不動産会社で住居賃貸営業をやっていると、「1ヶ月前解約予告」という物件をよく目にしますよね!
でもこの解約予告って、そもそもどんな法律の、どんな箇所を根拠にしているのでしょう?
宅建テキストを見る限り、借地借家法ではなさそうですよね。
ということは、民法の賃貸借?
でも民法の賃貸借では、期間の定めのない賃貸借の解約は、「建物は申入れから3ヶ月後に、土地では1年後に終了」とだけあって、1ヶ月とはどこにも書いてないですよね。
どういうことでしょう?
実は住居賃貸の解約予告は、民法は民法でも、宅建テキストでは触れない箇所が根拠になっているんです!
この記事では、ほぼ全ての賃貸借契約書に登場する解約予告について、その法的根拠を確認しながら段階的にご説明します。
この記事を読めば、解約予告の全貌がはっきりしますよ!
では、どうぞ。
不動産賃貸の解約留保特約とは
不動産賃貸においてはほとんど全ての契約が、契約期間にかかわらず、事前にその旨を書面で伝えれば解約(退去)できますよね。
その規定は住居賃貸だったら1ヶ月(30日)前予告が主流でしょうし、店舗事務所だったら3ヶ月前だったり6ヶ月前だったりすると思います。
そしてこの規定のことを、現場では「解約予告」、「退去予告」、「中途解約」などと言ったりしますよね。
実はこの言葉、法律用語では「解約留保(りゅうほ)特約」と言います。
難しい言葉ですね、出所は何処でしょう?
民法です!
民法の618条という箇所に、下記のような定めがあります。
「期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する」
そしてここでいう「前条の規定」とは、宅建のテキストにも登場する、「建物は申入れの日から3ヶ月後、土地は1年後に終了する」という規定です。
なおこの「3ヶ月(土地は1年)」は、特約で違う期間に設定することもできます。
そしてまた「解約をする権利を留保したとき」とは、ざっくり申しますと、「解約をすることに合意したとき」ということです。
つまり不動産賃貸では、契約期間内に解約をすることに合意したときは、建物は3ヶ月前予告、土地は1年前予告前予告によって解約できる、更にその期間は特約で違う期間にできる、というわけです。
不動産賃貸における解約前予告(=解約留保特約)は、民法の618条を根拠にしています。
(注)
上記説明では、借地借家法は考慮していません。
民法617条と民法618条のポイント
上記に登場した民法617条と民法618条のポイントについて、宅建のテキストに登場する事項と絡め、改めて振り返っておきましょう!
(注)
この項では、借地借家法は考慮していません。
民法617条のポイント
まずは民法617条です。条文から見てみしょう。
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)
e-Govポータル 『デジタル庁』
第六百十七条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。
一 土地の賃貸借 一年
二 建物の賃貸借 三箇月
三 動産及び貸席の賃貸借 一日
(*「2の収穫の季節がある土地の賃貸借」の規定については省略します。)
民法の617条のポイントは下記の2点です。ちなみに2点とも、宅建テキストの記載事項です!
・期間の定めのない賃貸借は、各当事者はいつでも解約の申入れができる。
・期間の定めのない賃貸借は、解約申入れ後土地は1年、建物は3ヶ月の経過により契約が終了する。
民法618条のポイント
続いて民法618条です。やはりまずは条文を見ておきましょう。
(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)
e-Govポータル 『デジタル庁』
第六百十八条 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。
ここでのポイントは下記の3点です。はじめの2点は宅建テキストの記載事項ですが、最後の1点は記載されていません。
・期間の定めのある賃貸借は、期間の満了によって終了する。
・期間の定めのある賃貸借は、前提として、期間内解約をすることができない。
・期間の定めのある賃貸借であっても、解約留保特約があるときは民法617条に準じ、建物は3ヶ月前、土地は1年前の解約予告によって解約できる。
【重要】解約留保特約における解約予告期間について
上記では民法の618条によって、その賃貸借契約に期間の定めがあっても、解約留保特約があれば、617条の規定に基づき建物は3ヶ月前、土地は1年前の予告をもって解約できる、とご説明しました。
解約予告解約留保特約については、追加で押さえておきたい点が3つあります。
下記の通りです。
(注)
この項では、借地借家法は考慮していません。
1.解約留保特約に解約予告期間が設定されていない場合は617条の規定に従う
