不動産会社で売買営業をやっていると、住宅を購入しようとするお客様方の中に、相続時精算課税制度というものを利用して、親御様から金銭的支援を受けられる方がいらっしゃいますよね。
実はこの相続時精算課税制度、税金が発生する場合があるのをご存じですか?
不動産の売買営業員は税制の専門家ではないことから、お客様から税制に関するご質問があった場合、安易な回答は控え、税理士さんや税務署等に直接ご確認頂くよう、ご誘導すべきとされています。
とは言え、「知識として持っておきたい」というのはあると思います。
この記事では、住宅を購入しようとするお客様方にとって比較的身近な、相続時精算課税制度について、制度そのものの概要と併せ、相続が発生したときの計算方法について、具体例を交え、わかりやすくご説明します。
これを機に、相続時精算課税制度に関する理解を深め、税金がそもそも発生しないものと認識されているお客様がいらっしゃったら、一言申し添えて差し上げてみてはいかがでしょう?
では、参りましょう!
(注)この記事は、2022年9月時点での税制に基づいて記載しています。税制は、今後変更となる場合があります。
贈与税と相続税
お若い方々は、もしかしたらあまりよくご存じでないかもしれませんが、私たちは、財産を貰ったり相続した時には、税金を納めなければならないことになっています。
いわゆる贈与税や相続税です。
これらの税金は、何も知らないとビックリするぐらい高額だったりする場合があります。
でもその一方で、様々な軽減措置や控除制度が張り巡らされています。
そして、そのような制度の中で、比較的よく知られているものの1つに、相続時精算課税制度というものがあります。
相続時精算課税制度の概要
相続時精算課税制度とは、おおまかに申しますと、「父母または祖父母から、現金等の財産を貰った時に、それが2500万円以下だったら、贈与税がかからない」という制度です。
財産をあげる側の父母または祖父母が、60歳以上でなければならず、また貰う側の子または孫が、18歳以上でなければない、などの縛りはありますが、それ以外の細かい縛りはあまり無く、比較的使いやすい制度と言えそうです。
不動産の売買営業員がお客様に申し添えたい、相続時精算課税制度の注意点2つ
不動産会社の売買営業員として、住宅を購入しようとするお客様のお手伝いをさせて頂いておると、お客様方の中に、資金の一部を親御様から支援して頂く予定の方がいらっしゃると思います。
その場合、そのお客様は、必然的に贈与における相続時精算課税制度を活用することになります。
その際、制度の細かい内容等については、お客様自ら税理士さんや税務署に直接ご確認頂くとして、担当の売買営業としては、是非お客様に申し添えたいことが2つあります。
下記の通りです。
1.相続時精算課税制度は、活用したら税務署に申告する必要がある。
2.相続時精算課税制度は、非課税になる制度でなく、納税を先延ばしする制度。
以下、少し詳しくご説明します。
1.相続時精算課税制度は、活用したら税務署に申告する必要がある
住宅資金の一部を親御様に負担して頂くなどして、相続時精算課税制度を活用して贈与を受けた場合には、負担して頂いた側の方(受贈者)は、相続時精算課税制度を活用した旨を、税務署に伝える必要があります。
贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、税務署長に対して、以下のことを行う必要があります。
・税務署に贈与税の申告書を提出する。
・その際に「相続時精算課税制度選択届出書」というものを、戸籍謄本などの一定の書類とともに添える。
住宅を購入しようとするお客様方の多くは、そもそも、親御様から金銭的支援を受ける場合に、贈与税が発生する可能性があること自体を、よくご存じでない場合が多いようです。
したがって、不動産の売買営業員としては、お客様の資金計画に、親御様からの支援を予定していることが明らかになった時点で、速やかに、お客様を税理士さんや税務署等と結び付けるよう、ご誘導する必要があるようです。
そうすることで大抵の場合、お客様方は自発的に、これら申告義務について、認識をお持ちになるようです。
