賃貸のお部屋探し(住居賃貸営業)をやっていると、「賃借人からだけ中途解約できる」となっている契約書をよく見ますよね。
でもこれ、「賃貸人からも中途解約できる」となっている契約書も、あるのでしょうか?
この記事では、不動産賃貸借で大切な「民法」と「借地借家法」という2つの法律に触れつつ、この辺りのことについて深掘りします。
この記事を読めば、なぜ住居賃貸が「賃借人からだけ中途解約できる」かが解り、また不動産賃貸借そのものの理解も深まります!
では、どうぞ。
賃借人ができる中途解約、実は賃貸人からも
まず、以下の文章をご覧になってみてください。
甲(賃貸人)又は乙(賃借人)は、相手方に対し、○ヶ月前までに解約を申入れることにより、本契約を終了することができる。・・・①
この条項、何だか違和感ありませんか?
中途解約できるのが、賃貸人と賃借人の双方になっていますよね。
私たち、不動産業に携わる者の多くが、そのキャリアを賃貸のお部屋探し(住居賃貸営業)からスタートさせると思います。
そして先輩や上司からは、「中途解約できるのは賃借人からのみ」と叩き込まれていたりするのではないでしょうか。
そんな我々にとっては、上記(①とします)の条項ではなく、
乙(賃借人)は、甲に対し、○ヶ月前までに解約を申入れることにより、本契約を終了することができる。・・・②
という、賃借人だけが中途解約できる(②とします)条項こそ、正しく感じますよね。
はたしてどうなのでしょう、①は誤りなのでしょうか?
でも実は、そうではありません。①の条項も存在します。
一体どういうことでしょう?
以下に見ていきましょう。
民法と借地借家法の関係性
双方が中途解約できる「民法」/賃借人のみが中途解約できる「借地借家法」
まず、最初に押さえておかなければならない点があります。
実は、①(←双方が中途解約できる)と、②(←賃借人のみ中途解約できる)とでは、根拠となる法律が異なる、という点です。
①は「民法」で、②は「借地借家法」になります。
①も②も、共に不動産の賃貸借取引の条項で、いわば類似の取引ですよね。
にもかかわらず、①が「民法」で②が「借地借家法」というふうに、根拠となる法律が異なるとは、どういうことでしょう?
このことを理解するには、「民法」と「借地借家法」の関係性を見ておく必要があります。
以下に、鬼ごっこを例にご説明します。
「民法」の特別法である「借地借家法」
鬼ごっこの基本ルールは一般的に、「鬼役の人に1回タッチされたら、鬼役がタッチされた人に代わる」というものですよね。
仮にこの鬼ごっこメンバーに、一人だけ小さい子が居たとします。
するとメンバーは、その子だけ特別に、「タッチ3回で鬼役になる」というルールを設けたりしますよね。
不動産賃貸借における「民法」と「借地借家法」の関係性も、この「1回ルール」と「3回ルール」の関係性によく似ています。
そして、ベースとなる「1回ルール」に相当するのは、実は、①(←双方が解約予告できる)の条項の根拠である「民法」のほうになります。
②ではありません。
②(←賃借人のみ中途解約できる)の条項の根拠である「借地借家法」は、特別な場合に用いられる「3回ルール」のほうに相当するのです。
②に親しみがある私たちには違和感がありますね!
でも、こうなります。
このように、不動産の賃貸借においては、まずベースとなる法律として「民法」があり、特別な場合に適用される法律として「借地借家法」があるのです。
借地借家法の適用要件と賃借人保護
借地借家法の適用要件
上記の鬼ごっこのご説明で、「3回ルール」が適用されるのは、「小さい子」という特別な場合に限られると申しました。
では、不動産賃貸借において、借地借家法が適用される特別な場合とは、どういう場合なのでしょう?
それは、賃貸借の対象不動産が、下記の2つの場合になります。
A.賃借人が自ら所有する建物を建てる目的で借りる土地
B.建物
このAとBの場合に限り、借地借家法が適用されるのです。
これに当たらない不動産賃貸借には、借地借家法は適用されません。
借地借家法による賃借人保護
ではなぜ、わざわざこのような特別な法律を適用する必要があるのでしょう?
これもやはり、鬼ごっこの「3回ルール」の適用に似ています。
賃借人が賃借しようとする不動産が上記AとBの場合、そのまま民法を適用してしまうと、賃借人が不利になると考えられているからです。
借地借家法は、AとBの場合に限り、賃借人を保護するために適用されるのです。
私たちに馴染み深いお部屋探し(住居賃貸)も、上記AとBのうちのBに当たります。
お部屋探しのお客様方(賃借人)は、借地借家法によって保護されているのです。
中途解約における②(←賃借人のみ中途解約できる)の条項は、借地借家法による賃借人保護が分かりやすく表れているものの1つと言えると思います。
(注)
借地借家法による借家契約においても、諸条件をクリアすれば賃貸人から解約が言え、正当事由が認められれば解約となる場合があるとされていますが、この記事では、その詳細は割愛します。
まとめ
いかがでしたか?
取引の幅を広げていくうちに、借地借家法ではなく、民法を根拠とする賃貸借も、きっと扱うようになると思います。
その時は、是非またこの記事を読み直してみて頂けたらと思います!
最後にもう一度、内容を確認しておきます。
□賃貸借契約の中途解約条項
・双方が中途解約できる→「民法」
・賃借人のみ中途解約できる→「借地借家法」
□借地借家法の適用要件
・賃借人が自ら所有する建物を建てる目的で借りる土地
・建物
□借地借家法による賃借人保護
住居賃貸の「賃借人のみ中途解約できる」という中途解約の条項には、借地借家法による賃借人保護があらわれている。
この記事は、以上になります!
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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