不動産会社で営業職についていると、競売という言葉を比較的よく耳にすると思います。
でも実は、この競売という言葉と時折一緒に用いられる言葉で、任売(ニンバイ)という言葉があるのをご存じですか?
任売(ニンバイ)とは任意売却の俗称で、競売や通常の不動産売買とは異なる、一種特殊な売却方法です。
この記事では、不動産売買の営業に携わる上で、実践しないまでも、知識としては知っておきたい任意売却について、不動産売買営業初心者の方向けにご説明します。
では、どうぞ。
任意売却とは
任意売却とは、おおまかに申しますと、住宅ローン等の返済が滞ってその住宅等が競売にかかる前に、特殊な方法によってその住宅を売却することを言います。
では売却方法の何が特殊なのでしょう?
住宅ローン等が苦しくなり、自宅等を手放さなければならなくなった場合、住宅の所有者としては、その住宅を売却した資金で住宅ローン等を完済し、かつ売却諸費もその一部で支払い、残りの資金で賃貸物件等に引っ越せるのが理想かと思います。
しかしながら実際には、状況によってはそれが叶わない場合があり得ます。
するとその場合、その住宅等は、やがて競売にかかってしまいます。
そこで用いられる販売方法が任意売却です。
以下に任意売却について、もう少し踏み込んでご説明しますが、実は任意売却を適切に捉えるには、予め押さえておきたいことが3つあります。
次の項でご説明します。
任意売却を知る上で押さえたいこと3点
任意売却という、一種特殊な売却方法を理解するにあたっては、予め以下の3つのことを理解しておくと良いようです。
住宅ローン残債は必ずしも売却資金で完済できるとは限らない
住宅を購入する方のほとんどは、住宅ローンを活用します。
そしてその住宅ローンの残債は、住めば住むほど減少していきます。
しかし一方で、その住宅を再び売り出す場合の売却見込み価格も、一般的には住めば住むほど低価格になります。
再売り出しをした時の売却価格が、住宅ローンの残債よりも高額でしたら、住宅ローンの残債は売却資金によって完済できます。
しかしそうではなく、住宅ローン残債の額のほうが、再売り出し時見込み売却価格よりも高額だと、自己資金を投入して住宅ローンを完済しないと、その住宅を売却することはできません。
しかも実際には、住宅ローン残債のほうが高額となるケースは少なくなく、かつ売却に際しては、様々な売却経費もかかることから、住宅を手放すには、結果として、ある程度の自己資金を要する場合が多いのです。
更に言えば、自宅の売却によって失った住まいを、新たに確保するための資金も必要になります。
住宅ローンにおける債務者と銀行と保証会社との関係
住宅ローンにおいては、その住宅ローンの返済を担う住宅購入者が債務者、貸付けを行う銀行等が債権者ですが、任意売却をより深く理解する上では、もう一つ、保証会社というものの存在を押さえておくと良いようです。
保証会社とは、万が一債務者が住宅ローンを返済できなかった場合に、債務者に代わってを負担する会社です。
不動産賃貸営業に携わる方々は、全保連やジェイリースや日本セイフティ等、いわゆる家賃保証会社をイメージすると分かりやすいです。
住宅ローンにおける保証会社も、位置付けとしてはほぼ同じです。
まず債務者と銀行等は、住宅ローン等のローン契約を結びます。
これにより債務者は、銀行等債権者に対し、住宅ローン等の返済を行う義務を追います。
一方で銀行等と保証会社は、保証契約を結びます。
これにより保証会社は、万が一債務者の返済が滞った場合に、債務者に代わって支払う義務を負うことになります。
更に債務者は、保証会社との間で保証委託契約を結びます。
これにより保証会社は債務者の返済が滞った場合に、それを肩代わりすることを約束し、債務者は保証会社に保証料を支払います。
なお繰り返しになりますが、賃貸における保証会社が、債務者のためのものでなく、物件オーナーのための保証であることと同様に、住宅ローンの保証会社も、銀行等の保証になります。
そして賃貸における保証料の負担者が、債務者であることと同様に、住宅ローンにおける保証料の負担者も、住宅ローンの債務者になります。
実はほとんどの住宅ローンが、このような債務者・銀行等債権者・保証会社による三者間での約束ごとで成立しています。
住宅ローン滞納から競売までの流れ
住宅ローンを滞納し、督促が来ても返済しない状況が続くと、その住宅はやがて競売にかかかります。
任意売却を理解するためには、住宅ローンの滞納から競売までの主な流れを押さえておくと良いようです。
保証会社が関連する住宅ローンでの滞納から競売までの主な流れは、下記の通りです。