とは言え、不動産の購入は、お客様方にとってはいわば一大イベントであると言え、決済引渡しぐらいまではある程度意識は行き届くものの、その先はなかなか行き届かない場合もあるようです。
慌ただしい住宅購入の諸手続きの中で、贈与並びに相続時精算課税制度活用に伴う手続きが、埋もれてしまう場合があるようです。
したがって、不動産売買の営業員としては、お客様がその制度を活用する場合には、是非その為の税務手続きについて、申し添えて差し上げると良いようです。
2.相続時精算課税制度は、納税が免除される制度ではなく先延ばしにする制度
相続時精算課税制度は、それを活用すれば、贈与額が2500万円未満の場合、贈与税は非課税になります。
しかしだからと言って、税そのものが完全に非課税になるとはわけではありません。
相続時精算課税制度とは基本的には、「贈与時の非課税分は、相続時に回される」という制度です。
ところがお客様方の中には、贈与額が2500万円未満であれば、完全に非課税なると認識されている方がいらっしゃいます。
住宅を購入しようとする複雑な諸手続きの中で、住宅資金の贈与が、将来の相続時にまで関連してくるといところまでは、なかなか意識が及ばない場合があるのです。
不動産の売買営業員として、相続時精算課税制度を活用するお客様を接客する場合には、その制度は、税金を完全に免除する制度ではなく、基本的には相続時まで先延ばしする制度であるという点を、しっかり申し添えるようにしましょう。
親御様からの贈与が、相続時精算課税制度での非課税枠内の2500万円未満であっても、その分が相続時に跳ね返り、相続税として納付しなければならない場合がある、ということです。
ところがお客様によっては、相続時精算課税制度を利用すれば、2500万円まで完全に非課税になるものと拡大解釈されている場合があります。
そのような場合には、相続時精算課税制度と相続税の関係性について、今一度しっかりと税理士さんや税務署にご確認頂くよう、お客様に申し伝えましょう。
相続時精算課税制度を利用した場合の相続税の計算
では実際に、住宅の購入時に相続時精算課税制度を活用した場合、それがどのように相続税の計算に反映されるのでしょう?
以下に具体例を用い、その計算方法を見ていくことにしましょう。
今仮に、被相続人が残した財産から、相続税の課税対象となるものの合計額を計算したら、 6000万円となる相続が発生したとします。
この相続の相続人は、妻と子1人だったとします。
そしてこの妻と子は話し合いの結果、6000万円すへでを妻が相続したとします。
しかし子のほうは、被相続人の生前に相続時精算課税制度を活用し、2000万円の贈与を受けていたします。
さてこの場合、妻と子それぞれの最終的な相続税額は、幾らになるでしょう?
まず最初に、この相続における課税価格を計算します。
この例の場合、課税対象となる額は6000万円でしたが、子が被相続人の生前に、相続時精算課税制度を活用して2000万円の贈与を受けています。
よって課税価格の総額は、相続時の6000万円に2000万円を加え、8000万円になります。
次に、課税遺産総額を算出します。
課税遺産総額は、課税価格8000万円から、基礎控除額4200万円(3000万円+600万円×2人)を差し引いて算出します。
よって3800万円になります。
次にその課税遺産総額を元にして、法定相続人全員の相続税の総額を計算します。
この例の場合、相続人は妻と子1人でその法定相続割合は1/2づつになるので、まずこの3800万円は、妻1900万円、子1900万円に分配されます。
更にここから、それぞれの法定相続人が仮に納付すべきとされる、仮の相続税額を計算します。
国税庁が出している「贈与税の速算表」を元に確認します。
3000万円以下の税率は15%で、その控除額は50万円とあるので、それぞれの仮の相続税額は、妻235万円、子235万円になります。
したがって、この場合の法定相続人全員の相続税の総額は、235万円+235万円で470万円になります。
そして最後に、この470万円を、実際に相続の割合に分け、配偶者の税額軽減等を考慮して、相続人ごとの最終な相続税の納付税額を計算します。
