不動産会社で店舗・事務所等の事業用建物賃貸の営業に携わっていると、消防法という言葉を、耳にすることはありませんか?
消防法が、火災等から人命を守るための法律であることは創造できます。
果たしてこの消防法は、店舗・事務所等、事業用建物賃貸物件に、どのように関わっているのでしょう?
この記事では、消防法が、店舗・事務所等、事業用建物賃貸物件に与える制限について、おおまかにではありますが、できるだけ分かりやすくご説明します。
では、どうぞ。
消防法と店舗・事務所等、事業用賃貸物件との関係
不動産会社で店舗・事務所等の事業用建物賃貸の営業に携わっていると、お客様と内装業者との間で、消防法について、打ち合わせているのを耳にすることがあると思います。
不動産会社の物件管理担当者は別として、売買なり賃貸なりの仲介営業に携わる者にとっては、実はこの消防法には、あまり馴染みが無いのが実情だと思います。
しかし消防法は、事業用建物賃貸の賃借人にとっては、非常に重要な法律です。
店舗・事務所等、事業用建物賃貸物件の賃借人は、大抵の場合、物件の初案内から契約までのプロセスのどこかで、内装業者に建築基準法と消防法の観点からその物件をチェックしてもらい、その上で借り受けを決断すると思います。
内装業者は、内装工事における基準基準法の制限内容、及び消防法の制限については、プロフェッショナルです。
ところが、その物件の賃貸営業員は、とりわけ消防法には馴染みが乏しく、そのチェック内容を詳しく把握するのは難しいと思います。
とは言え、できることならおおまかにでも、物件の内装工事における消防法上の制限について把握し、より安心感を持って実務に携わっていきたいものです。
以下に、事業用建物賃貸における消防法上の制限について、おおまかにご説明します。
是非、今後の営業活動の参考にして頂けたらと思います。
なお店舗・事務所・倉庫等、事業用建物賃貸物件においては、ごく稀に、故意か知らず知らかは別として、物件の明渡し時に、消防法上の違反が明らかになるケースが、稀にあります。
そこでまず先に、下記に、それら違反の事例について、2つ程記します。
事業用建物賃貸物件と消防法との関係性を捉える良い手立てになるかと思います。
是非、お読みになって頂けたらと思います。
賃貸の店舗・事務所・倉庫物件の内装変更により消防法違反となる事例2つ
店舗・事務所等、事業用建物賃貸において、今ある内装に一部手を加えると、消防法違反になってしまう場合があります。
以下にその事例を、2つ記します。
(注)
一部、建築基準法も関連します。
事務所(オフィス)やサービス店舗の「間仕切り」と消防法
天井まで届くパーティションを用いるなどして、1つの部屋を完全に仕切ることを、間仕切りと言います。
例えば、大きめの事務所(オフィス)を借りた賃借人が、スタッフの休憩室を作るために、間仕切りを行うとします。
またコールセンター、エステティックサロン、リラクゼーションサロン等、サービス店舗を運営する賃借人が、個室を設けようとして、やはり間仕切りを行うとします。
この場合賃借人は、内装業者の助言を得て、消防法に違反しないよう気をつけながら、工事を進める必要があります。
なぜなら、間仕切りによって新たに生じたそれら休憩室や個室は、消防法によって、独立した部屋とみなされる場合があるからです。
そしてその場合、それら休憩室や個室にも、火災報知機や煙感知器など、消防設備を設置しなければならなくなります。
しかし現状としては、間仕切りを施しているにもかかわらず、消防設備を設置していない、いわば消防法に違反する物件も、稀にあるようです。
店舗や倉庫の「中二階」と建築基準法、及び消防法
例えば、天井が高く取れる飲食店舗を賃借している賃借人が、客席数をもっと増やそうとして、中二階を造作するとします。
あるいは、倉庫を賃借した賃借人が、倉庫スペースをもっと広げようとして、やはり中二階を造作するとします。
このような場合賃借人は、内装業者の助言を得て、建築基準法、及び消防法に違反しないよう気をつけながら、工事を進める必要があります。
なぜなら、造作によって新たに生じたそれら中二階は、建築基準法、及び消防法によって、新たな「階」の追加とみなされる場合があるからです。
