不動産会社で店舗や事務所等、事業用建物賃貸営業をやっていると、サービス店舗という言葉を耳にしませんか?
このサービス店舗という言葉、どういう意味なのでしょう?
この記事では、不動産会社で店舗・事務所等、事業用建物賃借営業に携わる場合に、是非知っておきたいサービス店舗について、わかりやすくご説明します。
では、とうぞ。
サービス店舗とは
事業用建物賃貸物件には、主としてその用途が事務所の物件と、店舗の物件とがあります。
事務所の物件と店舗の物件とでは、その安全基準が異なります。
事務所の物件は、不特定多数の人々の出入りが無いことを前提に建てられていますが、店舗の物件は、その出入りがあることを前提に建てられています。
したがってその安全基準は、事務所の物件よりも、店舗の物件のほうが厳しいです。
以上のことから一般的には、用途が事務所の物件に、店舗が入ることはできません。
具体例で申しますと、オフィス仕様の物件に飲食店は入れない、ということです。
しかし一部の店舗については、その用途が事務所である物件にも、入ることができます。
そして、事務所の用途にも入れる店舗のことを、サービス店舗と言います。
サービス店舗は、店舗であるにもかかわらず、建築基準法の用途としては、事務所扱いになります。
したがって、用途が事務所の物件にも入ることができるわけです。
サービス店舗の具体的な種類
サービス店舗、すなわち店舗だけど、事務所用途として扱われるものには、下記のようなものがあります。
A.理髪店、美容院、質屋等
B.学習塾、囲碁教室、バレエ教室等
C.銀行の支店、損害保険代理店、不動産屋等
D.ネイルサロン、エステサロン、カイロプラクティック、ペットケア、動物病院等
E.入院施設が無い診療所
(注)
「E.入院施設が無い診療所」は、サービス店舗とは言い難いですが、事務所でないけど、事務所の用途として扱われる点は、サービス店舗と同一なので、ここに掲げておくこととします。
サービス店舗と用途変更の確認申請
不動産会社で店舗・事務所等、事業用建物賃貸の営業に携わっていると、用途変更という言葉を耳にすると思います。
用途変更とは、テナントが入れ替わる時などに、その用途が変更することを言います。
そしてその面積が200m2を超え、かつ特殊建築物に変更となる場合には、用途変更の確認申請が必要になります。
例えば、今まで物販店が入っていた物件に、飲食店が入るとします。
そしてその店舗の床面積が、200m2を超えているとします。
この場合、用途が物販店から飲食店に変更になるので用途変更になり、かつ飲食店は特殊建築物なので、確認申請が必要になります。
ではもし物販店の後に、美容院が入ったらどうでしょう?
用途変更の確認申請は必要でしょうか?
答えはNoです。必要ありません。
上述したように、美容院はサービス店舗であり、サービス店舗の用途は事務所になります。
床面積が200m2を超え、物販店からサービス店舗へ用途が変更されても、サービス店舗は事務所であり特殊建築物ではないので、確認申請は必要ありません。
サービス店舗を扱う場合の注意点
ここからは、サービス店舗を扱う上で、注意しておきたいことについて、見ていきます。
一見サービス店舗のように思えても、特殊建築物扱いとなる場合がある
上述の通り、例えばエステサロンは、サービス店舗として扱われます。
ただしその店舗が消費者向けに「当店はエステサロンです」と謳っていたとしても、建築基準法においては、特殊建築物となる場合があります。
仮にそのエステサロンが、施術の1つとして、医療行為に該当する行為も行っていたとします。
この時点でそのエステサロンは、サービス店舗ではなく診療所になります。
更にそのエステサロンに、一定数以上のベッドがあるとします。
すると入院施設があることになり、結果として、入院施設がある診療所として扱われます。
入院施設のある診療所は特殊建築物です。
もはやサービス店舗ではありません。
またエステサロンやリラクゼーションサロンで、浴室やサウナ等を設ける場合は要注意です。
それらを一定規模以上設置したら、特殊建築物になります。
このようにサービス店舗は、そのサービス内容(ソフト面)や設置される設備(ハード面)によって、サービス店舗でなく特殊建築物になる場合があります。
サービス店舗は、オーナーによる業種制限等で賃借できない場合がある
またサービス店舗は、オーナーが入店可能な店舗の種類に制限を設けていて、それが原因で賃借できない場合もあります。
例えば、とある繁華街の小規模ビルに、様々な業種の店舗が入っていて、とりわけネイルサロンの割合が高かったとします。
そんな折、空き区画に、更にネイルサロンが賃借したとします。
すると以前から賃借していたネイルサロンが、競合が多すぎることによる収益悪化で退去したとします。
その結果このビルのオーナーは、以後ネイルサロンの賃借を拒むようになったとします。
このようにサービス店舗は、建築基準法のハードルが低くて賃借し易いことから、競合による退去連鎖を回避したいと考えるオーナーにより、賃借が制限される場合があります。
サービス店舗は、給排水設備が設けられない等の理由で賃借できない場合がある
更にサービス店舗は、用途としては問題なくても、給排水設備が設けられない等の理由で、賃借できない場合があります。
例えば市街地にある、その用途が事務所のオフィスビルに、美容院が入ろうとしたとします。
美容院はサービス店舗ですから、用途が事務所の物件にも入ることができます。
しかしそのオフィスビル内の各部屋には、ミニキッチン、洗面台、トイレが無く、各フロアごとに洗面台とトイレが設けられていたとします。
このような場合、各部屋に給排水の配管が来ていない場合があります。
各部屋に給排水配管が来ていない場合、配管工事によって美容院が入ろうとする区画だけ、給排水設備を設置できる場合もあります。
しかしビルオーナーが、物件の維持管理の観点から、それを承諾しない場合もあります。
サービス店舗にはこのように、その店舗が必要とする設備、主として給排水設備が、物件に備わっていないことが理由で、賃借できない場合があります。
サービス店舗から物販店舗への用途変更には要注意
不動産の店舗・事務所等、事業用賃貸の営業をやっていると、貸主側仲介として、サービス店舗を扱うこともあると思います。
その場合、新たな賃借人の店舗の種類が物販店舗だったら、用途変更に当たることをしっかり理解しておく必要があります。
例えば、これまで学習塾が入っていた一定規模以上の物件に、新たに本屋が入ろうとしているとします。
学習塾はサービス店舗ですが、一定規模以上の本屋は、特殊建築物になります。
事業用建物賃借に慣れないと、学習塾と本屋は、あたかも同一用途であるかのように感じますが、もちろん同一用途ではなく用途変更になり、その床面積が200m2を超えていたら、用途変更の確認申請が必要になります。
当初の種類がサービス店舗だった物件を扱う場合には、用途変更の見落しに注意しましょう。
まとめ
いかがでしたか?
店舗・事務所等、事業用建物賃借営業に携わる上では、サービス店舗と特殊建築物をしっかり区別できると、何かと助けになります。
是非この機会にサービス店舗を押さえ、実務に役立てて頂けたらと思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□サービス店舗
*その用途が事務所として扱われる店舗
理髪店/美容院/質屋/学習塾/囲碁教室/バレエ教室/銀行の支店/損害保険代理店/不動産屋/ネイルサロン/エステサロン/カイロプラクティック/ペットケア/動物病院/入院施設が無い診療所等
□サービス店舗を扱う上での注意点
・サービス内容や設置設備によっては、特殊建築物になる場合がある。
・競合による退去連鎖を回避したいと考えるオーナーにより、賃借が制限される場合がある。
・物件に給排水設備が備わっていないことで、賃借できない場合がある。
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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