督促→期限の利益の喪失→保証会社による代位弁済→債権が銀行等から保証会社に移転→抵当権の実行・競売
以下に1つづつ、補足説明します。
【督促】
住宅ローンを滞納すると、まずは督促状というものが届いて、銀行等債権者は債権者に対し、速やかな返済を促します。
【期限の利益の喪失】
そもそも住宅ローンは、「いついつまでに○○円返済してください」という約束ごとに基づいて返済されます。
これは逆の言い方をすれば、「いついつまでは返済しなくてよい」といことになりますが、このような「期日までは返済しなくてよい」という約束ごとを、専門用語で期限の利益と言います。
すなわち住宅ローンにはそもそも、期限の利益というものが備わっていると言えます。
ところが、債務者が督促状が届いてもなお滞納し続けてしまうと、次のフェーズとして、この期限の利益を喪失してしまうことになります。
その結果債務者は、もはや分割による返済を行うことが出来なくなります。
債務者は、債権者である銀行等から、一括での返済を求められることになります。
【保証会社による代位弁済】
債務者が、債権者からの一括返済の求めに応じられなかった場合、銀行等は今度は債務者に代わって、保証会社に一括での返済を求めてきます。
保証会社はその求めに応じ、債務者に代わって債務を一括返済します。
なお保証会社が債務者に代わって債務を弁済することを、代位弁済と言います。
【債権が銀行等から保証会社に移転】
保証会社が債務者の債務を肩代わりして一括返済したことで、銀行等に備わっていた債権者としての地位は、保証会社へと移転します。
そして以後債務者は、銀行等からでなく、保証会社から一括返済を求められることになります。
【抵当権の実行・競売】
債務者が、保証会社からの一括返済に応じられなかった場合、抵当権者である保証会社は、いよいよ抵当権の実行に向けて、動き出します。
保証会社は裁判所に、担保不動産競売の申立てを行い、不動産は差し押さえられ、競売となります。
任意売却と競売との違い
以上見てきた通り競売とは、裁判所が債権者からの申し立てを受けて、法的権限を用いて強制的にその不動産を売却することを言います。
そしてその性質は、任意売却と大きく異なります。
任意売却とはいわば、競売の事前回避措置であると言えます。
任意売却とは、そのまま放っておくと競売にかかってしまう不動産を、所有者自らが動き、その手前で売却してしまうことを言います。
競売が、裁判所主導の競争入札で売り払われるのに対し、任意売却は、裁判所は一切関与せず、一般の不動産市場を用いての販売になります。
では任意売却は、いわゆる通常の不動産売却とどう違うのでしょう?
次にその違いを次ぎに見ていくことにします。
任意売却と通常の不動産売却との違い
任意売却も、いわゆる通常の不動産売却も、一般の不動産市場に売りに出されるという点では同じです。
ではこの2つの違いとは、どういう点でしょう?
任意売却でない通常の不動産売却では、仮に住宅ローン等の残債があっても、売却資金、もしくは売却資金と自己資金の両方を使って、まずはその残債をしっかり完済します。
そして抵当権を抹消し、その上で不動産を引き渡します。
任意売却でない通常の売却では、何はともあれ売主の資力によって抵当権を抹消することが可能であり、何ら負担の無い状態で物件を引き渡すことが可能である場合に成立します。
一方任意売却は、それが叶わない場合の特殊な売却手法です。
任意売却は、住宅ローン等の返済が厳しくなり、対象不動産を売却しようとするも、売却資金だけでは残債を完済できず、かつその差額を穴埋めするだけの自己資金が無いために、抵当権を抹消することができない場合に用います。
そして通常の売却と決定的に違うのは、その売却に、銀行等債権者が深く関与するという点です。
通常の売却では、住宅ローン等を完済し、抵当権を抹消するわけですから、所有者による不動産の販売行為に対し、債務者である銀行等は、原則として、何ら意見等を述べることはありません。
しかし任意売却では、住宅ローン等の完済ができる見込みが無いにもかかわらず、抵当権を抹消してもらうわけですから、銀行等や保証会社から一定の理解を得るために、密に協議を重ねながら、販売行為を行うことになります。
任意売却案件の売主様側仲介はプロフェッショナルにお任せすべき理由
上述の通り、任意売却は特殊な不動産売却であり、その特殊性ゆえ、とりわけ売主様側仲介で携わる場合には、通常の不動産売却とは異なる様々な知識やスキルが必要です。
