、私たち現場の者としては悩ましいです。

原状回復ガイドラインの誕生の要因には、もしかしたらこのあたりを補う意図もあったのかもしれません。

当該ガイドラインの8ページ、「Ⅱ 契約の終了に伴う原状回復義務の考え方」の「1 賃借人の原状回復義務とは何か」の箇所を読んでいると、そのような印象を受けます。

【重要】宅建業従業者が迷った時の判断基準としての原状回復ガイドライン

ここまで「原状回復」という言葉の用いられ方、国土交通省の原状回復ガイドラインの「原状回復」の定義について、述べて参りました。

「原状回復」という言葉は、その範囲に、賃貸人の負担分を含める場合と含めない場合があるものの、国土交通省の原状回復ガイドラインでは、含めないとしていることが、お分かり頂けたと思います。

そしてこのことは、より専門性を要する場面でもし判断に迷ったら、「賃貸人の負担分を含まない」とするのが好ましいことを意味します。

仮に契約書の特約に、「賃借人は原状回復をして明け渡しをしなければならない」とだけ書かれていたとします。

この場合賃借人は、上記の建物の損耗等のA、B、C、D、Eすべてを復旧しなければならないのでしょうか?

答えは「否」です。

賃借人が復旧しなければならないのは、A、B、Cのみです。

なぜなら「原状回復」という言葉自体が、A、B、Cのみを復旧することだからです。

国土交通省の原状回復ガイドラインのQ&Aが、そのことを示しています。

「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版のQ&A)Q5

私たち現場の者にとっては、とても心強い内容ですね!

原状回復ガイドラインの位置付け

国土交通省の原状回復ガイドラインを判断基準とする際に、分かっておかなければならないことが幾つかあります。

以下にまとめました。

【重要】原状回復ガイドラインは住居賃貸を対象としている

私たち宅建業者が取り扱う不動産賃貸は、住居賃貸、事業用建物賃貸、土地賃貸等様々あります。

そしてこれら不動産賃貸の中でも、原状回復ガイドラインが対象としているのは、あくまで住居賃貸になります。

原状回復ガイドラインは強制ではない

原状回復ガイドラインは、住居の賃貸借契約の当事者に強制されるものではありません。

退去に伴う損耗の復旧に関する規定は、原状回復ガイドラインに定めている通りにしなければならない、というわけではありません。

原状回復義務は強行規定ではない

原状回復ガイドラインは、民法の原状回復義務に基づきますが、民法の原状回復義務自体が、いわゆる強行規定ではありません。

したがって、民法の原状回復義務、国土交通省の原状回復ガイドラインと異なる特約であっても双方が合意し、公序良俗・消費者契約法に反していなけければ有効です。

仮にその特約内容が賃借人に不利であっても同様です。

まとめ

いかがでしたか?

不動産の住居賃貸の「原状回復」では、有効な特約を優先としつつ、国土交通省の原状回復ガイドラインを参考にして参りましょう。

以下にもう一度、内容を確認しておきます。

□「原状回復」の2つの用いられ方

・賃貸人の負担分を含む→「入居時と同じ状態に戻すこと」

(例)原状回復工事の「原状回復」

・賃貸人の負担分を含まない→「入居時と同じ状態に戻すことではない」

(例)原状回復ガイドラインの「原状回復」

□国土交通省の原状回復ガイドラインの「原状回復」

建物の損耗のA、B、C、D、EのうちA、B、Cが該当→賃借人が負担分が該当

(原状回復工事の「原状回復」では、A、B、C、D、Eすべてが該当し、賃借人負担分がA、B、C、賃貸人負担分がD、E。なお標準契約書の「原状回復」も同様の印象。)

□特約に「賃借人は原状回復をして明け渡しをしなければならない」とあった場合

賃借人はA、B、Cのみ復旧をすれば良い→国土交通省の原状回復ガイドラインを元に判断

□原状回復ガイドラインの位置付け

住居賃貸が対象/強制ではない/民法の原状回復義務は強行規定ではない/ガイドラインと異なる特約でも公序良俗・消費者契約法に反しなければ有効

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

コメント

コメントする

目次