期間の定めのある賃貸借に、解約留保特約が付されていたら、その特約は有効です。
そしてその解約留保特約に、特に解約予告期間が定められておらず、ただ「契約期間内でも解約することごできる」というふうなっていたら、民法617条の規定に従います。
建物なら3ヶ月前予告、土地なら1年前予告になります。
2.解約留保特約に解約予告期間が設定されている場合はその期間に従う
一方期間の定めのある賃貸借の解約留保特約に、解約予告期間が設定されていたら、解約予告期間はその設定期間になります。
例えば住居賃貸において「1ヶ月前の予告をもって解約することができる」とあったら、1ヶ月前予告が有効となります。
3.「上記2」は617条の期間の定めのない賃貸借においても用いられる
民法の618条で認められる解約留保特約は、民法617条の期間の定めのない賃貸借においても用いることができます。
民法の617条によれば、建物は3ヶ月前、土地は1年前の予告をもって解約することができましたよね。
しかし例えば、期間の定めのない住居賃貸で、解約留保特約の解約予告期間が1ヶ月前となっていたら、解約予告期間は3ヶ月前でなく1ヶ月前になります。
なお法定更新によって更新された賃貸借契約の契約期間は、期間の定めのない契約となります。
この場合においても同様に、解約留保特約で定めた解約予告期間が有効となります。
建物賃貸における賃貸人からの解約予告と借地借家法
ここまでで不動産の賃貸借では、解約留保特約が付されていたら、その特約が有効となる旨をご説明しました。
賃貸借の対象が借地借家法によらない土地だったり月極駐車場だったりしたら、解約留保特約は特段の制約もなく、そのまま有効となります。
しかしそれが住居や店舗事務所等の建物の賃貸借の場合、借地借家法による制限を考慮する必要があります。
下記の通りです。
建物賃貸における賃貸人からの解約予告は、借地借家法により6ヶ月前に
賃貸借の対象不動産が建物の場合には、ご存じの通り借地借家法が適応されます。
そして解約予告についても、借地借家法の27条により、賃貸人からの解約予告は最低限で6ヶ月前にしなければならなくなります。
これは強行規定であり、仮に特約で1ヶ月や3ヶ月など、6ヶ月より短い期間を定めても、6ヶ月になります。
ちなみにこのことは、賃貸借契約の更新拒絶についても同様です。
建物賃貸における賃貸人からの解約予告は、借地借家法により正当事由を要する
では建物賃貸における賃貸人からの解約予告を6ヶ月前予告にしさえすれば、現に6ヶ月経過したら確実に解約できる、ということなのでしょうか?
実はそうではありません。
賃貸人からの解約予告には、賃貸人にもう一つ別の制限が加えられます。
建物の賃貸借においては、賃貸人からの解約は、借地借家法28条で、正当事由がなければすることができないと定めています。
ここで言う正当事由はご存じの通り、「これは正当事由ですね」とはなかなか成りません。
やはりこれは強行規定になります。
そしてこのことは、更新拒絶についても同様です。
結果として、建物賃貸における賃貸人からの解約予告はほぼ認められない
このように建物の賃貸借における賃貸人からの解約予告については、強行規定である借地借家法の27条と28条によって、結果としてほぼ認められないことになっています。
建物の賃貸借における解約予告の特約が、賃借人についてのみ定められているのは、このような理由からです。
なお同様に賃貸人からの更新拒絶も、ほぼ認められません。
まとめ
いかがでしたか?
不動産賃貸の解約予告規定は、このように様々な規定が複雑に絡み合って形成されています。
是非一度、整理して理解しておきましょう。
最後にもう一度、内容を振り返っておきます。
□不動産賃貸の解約予告・退去予告・中途解約
法律用語では「解約留保特約」と言い、民法618条で定められている。
□民法の617条と618条
・617条:期間の定めのない賃貸借/建物は3ヶ月、土地は1年を経過して解約
・618条:期間の定めのある賃貸借/原則期間内解約できない/解約留保特約は有効
□解約留保特約の解約予告期間
・解約予告期間が設けられていない→建物3ヶ月前予告、土地1年前予告
・解約予告期間が設けられている→特約の解約予告期間が有効
・期間の定めのない賃貸借においても、建物3ヶ月前、土地1年前と違う解約予告期間の特約は有効
□建物賃貸の解約予告と借地借家法
・賃貸人からの解約予告は、借地借家法によって最低限でも6ヶ月前。
・賃貸人からの解約予告には正当事由を要する。
*結果として賃貸からの解約予告はほぼ認められない。更新拒絶も同様。
以上です。
この度も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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