賃貸のお部屋探し仲介をやっていると、「契約を結ぶには、諸条件をカッチリ硬めなければならない」って思いませんか?
しかし実は、未確定事項があっても結べます。
実際、売買契約においては、未確定事項を確定しないまま結んでしまうのは一般的だったりします。
この記事では、売買契約における未確定事項の先送りについて、売買初心者の方向けにご説明します。
合わせて、ちょっと難しいですが、停止条件というものについても触れます。
これらのことを何となくでも押さえておくと、売買仲介に対するハードルがグッと下がる感じがして、きっとチャレンジしやすくなると思いますよ!
では、どうぞ。
賃貸の鉄則、「諸条件は契約前にカッチリ整えよ」から自由になると見えてくる、売買取引の易しさ
不動産取引における、賃貸の「カッチリ感」と売買の曖昧さ
不動産賃貸、とりわけお部屋探しに携わっていると、あらゆる諸条件をカッチリ硬めた後でないと契約すべきでない、と感じませんか?
きっと上司や先輩方からも、概ねそのようなご指導をお受けになっているのではないでしょうか。
このことはいわば、賃貸のお部屋探し取引の鉄則であるようにも思います。
では売買の取引ではどうでしょう?
売買取引は賃貸に比べ、契約を結ぶ際の取り交わし事項が複雑かつ多量です。
果たして売買取引においても、賃貸のお部屋探し同様、諸条件をカッチリ硬めてからでないと、契約すべきでないのでしょうか?
土地売買の敷地境界に見る、賃貸ではあり得ない曖昧さ
まずは以下の例をご覧下さい。
宅建業者のベテラン事業主であるAさんは、郊外に土地を売り出すことにしました。
しばらくして、やはり宅建業者のベテラン事業主のBさんから、その土地の購入を検討したいと連絡がありました。
AさんとBさんは、現地で待ち合わせました。
現地でAさんは、この土地のいろいろなことをBさんに説明しました。
Bさんは、「ところでAさん、この土地の境界はどこですか?」とたずねました。
Aさんは、「前と後ろが道路に接しているので、そこの境界はある程度はっきりしています。でも右側と左側はわからないんですよ」と言いました。
Bさんは、「ということは、この左側のブロックの所が、こっちの敷地なのか隣地の敷地なのか、わからないということですね」と言いました。
Aさんは「そうなんですよ」と答えました。
Bさんはしばらく考えてから、「買いたいんですけど、月内の契約で行けますか?」と言いました。
さてこのような場合、Bさんのように契約したいと言われてたら、そのまま契約してしまって大丈夫なのでしょうか?
この土地は、敷地境界が曖昧なわけですよね。
このまま契約して、後々大きな問題にならないのでしょうか?
答えは「大丈夫、契約できます」です。
もちろん売買取引においても、カッチリ硬めるべきところは硬めます。
でも実は売買取引では、このような曖昧な事項を曖昧にしたまま契約するのが、むしろ一般的だったりします。
「諸条件は契約前にカッチリ整えよ」といった契約スタイルが主流の賃貸のお部屋探しからすると、あり得ない曖昧さだと思いませんか?
賃貸から売買へと取引の幅を広げやうとする際には、是非このことを思い出してみましょう。
賃貸特有の「カッチリ感」から一端自由になれて、売買取引のハードルが、グッと下がる感覚を得られると思います!
さてここで、先の土地売買の例話に戻りましょう。
敷地境界がよくわからないという曖昧な事項は、その後どう扱われるのでしょう?
売買契約における、未確定事項の先送りについて
土地の売買契約における、敷地境界が未確定という事項は、その後どう処理されるのでしょう?
処理されず放ったらかしのまま、買主に引渡されるのでしょうか?