上述の通り、この親子は実際には、 8000万円を妻6000万円、子2000万円で相続したことになるので、実際の相続割合としては、妻3/4、子1/4となります。
更に、相続税の総額470万円を、妻3/4、子1/4で割り振ると、妻352万5000円、子117万5000円になります。
更に妻は、配偶者の税額軽減によって、相続税が0円になります。
よってこの妻と子の、最終的な相続税の納税額は、妻0円、子117万5000円になります。
このように、相続時精算課税制度を活用して贈与を受けた場合は、贈与税は非課税になりますが、相続税で課税されることになります。
相続税の課税遺産総額が0円なら、相続時精算課税制度による納税額も0円
ただし、上記の計算例からも分かるように、相続時精算課税制度を活用して贈与を受けた場合であっても、相続税が0になる場合があります。
それは、課税価格から基礎控除額を差し引いた課税遺産総額が、0円の場合です。
基礎控除額は、下記計算式で算出することができます。
「3000万円+600万円×法定相続人の数」
法定相続人が2人だったら4200万円、3人だったら4800万円になります。
したがってお客様方が、住宅資金の一部として相続時精算課税制度を活用することは、相続税の見込み課税遺産総額が0円の場合には、非常に有効な手段であると言えます。
相続時精算課税制度の暦年贈与
相続時精算課税制度は、暦年贈与と対比して語られる場合が多いようです。
暦年贈与とは、1年間で贈与額が110万円以下だったら、贈与税がかからないという仕組みを用いて、財産を贈与していく手法のことを言います。
しかしこの暦年贈与は、相続時精算課税制度と併用することができません。
この1点は、不動産売買の営業員として、知識として押さえておくことをお勧めします。
今仮に、住宅ローンの頭金を、相続時精算課税制度を活用して調達しようとするお客様がいらっしゃるとします。
そしてそのお客様は、月々の住宅ローンの支払いについても、その一部を親御様から贈与で賄う予定をしているとします。
月々のローンに対する予定贈与額は、月額5万円で、年間60万円だったとします。
この場合、年間の贈与額は110万円を下回るので、贈与税は発生せず暦年贈与として有効であるかのように見えます。
しかしこのお客様は、住宅購入の頭金として、相続時制精算課税制度を活用して2500万円を調達していたとします。
この場合、月々の60万円についても贈与税が課税されることになります。
なぜなら暦年贈与は、相続時精算課税制度との併用ができないからです。
相続時精算課税制度が不動産の「賃貸」での取引で活用されるケース
相続時精算課税制度は、それによって調達した資金を、住宅取得のために活用しなければならないわけではありません。
諸条件を満たせば、どのように活用してもOKとされています。
不動産取引に携わるお客様方について言えば、住宅取得という場面での活用が最も多いでしょうが、そうでない場面で活用されるケースももちろんあります。
その主な例としては、店舗物件等を賃借しようとするお客様方のケースです。
店舗等を賃借しようとするお客様方は、一般にその内装費用を、自ら負担しなければなりません。
また物件によっては、予め備わっている造作物を、有償で購入する必要がある場合もあります。
そのようなお客様方の中には、飲食店を開業しようとする方もいらっしゃれば、歯科医院を開業しようとする方もいらっしゃいます。
そしてそれら内装費用は、それ相応の額になります。
お客様方によっては、それらの費用を、相続時精算課税制度を活用して調達される方もいらっしゃいます。
住宅取得資金贈与の特例について
これまで見てきた通り、贈与によって住宅取得資金を調達する場合、一般的には相続時精算課税制度が活用されます。
とは言え上述の通り、相続時精算課税制度は、その調達資金の活用法を、住宅取得に限定するものではありません。
ところが実は一方で、調達資金の活用法が住宅取得に限定される場合、かつその住宅が、諸条件を満たす新築住宅の場合に、相続時精算課税制度とは別に、活用できる制度がもう1つあります。
住宅取得資金贈与の特例です。
