【不動産賃貸】「現状」と「原状」、正しく使い分けられてますか?

重要事項説明書や契約書を作っていて、「現状」と「原状」どちらを使ったらいいか、悩んだことないですか?

この記事では、まず「賃貸借」の意味をご説明し、更に「引渡し」と「明渡し」をご説明した上で、「現状」と「原状」についてご説明します。

この記事を読み終えた頃には、「現状」と「原状」を適切に使い分けられるようになっていますよ!

目次

特約事項での「現状」と「原状」の例

まず最初に下の文章をご覧ください。

「本賃貸借契約では、賃貸人は当該不動産を賃借人に現状で引渡すものとし、賃借人は賃貸人に原状回復して明渡すものとする」

このように「現状」と「原状」は、不動産賃貸の場面で、主に「引渡し」と「明渡し」と一緒に使われます。

どうも「現状」と「原状」を正しく理解するには、まずは「引渡し」と「明渡し」を、適切に理解する必要があるようです。

でもそもそも、「賃貸人」と「賃借人」て、どっちがどっちなんでしょう?

何だかゴチャゴチャしてきました。

順番に一つづつ見ていきましょう!

「賃貸人」と「賃借人」

「賃貸人」とは

賃貸人とは、自分の不動産を貸す側の人を指します。物件のオーナーさん、大家さん、借地の地主さんのことです。

貸主とも言います。賃貸借契約書では、よく「甲乙」の「甲」で表されます。

「賃借人」とは

賃借人とは、賃料を払って物件を借りる側の人を指します。

借主とも言います。賃貸借契約書では、よく「甲乙」の「乙」で表されます。

そもそも「賃貸借契約」とは

ここでしっかりと、「賃貸借契約」について確認しておきましょう。

「賃貸借契約」の定義

賃貸借契約とは、「賃借人が物件を使ったり、その物件を使って商売等をすることを賃貸人が認め、賃借人は賃貸人に賃料を払い、契約が終わったらその物件を返還することを約束をすること」を言います。

ポイントは下記の2つです。

「使用貸借」との違い

賃貸借においては、貸し借りにあたって賃料が発生します。無償ではありません。

賃料が発生しない場合は別の用語言になります。「使用貸借」と言います。この機会に押さえておきましょう。

「使用・収益」させる義務

賃貸人が賃借人に物件を貸したら「賃借人は物件を使うことができる」、この点は大丈夫ですよね。

ただ賃借人の権利(賃貸人の義務)は、「使うことができる」=「使用」だけではないです。

賃借人は借りた物件を使って、「商売や田んぼや畑などで利益を得るための行為」=「収益」もできます。

したがって例えば、賃借人がその物件で店をやり、莫大な金銭を得たとします。しかしだからといって、その一部を賃貸人に支払わなければならない、ということはありません。この点は、しっかり押さえておきましょう。

「引渡し」と「明渡し」

上記までで賃貸人と賃借人、また賃貸借契約について理解できたかと思います。

次に「引渡し」と「明渡し」を見ていきましょう。

「引渡し」とは

引渡しとは、目的物を占有できる権利を移すことを言います。

不動産賃貸借においては、その物件を占有できる権利を賃貸人から賃借人に移すことを言います。

賃貸人→(契約開始時)→賃借人

「明渡し」とは

一方明渡しとは、引渡しと同じ占有できる権利に加え、前の人の私物を撤去して引渡すことを言います。

不動産賃貸借においては、賃借人が物件から立ち退き、その物件を占有できる権利を賃貸人に戻すことを言います。

賃貸人→(契約書終了時)→賃借人

不動産賃貸の現場において、「明渡し」についてとても重要なことが一つあります。

それは「明渡し」の成立要件についてです。

明渡しが成立するためには、その物件に賃借人の物が何も残っていない状態にしなければなりません。

もし賃借人が、自分のものを放置したまま退去し、そのまま契約終了の日が来てしまったら、賃貸人から損害賠償を求める場合かあります。

(注)

「全国宅地建物取引業協会連合会」及び「全日本不動産協会」の賃貸借契約書の定型版では、現にそのような記載になっています。

明渡しの際、原則、物件管理会社の立ち会いチェックがあるとは思いますが、客付け仲介業者は、契約前にしっかりこの点をお客様にご説明しておきましょう。

ここまでのことを踏まえ、ここから「現状」と「原状」を見ていきましょう。

「現状」と「原状」

これらは共に「ゲンジョウ」と読み、その使われ方もとても似ている印象があります。

しかし実際には違ます。

「現状」とは

「現状」とは、「現在の状態」という意味です。そしてここで重要なのは「いつを基準とした現在なのか」ということです。

不動産賃貸借においては、「重要事項説明を受ける時、あるいは契約を取り交わす時」を指すのが一般的です。

重要事項説明書や契約書に、「本物件は現状での引渡しになります」とあったら、「この物件は契約を交わした時の状態で引渡します」という意味になります。

例えば、賃貸借契約を結んだ後にハウスクリーニングをして引渡すとしたら、重要事項説明書ではどう記載されるでしょう?

