住居賃貸から少しづつ土地賃貸借へと取引の幅を広げていくと、扱っている賃貸借が、借地借家法に当たるか当たらないか、宅建業法に当たるか当たらないか、迷うことはありませんか?
実は、この記事を読めば、その辺りがスッキリします。
この記事では、借地借家法における「借地」と宅建業法における「宅地」を組み合わせて分類し、それぞれのポイントについてご説明します。
この記事を読めば、賃貸借契約書の定型書式の選択や、中途解約のタイプ、重要事項説明義務の有り無しなどに、もう迷はなくなりますよ!
では、どうぞ。
「借地」と「宅地」
土地の賃貸借では、対象となる土地が「借地」かどうか、また「宅地」かどうか、という点を正しく見極めることが大切です。
なぜでしょう?
それは、その土地が「借地」か「借地」でないか、「宅地」か「宅地」でないかで、様々なことが異なってくるからです。
例えば、宅建協会などが出している、契約書の定型書式の種類が異なります。
また、中途解約ができるかできないかも異なります。
更には、宅建業者が仲介に入った場合に、頂ける手数料の額の規定も異なってまいります。
ではこの、「借地」かどうか、「宅地」かどうかを正しく見極めるには、どういう点を押さえておけばいいのでしょう?
更には、どういう場合に、どういう規定が採用されるのでしょう?
以下に順番に見て参りましょう!
「借地」の定義
まず最初に「借地」とはどういうものか、改めて確認しておきます。
ここで言う「借地」とは、土地の賃貸借の際に、借地借家法が適用される土地のことです。
では、借地借家法が適用される土地とはどういうものか、それは下記の通りです。
Aさん所有の土地をBさんが借りました。そしてBさんはその土地に建物を建てました。その建物の所有者はBさんです。
このように、自分の建物を建てようとして、人から土地を借りた時、その借りた土地が借地借家法の借地になります。
「宅地」の定義
続いて「宅地」です。
ここで言う「宅地」とは、土地を扱う際に、宅地建物取引業法が適用される土地のことです。
では、宅地建物取引業法が適用される土地とはどういうものか。
下記の通りです。
①.現在、建物が建っている土地
②.①ではないが、建物を建てる目的で取引する土地
③.①でも②でもないが、用途地域内の土地(ただし、現在・道路・公園・河川・広場・水路である土地を除く)
「借地」と「宅地」の組み合わせによる分類
ここまでで、借地借家法でいう「借地」、また宅地建物取引業法でいう「宅地」が、それぞれどういうものか、ご確認頂けたかと思います。
では、これら「借地」と「宅地」を組み合わせ、どういう種類の土地賃貸借になるか、見ていきましょう!
まずはシンプルに、組み合わせたものを書き出してみます。
下記のようになります。
・「借地」でありかつ「宅地」である土地
・「借地」であるが「宅地」でない土地
・「借地」でないが「宅地」である土地
・「借地」でなくかつ「宅地」でない土地
次に、上記の4つを整理してみます。
まず、「借地」でありかつ「宅地」である土地は、シンプルに「借地」と見ます。「借地」であれば100%「宅地」だからです。
また、「借地」であるが「宅地」でない土地というのは外します。やはり「借地」であれば100%「宅地」であるため、そういう土地は存在しないからです。
したがって最終的には、下記の3つになります。
A.「借地」
B.「借地」でないが「宅地」である土地
C.「借地」でなくかつ「宅地」でない土地
さらに上記3つに、Dとして「月極駐車場」を加えます。
D.「月極駐車場」
これで、私たち宅建業者が関わる、建物賃貸借以外の賃貸借取引が全種類出揃いました!
私たち宅建業者は、建物賃貸借である「住居賃貸借」と「事業用建物賃貸借」に加え、この4つの賃貸借取引に関わることになるのです。
A.「借地」
B.「借地」でないが「宅地」である土地
C.「借地」でなくかつ「宅地」でない土地
D.「月極駐車場」
では以下に、それぞれについて、定型契約書の種類、中途解約、報酬などの観点から、少し詳しめに見ていくことにしましょう!