以下、住宅取得資金贈与の特例について、少し詳しく見ていきましょう。
住宅取得資金贈与の特例の概要
住宅取得資金贈与の特例とは、子や孫が、父母や祖父母から、住宅の取得資金の贈与を受ける場合に、一定の金額まで贈与税が非課税になる制度です。
主な条件や、非課税限度額は下記の通りです。
・取得しようとする住宅が新築であること。
・贈与を受ける者の年齢が、18歳以上であること。
・贈与する側の者は、父母か祖父母であること。
・非課税限度額は、その新築住宅が省エネ住宅等であったら1000万円まで、そうでなかってら500万円まで。
ただしこの制度は、令和4年9月現在において、適用が令和5年12月31日までとされています。
また諸条件は、他にも様々あります。
したがってもしお客様方に、住宅取得資金贈与の特例の活用をご提案したり、またお客様方から、本特例についてご質問を受けた場合は、必ずお客様自ら税理士さんや税務署に直接ご確認頂くよう、ご誘導するようにしましょう。
住宅取得資金贈与の特例は、相続税との絡みがない
上述した相続時精算課税制度は、非課税になる制度でなく、納税を相続税の発生時期まで先延ばしにする制度でした。
ところがこの住宅取得資金贈与の特例には、相続税とのそのような絡みはありません。
取得しようとする新築住宅が省エネ住宅等だったら1000万円まで、そうでなかってら500万円まで、贈与税が非課税となり、かつ相続税で精算されることもありません。
住宅取得資金贈与の特例は、相続時精算課税制度と併用できる
この住宅取得資金贈与の特例は、相続時精算課税制度と併用することが可能とされています。
したがって、取得しようとする住宅が新築で、贈与による資金調達を予定している場合には、贈与予定額の一部に対し、まずは住宅取得資金贈与の特例を活用し、それで補いきれない部分に対しては、相続時精算課税制度を活用すると良いようです。
住宅取得資金贈与の特例は、小規模宅地の特例と併用できない
ただし住宅取得資金贈与の特例の活用に際しては、注意を要する場合があります。
相続が発生した場合に、活用できる制度の1つに、小規模宅地の特例というものがあります。
この小規模宅地の特例は、諸条件を満たしこれを活用することで、たいへん大きな節税効果が期待できる制度とされています。
ところが贈与時に、住宅取得資金贈与の特例を活用してしまうと、相続時のこの小規模宅地の特例が活用できなくなってしまいます。
住宅取得資金贈与の特例と小規模宅地の特例とは、併用することができないのです。
したがって相続時に、住宅取得資金贈与の特例を活用しようとする場合には、相続時に小規模宅地の特例を活用する可能性があったら、活用するかどうかの選択を、慎重に行う必要があるようです。
まとめ
いかがでしたか?
不動産の売買営業員は、税制の専門家ではありませんが、住宅用不動産の売買でよく登場する相続時精算課税制度については、是非この機会に、その概要を押さえてしまいましょう。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□相続時精算課税制度の注意点2つ
1.相続時精算課税制度は、活用したら税務署に申告する必要がある。
2.相続時精算課税制度は、非課税になる制度でなく、納税を先延ばしする制度。
□相続時精算課税制度を利用した場合の相続税の計算のポイント
・課税価格算出の際に、相続時精算課税制度を活用して調達した贈与額を加算する。
・実際の相続割合を算出に、相続時精算課税制度を活用して調達した贈与額を反映させ、相続人ごとの最終的な相続税の納付税額を計算する。
□相続時精算課税制度と暦年贈与
併用できない。
□相続時精算課税制度が不動産賃貸で活用それる場面
店舗等事業用建物賃貸賃借時の内装費用の調達等
□住宅取得資金贈与の特例
・新築住宅/18際以上
・相続時精算課税制度と併用できる
・小規模宅地の特例と併用できない
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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