任意売却案件は、滞納期間が長くて深刻度合いが高かい場合や、ローン残債と売却資金との差異が著しいなどの場合には、弁護士さん等にご介入頂いて対応に当たらなければならなくなります。
またその手前の、深刻度合いが軽度な場合であっても、通常の不動産売却には無い、銀行等や保証会社との大変重要なやり取りが必要になります。
債権者である銀行等や保証会社は、可能な限り高値での売却を望む傾向にありますが、その価格が市場の価格から逸脱していたら、売却そのものが叶わなくなる恐れがあります。
また物件の売主様には、売却後の生活もあるわけですから、可能な限り、現金を確保でこることが望ましいわけで、不動産仲介業者による債権者への交渉は、時にはギリギリのものとなる場合もあるようです。
任意売却案件の売主様側仲介は、実は不動産売買営業のペテランの方々であっても、敬遠される方が少なくありません。
不動産売買営業初心者の方々にとっては、任意売却についての知識を持つことはとても重要ですが、万が一売主様側仲介の依頼を受けた場合には、承ることは控え、躊躇することなく、その道のスペシャリストにお任せするようにしましょう。
お客様に、ご自身が住宅ローンを借り受けている銀行等におたずね頂ければ、大抵の場合、任意売却に精通している宅建業者をご紹介して頂けます。
なお任意売却に精通している宅建業者様の中には、任意売却という言葉を、期限の利益を喪失してしまった案件、もしくは保証会社による代位弁済まで進んでしまった案件に限り、用いているところもあるようです。
不動産の売買営業員が任意売却案件に買主様側仲介で携わる場合の注意点
任意売却に買主様側仲介として携わる場合は、何点かの注意事項を押さえておけば、後は通常の不動産売買と大差はありません。
一般的に任意売却案件は、売主様による契約不適合責任を追わない旨の特約と合わせ、債権者から合意が得られなかった場合に、白紙解約となる旨の特約が付されます。
購入希望者様への重要事項説明で、その点もしっかりご説明をしてご納得頂いた上で、契約を締結することになります。
任意売却物件は、その点をご理解頂ければ、一般的には相場よりも幾分安く、お買い得物件であると言えそうです。
不動産売買の売主様仲介では、お客様が住宅ローン滞納中の場合は要注意
ここまで任意売却について、様々見て参りましたが、任意売却を知るとで、通常の不動産売却に関する気付きを持つことも、可能となるのではないでしょうか。
日頃、不動産売買の営業員の方々は、お客様から売却のご相談を承った際、その物件について色々な物件調査をすると思います。
そしてそれら物件調査とあわせ、登記情報による抵当権設定の有無の確認や、ローン返済の滞納の有無についてのヒアリング等も、実は非常に重要であることを、強く感じるかと思います。
売却の依頼を承ったお客様が、ローン返済滞納中でしたら、極めて慎重に対応しなければなりません。
なぜならそれは、任意売却案件かもしれないからです。
まとめ
いかがでしたか?
任意売却案件は、大変ハードルが高く、実務はプロフェッショナルにお任せすべきですが、不動産売買営業員として、知っておくべき売却方法かと思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□任意売却の概要
任意売却とは、住宅ローン等の返済が厳しくなり、対象不動産を売却しようとするも、売却資金と自己資金でローン残債を完済できない場合に用いる特殊な売却。
□ローン滞納から競売に至るまで
督促→期限の利益の喪失→保証会社による代位弁済→債権が銀行等から保証会社に移転→抵当権の実行・競売
□任意売却と競売の違い
任意売却はあくまで一般市場での売却。それ対し競売は、裁判所主導の競争入札による。
□通常の不動産売却と任意売却の違い
任意売却では、売却資金と自己資金とで、ローン残債を完済できないことから、銀行等や保証会社と協議しながらの販売活動となる。
なお、売却資金と自己資金とで、ローン残債を完済できない状況において、とりわけ期限の利益を喪失して以降、または保証会社による代位弁済実施以降の案件についてのみ、任意売却という言葉を用いる場合もある。
□任意売却案件の売主様側仲介
プロフェッショナルにお任せすべき。
□任意売却の買主様側仲介
任意売却案件は、売主様による契約不適合責任を追わない旨の特約と合わせ、債権者から合意が得られなかった場合に、白紙解約となる旨の特約が付される。
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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