A.「借地」の賃貸借
ではまず、借地借家法における「借地」から見てみます。下記の通りです。
【法の適用】
借地借家法○/宅地建物取引業法○
【用いられる契約書の書式】
借地権設定契約書など
【中途解約】
原則、賃借人からも賃貸人からも中途解約できません。ただし予め、特約で中途解約をできるとする条項を盛り込んでおけば、賃借人に限りできます(借地借家法)。
ではもし仮に、特約で、賃貸人も中途解約できるとしてしまった場合はどうなるでしょう。その場合、「賃貸人ができる」という部分は無効になってしまいます。
【重要事項説明】
「借地」は「宅地」になり、宅建業者が仲介に入ったら宅建業法が適用されます。重要事項説明はしなければなりません。
【報酬】
宅建業者が仲介に入ったら宅建業法が適用されます。報酬は、宅建業法の規定の範囲内でなければなりません。
(注)
借地借家法による土地の賃貸借は、建物賃貸借とは別の知識を要します。また取引の種類も様々あります。この記事では、それらの詳細は割愛します。
B.「借地」でないが「宅地」である土地の賃貸借
次に、借地借家法における「借地」には当たりませんが、宅建業法における「宅地」に当たる、土地の賃貸借を見ていきます。下記の通りです。
【法の適用】
借地借家法✕→民法の賃貸借○/宅地建物取引業法○
【用いられる契約書の書式】
借地借家法によらない土地の賃貸借
【中途解約】
賃借人及び賃貸人の双方から、中途解約できます(民法)。
【重要事項説明】
「宅地」の賃貸借は、宅建業者が仲介に入ったら宅建業法が適用されます。重要事項説明はしなければなりません。
【報酬】
宅建業者が仲介に入ったら宅建業法が適用されます。報酬は、宅建業法の規定の範囲内でなければなりません。
C.「借地」でなくかつ「宅地」でない土地の賃貸借
次に、借地借家法における「借地」には当たらず、かつ宅建業法における「宅地」にも当たらない、土地の賃貸借を見てみます。下記の通りです。
【法の適用】
借地借家法✕→民法の賃貸借○/宅地建物取引業法✕
【用いられる契約書の書式】
借地借家法によらない土地の賃貸借
【中途解約】
賃借人及び賃貸人の双方から、中途解約できます(民法)。
【重要事項説明】
「宅地」でなければ宅建業法は適用されません。宅建業者が仲介に入った場合であっても、重要事項説明は義務ではありません。
【報酬】
宅建業法は適用されません。宅建業者が仲介に入った場合の報酬においても、宅建業法の規制を受けることはありません。
ただし現場においては、宅建業法の規定の範囲で受領する場合が多いようです。
D.「月極駐車場」の賃貸借
最後に月極駐車場です。そもそも、車1台ごとの月極駐車場は、「月極駐車場という施設」として扱われます。土地としては扱われません。もちろん建物でもありません。
よって、「借地」でも「宅地」でもありません。
【用いられる契約書の書式】
月極駐車場使用契約書
【中途解約】
賃借人及び賃貸人の双方から、中途解約できます(民法)。
【重要事項説明】
「宅地」でなければ宅建業法は適用されません。宅建業者が仲介に入った場合であっても、重要事項説明は義務ではありません。
【報酬】
宅建業法は適用されません。宅建業者が仲介に入った場合の報酬においても、宅建業法の規制を受けることはありません。
ただし現場においては、宅建業法の規定の範囲で受領する場合が多いようです。
(注)
月極駐車場の使用契約を、賃貸借とまでは言えないとする見方もございます。
また一方で、不動産適正取引推進機構の月極駐車場に関する事項の記載箇所や、全国宅地宅建取引業協会が出している駐車場使用契約書の書式の中では、現に「賃貸借」という言葉が登場します。
この記事では、不動産適正取引推進機構及び全国宅地宅建取引業協会に習い、月極駐車場の使用契約を賃貸借としてご説明しています。
土地の賃貸借と月極駐車場の賃貸借の具体例
ここからは、A~Dの賃貸借が具体的にどういうものなのか、それぞれの事例を見ていくことにしましょう。
「A.『借地』の賃貸借」の事例
「非線引き区域にある用途地域でない土地に、自らが所有する建物を建てる目的で土地を借りた」
(説明)
自ら所有する建物を建てる目的の土地賃貸借ですので、借地借家法が適用されます。
用途地域ではありませんが、建物を建てる目的ですので、「宅地」になります。
そもそも、「借地」に当たる訳ですから「宅地」でもあります。
「B.『借地』でないが『宅地』である土地の賃貸借」の事例
「用途地域の空き地を、月極駐車場にして転貸するために借りた」
(説明)
建物を建てる目的ではありませんので、借地借家法の「借地」ではありません。ただし、用途地域内ですので宅建業法でいう「宅地」になります。
賃借人は、月極駐車場にして転貸する予定ですが、当初の賃貸借の対象不動産は「空き地」です。空き地は土地ですので「宅地」です。
「C.『借地』でなくかつ『宅地』でない土地の賃貸借」の事例
運送会社が、自社で所有する大型トラックの駐車場として、市街化調整区域にある広い土地を借りた。
(説明)
駐車場として使うので、「借地」ではありません。また市街化調整区域内ですので「宅地」でもありません。
「D.『月極駐車場』の賃貸借」の事例
「地主自らが、用途地域にある農地を転用して造った月極駐車場を、2台目駐車場として1台借りた」
(説明)
車1台ごとの月極駐車場の賃貸借ですので、土地ではなく「駐車場という施設」として扱われます。用途地域であっても「宅地」ではありません。
まとめ
いかがでしたか?
私たちが、建物以外の賃貸借に携わる場合は、その不動産が、A、B、C、Dのどれに当てはまるか検証してみると、整理しやすいです。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう!
□「借地」
借地権設定契約書など/中途解約→賃借人のみ特約でできる/重要事項説明義務あり/宅建業法の報酬規定あり
□「借地」でないが「宅地」である土地
借地借家法によらない土地の賃貸借/中途解約→賃貸人と賃借人の双方できる/重要事項説明義務あり/宅建業法の報酬規定あり
□「借地」でなくかつ「宅地」でない土地
借地借家法によらない土地の賃貸借/中途解約→賃貸人と賃借人の双方できる/重要事項説明義務なし/宅建業法の報酬規定の制限受けない
□「月極駐車場」
月極駐車場使用契約書/中途解約→賃貸人と賃借人の双方できる/重要事項説明義務なし/宅建業法の報酬規定の制限受けない
この記事は、以上になります!
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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