そうなると賃借人は、計画段階で建築基準法の確認申請が必要になります。
また消防法に基づいて、屋内消火栓や火災報知機など、消防設備を設置しなければならなくなります。
しかし現状においては、故意なのか知らず知らずのうちになのかはともかく、建築基準法、消防法に違反した中二階の造作は、稀にあるようです。
消防法に関し、店舗・事務所等、事業用建物賃貸の賃借人が守るべき事項
店舗や事務所や倉庫等、事業用建物内で事業等を営む場合、そこには常に火災のリスクが潜んでいるとされています。
そしてそのリスクはおおまかに言えば、建物が大きくなって構造が複雑になればなる程、また人々の出入りが増えれば増える程、高まると考えられています。
建物内で日常的に火を使う場合などは、最もそのリスクは高まります。
そこで、それらリスクに対処するために設けられている法律が、消防法です。
消防法は、万が一火災が起きた場合に、その被害を最小限に留めるために、リスクの高さに応じて、様々な規則や制限を設けています。
そして店舗・事務所・倉庫等の賃借人には、消防法による、それら様々な規則や制限を踏まえた上で内装を施し、事業を営む義務があるとされています。
では具体的に、店舗・事務所・倉庫等の賃借人が担わなければならない、消防法上の義務とは、どういうものでしょう?
おおまかには、下記の通りです。
(注)
下記の中には、物件の状況や賃貸条件によっては、賃貸人側が担うものもありますが、この記事では、消防法における賃貸人と賃借人の責任区分は考慮しません。
消防法において、事業開始前に必要とされる届出について
店舗・事務所・倉庫等、事業用建物賃貸の賃借人は、その用途や事業内容、更には規模等に応じて、管轄の消防署に届出なければならない書類があります。
主な届出書類は、下記の通りです。
【消防用設備等設置届出書】
消防法においては、その事業用建物の用途や規模等によって、設置すべき消防設備の種類等が定められています。
消防用設備等設置届出書は、それら消防設備が、消防法の定めにしたがって適切に設置されていることを示す届出です。
【防火対象物使用開始届出書】
上述の通り事業用建物は、その用途や使用法が様々であり、したがって消防設備等の設置基準もいろいろと変わってきます。
防火対象物使用開始届出書は、その事業用建物を、誰がどのような使い方をするかを、様々な図面を添えて、管轄の消防署に示すための届出です。
【火を使用する設備等の設置届出書】
事業用建物賃貸物件においては、重飲食の店舗や熔接を行う工場など、火を使う場合があります。
そのような場合の届出です。
【防火管理者選任届出書】
店舗・事務所等、事業用建物において、その規模や収容人数が一定規模以上の場合、防火管理者と言う、防火対策を担う人員を据えることが、消防法で義務付けられています。
防火管理者選任届出書とは、その防火管理者が誰なのかを、管轄の消防署に示すための届出です。
消防法において、設置が義務付けられている消防設備について
店舗・事務所・倉庫等、事業用建物物件においては、その用途や規模等に応じて、設置しなければならない消防設備が細かく決まっています。
物件の賃借人は、消防法の定めに従って、それらをしっかりと設置しなければなりません。
それらは、物件の状況や賃貸条件によっては、賃貸人側で設置する場合もあります。
とは言えそういう場合であっても、賃借人が当初の内装に手を加えたら、設置条件そのものが変更となる可能性があることから、賃借人もしっかり認識しておくことが求められます。
なお消防設備とは、おおまかに下記3つに別れます。
・消化設備→消化器やスプリンクラー等、火災が起きた際に、消化を円滑に行うための設備です。
・警報設備→火災が起きそうだと機器が判定した際に、その旨を消防署等に警報するための設備です。
・避難設備→避難経路を案内する、あの緑色の標識等です。
なお上述した「消防用設備等設置届出書」とは、これら消防設備に基づく届出です。
建築基準法、及び消防法に基づく内装制限を踏まえた内装工事