さすがにそういう訳にはいきません。
売主様はしっかりと、「境界はここです」と明らかにできる状態にして、買主様に引渡すことになります。
ポイントは、境界を明らかにできる状態する期日が、引渡しの日というところです。
売主様は、決済・引渡しの日、所有権移転の日までに、明らかにできる状態にする必要があるのです。
ただ買主様からしてみたら、売主様が本当に明らかにできる状態にしてくれるかどうか不安ですよね。
そこで一般的には、契約書に「売主様は決済・引渡しの日までに、未確定の境界を確定する等して、明らかにできる状態にすることとします」といったような特約を設けたりします。
売主様と買主様は、そのような約束事を予め取り交わし、それを特約事項に盛り込んだ契約書を用いて、その土地の売買契約を結んでいるのです。
このように、売買取引においては、未確定事項の確定を、決済・引き渡しの日までに先送りして契約を締結する、という手法がごくごく一般的に用いられています。
次に、そのような手法が用いられている事例を幾つか見ておくことにしましょう。
(注)
厳密には、売主と買主が合意していれば、境界が曖昧であっても引渡しは可能ですが、この記事ではその辺りの詳細は割愛します。
売買契約における、未確定事項先送りの事例
土地の売買契約における、敷地境界の確定の先送り
上記の例が、これに当たりますよね。
売買契約は敷地境界が未確定のまま結ばれます。
その際特約に、「決済・引渡しの日までに、売主様が自らの責任と費用負担で境界を明示できるよう(その主な手段としては、土地家屋調査士による確定測量が一般的です)にする」旨が盛り込まれます。
売主様は特約事項に従い、境界を明示できるようにします。また実際に、現地で明示することが義務であるのが一般的です。
このようにして、先送りされた事項は無事実行され、決済・引渡しの日を迎えます。
住宅の売買契約における、買主様の住宅ローン本審査承認の先送り
買主様が住宅を購入する場合、住宅ローンを活用されるのが一般的かと思います。
その場合、買主様の住宅ローン本審査の承認を待たずに、売買契約を結んでしまうのが一般的です。
その際、「住宅ローンの本審査おりたら、買主は売買残代金を支払い、売主は当該物件を引渡すこと」といった主旨の特約が盛り込まれます(条文に予め盛り込まれている定型契約書もあろうかと思います)。
このように、買主様の住宅ローンが正式に承認されるかどうか未確定なまま契約は結ぶれ、確定承認後、決済・引渡しが行われます。
建築条件付き土地の売買契約における、新築建物の請負契約の先送り
建築条件付き土地とは、「土地の買主様は、この土地の上に建てる建物も、売主あるいは売主の指定業者に発注して頂きますます」という条件が付いた売土地を言います。
そしてこの場合、土地の売買契約は、買主様が売主様にそのことを約束した上で結ばれます。
ただし、その約束に基づく別の契約(その土地に建てる建物について発注者と受注者の約束を書名化した請負契約)はまだ結ばれません。
建築条件付きの土地の売買契約は、当該土地に建物を建てることを約する請負契約の締結を先送りして結ばれるのが一般的です。
その際、「買主様は売主(売主の指定業種)と建物請負契約を締結することとします」といった主旨の特約が盛り込まれます。
そして土地の決済・引渡しの直前(ケースによっては同時、あるいは直後)に、その請負契約が結ばれることになります。
土地建物、あるいは解体更地渡しの土地の売買契約における、売主様の移転先発見の先送り
取引対象不動産が土地建物、あるいは解体更地渡しの土地の場合、売主様の移転先がまだ決まっていないうちに、売買契約を結ぶ場合があります。
いわば、売主様の移転先発見を先送りして売買契約を結ぶケースです。
契約締結時の当該不動産の占有者は、居住用であれば、売主様が一般的ですが、事業用の場合は、売主様だったり賃借中の賃借人様だったりします。
この種の不動産の場合、売買契約の際には、「売主様は決済・引渡しの日までに、新たな移転先を発見して移転を完了すること」等の特約が盛り込まれます。
売主様は、移転を完了させ、条件によっては既存建物を解体して、買主様に物件を引渡します。
売買契約において、未確定事項が先送りされる理由
売主様・買主様にしてみたら、未確定事項がすべて確定され、そのままスッキリ契約でたほうが好ましいように思いますよね。
そのほうが安心できるからです。
にもかかわらず、このような先送り手法が一般化しているのは何故でしょう?
以下に、上記それぞれの事例における先送りの理由というか背景を、おおまかに見ておくことにしましょう。
土地の境界確定が先送りされる理由
土地の売主様が境界を明らかにするための手段としては、土地家屋調査士による確定測量の実施が、やはり最も一般的だと思います。
ただこの確定測量ですが、決して安くない費用がかかり、売主様からしてみたら、本当に購入して頂けるかどうか分からない状態で実施するのが負担だったりします。
そこでまず契約を結び、売主様が安心できる状態になってから確定測量を実施するのが一般的なわけです。
買主様の住宅ローン本審査承認を先送りする理由
この場合は、理由は至ってシンプルです。
銀行さんが買主様の住宅ローンの本審査を行うにあたり、売買契約書のコピー等が必要だからです。
銀行さんにしてみたら、このお客様が、本当に我が銀行の住宅ローンを活用して頂けるかどうか分からない訳ですよね。
そういう状況では、銀行さんとしても本審査をかけるわけには行かないようなのです。
したがってその証として、売買契約書のコピー等を求められる訳です。
順序が「売買契約」→「本審査承認」となるのが一般的なのはこのためです。
建物請負契約を先送りする理由
この場合も、やはりこれまでと類似した理由です。
買主様からしてみたら、土地を購入するに際し、本当に売主、あるいはその指定業者が、自分たちが求める建物を建ててくれるかどうか判断したいですよね。
その為には、自分たちが求める建物を、せめて図面化したものだけでも示して頂きたかったりするわけです。
一方売主、あるいはその指定業者にしても、その図面を作成するには時間と費用を要しますから、土地を本当にご購入頂けるという、ある種の証が欲しかったりします。
そのような背景から、まず先に土地の売買契約を結ぶのが一般化しています。
売主の移転先発見を先送りする理由
この場合は、取引対象不動産が住宅用なのか事業用なのかによって違ってくるように思います。
住宅用の場合ですと、売主様が、今の住宅の売却目処が立ってから移転先住宅の購入順序に入りたい、などの意向の場合にこの手法が用いられたりします。
また事業用ですと、対象不動産の所在が人気エリアだったりした場合、買主様からしてみたら、売主様が気が変わったり、他者に売却したりする前に先に、契約を結んでしまいたい、という意向から用いられたりします。
売買契約における停止条件とその事例
これまで見て参りましたとおり、売買契約における未確定事項の先送りは、様々な理由や背景があって、売主と買主の双方合意に基づき用いられます。
しかし仲介業者としては、ここで新たな不安が浮上して参りますよね?