「本物件は現状での引渡しになります」と記載して正しいでしょうか?

ここでは誤りです。

なぜなら、「ハウスクリーニングを実施する前」の状態が「現状」だからです。

仮にこの場合、「本物件は現状での引渡しになります」としてしまったら、ハウスクリーニングをしないそのままの、やや汚れた状態で引渡すことになってしまいます。

正しくは、「本物件はハウスクリーニングを実施した後での引渡しになります」となります。

押さえておきましょう。

「原状」とは

次は「原状」です。原状とは「元の状態」という意味になります。そしてここでも重要なのが、「いつを基準とした元なのか」という点です。

不動産賃貸借においては「引渡しの時」、すなわち「不動産を占有できる権利が賃貸人から賃借人に移った時」を指すのが一般的です。

ここで気をつけなければならないのは、「重要事項説明や賃貸借契約を取り交わした時」を指すのではないということです。

再び先の例を引用します。先の例ではそれぞれ下記の通りでした。

①.「重要事項説明時」及び「契約事」→ハウスクリーニングを実施前の少し汚れた状態

②.「引渡し時」→ハウスクリーニング実施後の綺麗でスッキリした状態

これらのうち、「原状に戻す」とした場合はどちらを指すでしょう。

答えは、②の「ハウスクリーニング実施後の綺麗でスッキリした状態」を指します。

重要事項説明書や契約書に「明渡しの時には原状回復義務を負います」とか、「原状に復して明渡すものとします」とあったら、賃貸人は賃借人に、ハウスクリーニングを完了してから明渡さなければなりません。

別の例を挙げます。

例えば、引渡し時にエアコンとブラインドが付いていなかったので、賃借人が自らの費用負担で着けたとします。

この場合、もし賃借人に原状回復義務があったら、上記と同じように考えます。

賃貸借が開始された際、引渡しを受けた状態(原状)は、エアコンとブラインドが無い状態です。

したがって賃借人は、エアコンとブラインドを撤去してから明渡さなければなりません。

原状回復の免除と買取請求権

ここで一点、覚えておいて頂きたいことがあります。

主に事業用物件の賃貸借などで、賃借人に原状回復義務がある場合、「但し賃貸人が原状回復義務を免除した物に関しては、この限りではありません」という特約が付加されている場合がよくあります。

これはどういうことでしょう?

先のエアコンとブラインドの例でご説明します。

賃借人がせっかく設置したエアコンとブラインド、撤去するにも費用が掛かるので、できるば撤去が免除されたら嬉しいです。

また賃貸人からすれば、もしこのエアコンとブラインドの状態が良い場合、それらが付いていたら、「この物件にはエアコンとブラインドが付いてますよ」と言って新たな賃借人が募れ、メリットになります。

このように明渡し時においては、原状回復を免除したほうが、賃借人・賃貸人共にメリットになる場合があります。

そのような場合を予め想定し、残置を容認できる特約が定められている場合がよくあります。

更にこの場合、あたかもその特約とセットのように、「但し賃借人は賃貸人に対し、それらを買い取るよう求めることはできません」という特約も付加されている場合が多いです。

これは何なのでしょう?

原状回復が免除された場合、逆に賃借人から「追加設置した物を買い取ってください」と言われたら、賃貸人は困ってしまいますよね。

実は、賃借人の賃貸人に対するこのような権利は、「買取請求権」と言って賃借人に本来備わっている権利なのです。

しかし建物賃貸借について定めた「借地借家法」という法律で、「買取請求権を認めません」、として良いことになっています。

よって建物賃貸借の現場でも、原状回復を免除する一方で、「買取請求権を認めない」とする特約も一緒に定め、そのようなことが言えないようにしています。

まとめ

似ている「現状」と「原状」ですが、このように、意味と使われ方には違いがあるのです。

最後にもう一度、整理しておきます。

賃貸人と賃借人

□賃貸人:貸す人、貸主

□賃借人:借りる人、借主

引渡しと明渡し

□引渡し:賃貸人→(契約開始時)→賃借人

□明渡し:賃借人→(契約終了時)→賃貸人

*成立要件→賃借人の私物が無い。

現状と原状

□現状:今の状態=重説時、契約時

*現状で引渡す→重説時、契約時の状態で引渡す。

□原状:元の状態=引渡し時

*原状回復して明渡す→引渡し時の状態に戻して明渡す。

*賃貸人が残置を認めることを想定した特約が付加される場合が多い。

*一緒に、「賃借人の買取請求権を認めない」とする特約も付加される場合が多い。

以上になります。

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この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

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