建築基準法、及び消防法においては、建物に内装工事を施す際に、万が一火災が起きた場合、避難経路を確保したり、被害を最小限に留めるために、様々な制限を設けています。
これらの制限を、内装制限と言います。
【建築基準法における内装制限】
建築基準法においては、万が一火災が起きた際に、人々が避難経路を確保できるよう、壁や天井に燃えにくい材料を使用するよう制限しています。
(目的)避難経路の確保。
(内装制限)壁や天井には、燃えにくい材料を使う。
【消防法における内装制限】
一方、消防法においては、火災予防や円滑な消化活動が行えるよう、消防設備の設置や絨毯・カーテンの制限等を設けています。
(目的)火災予防と消火活動の最適化。
(内装制限)消防設備の設置、絨毯・カーテンの制限等。
店舗・事務所等、事業用建物賃貸の賃借人は、新規で内装工事を行ったり、途中で内装変更を行う際には、これら建築基準法、及び消防法に基づく内装制限に則って、行う必要があります。
防火管理者の選定
上述した通り、その物件の規模や収容人数が一定規模以上の場合には、防火管理者を選定する必要がある場合があります。
また建物の状況によっては、賃貸人側、または同一建物内の他の区画の賃借人が、防火管理者を担う場合もあります。
そういう可能性がある場合、確認が必要になります。
また必要に応じて、避難訓練を実施しなければならない場合もあります。
店舗・事務所等、事業用建物賃貸の営業員が、消防法について確認する方法
これまで述べて参りました通り、店舗・事務所等、事業用建物賃貸においては、消防法については、そのプロフェッショナルであるお客様側の内装業者が詳しく調査するので、その仲介営業員は、そこまで深く立ち入らなくても支障はありません。
しかしごく稀に、賃貸営業員自ら、消防法に関する初期調査を行わなければならない場合があります。
物件オーナーが自主管理をなさっているものの、消防法についてあまりお詳しくない場合で、前賃借人が原状回復をほとんど行っていない状態で、客付け依頼を承った時などです。
そういう場合、消防法に関する物件調査も、自ら行う必要があります。
はたして消防法に関することは、何処で調べたらいいのでしょう?
それは管轄の消防署になります。
まず管轄の消防署に電話連絡を入れ、物件に消防法上の違反が無いかどうかを確認したい旨を申し入れます。
すると違反の可能性がある場合、内部の写真や図面等を持って、消防署に相談に来るよう求められます。
そしてそれらを持って消防署に行き、あとは消防署職員の判断を仰げばOKです。
図面を持って消防署に赴いたものの、「ああ、その点のことは消防法のことでなく、建築基準法のことになります」と、言われる場合もあります。
その場合は、管轄の役所の建築指導課に赴き、判断を仰ぐことになります。
消防署による消防法に関する物件調査は、機会があったら、一度経験しておくと良いようです。
店舗・事務所等、事業用建物賃貸に対する理解が、より一層深まります。
まとめ
いかがでしたか?
難しい消防法ですが、是非この機会におおまかにでも、捉えておくようにしましょう!
以下にもう一度、内容を確認しておきます。
□消防法違反の可能性がある内装変更の事例2つ
・事務所やサービス店舗における間仕切り
・飲食店舗や倉庫における中二階の造作
□消防法における、店舗・事務所等、事業用建物賃貸の賃借人の義務
(届出義)
消防用設備等設置届出書/防火対象物使用開始届出書/火を使用する設備等の設置届出書/防火管理者選任届出書
(消防設備の設置)
消化設備/警報設備/避難設備
(内装制限)
・建築基準法における内装制限→避難経路の確保/壁や天井には、燃えにくい材料の使用
・消防法における内装制限→火災予防と消火活動の最適化消防設備の設置、絨毯・カーテンの制限
(防火管理者の選定)
必要に応じて消防訓練の実施
□店舗・事務所等、事業用賃貸物件が消防法に違反しているかどうかの確認先
管轄の消防署に確認
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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