そうです、不確定事項を確定させて引渡す旨を特約に盛り込んだものの、何らかの事情で確定できなくて、買主様あるいは売主様が損害を被る事態になったらどうしよう、という類いの不安です。
でもご安心ください。
そういう場合に備え、「万が一、不確定事項が確定できなかった場合、この契約は無かったことにしましょう」とすることができるのです。
これを、停止条件と言います。
この記事では、停止条件とは何かについての詳細は割愛しますが、「不動産売買においては、契約時の未確定事項に停止条件を盛り込んで契約する場合が多い」ことを覚えておきましょう。
以下に、やはり上記事例に停止条件を盛り込んだ場合についてのご説明を記します。
境界確定測量を停止条件とする土地の売買契約
契約時の先送り事項であった、境界を明らかにする手段としての確定測量を、停止条件として契約を結ぶことができます。
隣地所有者等の協力を得られなかった等の理由にやり境界確定できなかった場合、売買契約は無条件で解約となります。
買主様の住宅ローンの本審査承認を停止条件とする売買契約
これは、いわゆる「ローン特約」と言われるものです。
契約時の先送り事項であった、買主様の住宅ローンの本審査承認を、停止条件として契約を結ぶことができます。
買主様が承認を得られなかった場合、売買契約は無条件で解約となります。
建物請負契約を停止条件とする、建築条件付き土地の売買契約
契約時の先送り事項であった、買主様を発注者とする建物請負契約の締結を、停止条件として契約を結ぶことができます。
買主様の建物に対するご要望の実現化が難しく請け負えない、あるいは、売主(指定業者)が要望を実現してくれず発注できない等の理由から、請負契約が結ばれなかった場合、土地の売買契約は無条件で解約となります。
売主の移転先発見を停止条件とする土地建物、あるいは土地の売買契約
契約時の先送り事項であった、売主様の移転先の発見を、停止条件として契約を結ぶことができます。
売主様が移転先を発見できなかった場合、売買契約は無条件で解約となります。
ただし、この種の停止条件は、一般的に用いられているとは言い難いです。
これを停止条件とすることを、買主様が拒むケースも多いです。
対象不動産が極めて人気の高いエリアに所在している等、取引の主導件が売主様側にあるような取引の場合に用いられたりします。
賃貸借取引における、未確定事項の先送りと停止条件
このように用いられる先送りや停止条件ですが、実は何も売買取引に限った訳ではありません。
賃貸借の場面でも、もちろん活用は可能です。
賃貸借では、停止条件を用いる場面はあまり無いように思いますが、先送りについては、事業用建物賃貸借などでかなり一般的に用いられます。
一方、部屋探し等住居賃貸においては、やはりこれらの手法は馴染まないように思います。
お部屋探し等住居賃貸は、やはり諸条件を整えてからの契約が、その取引特性に最も適しているように思います。
まとめ
いかがでしたか?
売買取引における契約行為は、賃貸借に比べやはり複雑で難しいです。
そこでまずは、売買契約では、未確定事項の先送りや停止条件が多用されているという事実を念頭に置くことにしましょう。
それら自体をすぐに活用できなくても、それらが多用されている事実を知れば、売買取引に対する難しい印象が、きっと緩和されると思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう!
□賃貸の「カッチリ感」と売買の曖昧さ
・賃貸(とりわけお部屋探し)
→「諸条件は契約前にカッチリ整えよ」がいわば鉄則
・売買
→未確定事項を先送りしたり、停止条件を盛り込んだりの契約が多用されている
□売買契約における、未確定事項の先送りの例
・境界を明らかにする手段としての確定測量等を先送りにしての売買契約
・買主様の住宅ローン本審査承認を先送りにしての売買契約
・建物請負契約の締結を先送りにしての建築条件付き土地の売買契約
・売主様の移転先発見を先送りにしての売買契約
□それらを先送りする理由
・確定測量等→売主様の費用負担が高い
・住宅ローン→銀行が売買契約書の写しを求める
・建物請負契約→買主は建物の図面を求めたい、売主(その指定業者)は、その図面を作成するのに土地購入の証がほしい
・移転先発見→買主様は、売主様が他者に売る前に買いたい(人気エリア等売主様側主導取引の場合)
□それらを停止条件とする売買契約
・土地の確定測量を停止条件とする売買契約
・住宅ローン本審査承認を停止条件とする売買契約
・建物請負契約を停止条件とする土地の売買契約
・売主様の移転先発見を停止条件とする売買契約
□賃貸借取引における先送り・停止条件
・事業用建物賃貸借では先送りは多用、停止条件は稀
・お部屋探し等住居賃貸は、やはり「諸条件をカッチリ整えてからの契約」が、その取引特性に合致。
この記事は、以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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