不動産会社で賃貸や売買の営業をやっていて、上司や先輩が「それはオボエガキで対応しよう」などと言っているのを聞いて、オボエガキってなに?と疑問に思ったことはありませんか?
オボエガキは「覚書」と書きますが、はたしてどういうものなのでしょう?
この記事では、不動産の賃貸や売買で時々用いられる覚書について、わかりやすくご説明します。
とりわけ、その活用頻度が多いとされる、越境問題に関する覚書については、少し詳しめに見ていくことにします。
では、どうぞ!
覚書(おぼえがき)とは
今仮にある人とある人が、何らかの約束ごとをしたとします。
覚書とは、それら約束ごとを文面化して、その下に、当事者の記名・押印を施した書面のことを言います。
不動産の賃貸や売買においては、そのような書面は、一般的には契約書ですよね。
覚書も契約書も、双方の約束ごとを文面化して、当事者の記名・押印を施したものです。
ということは覚書とは、契約書と同じものなのでしょうか?
ややこしいですが、実はその役割自体は、覚書も契約書も同じであるとされています。
ではなぜ、わざわざ覚書を用いるのでしょう?
以下この点について、見ていくことにしましょう。
覚書の役割
不動産の賃貸や売買における覚書の主な役割は、以下の2つです。
1.契約書の補助的役割として用いられる。
2.契約の当事者でない者との約束ごとが関係してくる場合に用いられる。
以下、順番に見ていきましょう。
1.覚書は、契約書の補助的役割として用いられる
実は不動産の賃貸や売買においては、特別な事情がなければ、覚書は登場しません。
しかし実務においては、契約書を締結する段階では、まだ未確定な事項があったり、契約書の内容を、一部変更する必要が出てきたりします。
そういう場合、また一から契約書を締結し直すと、面倒と言えば面倒ですし、その都度契約書を締結し直すことが慣例化してしまっては、あまりよろしくありません。
できれば契約書は契約書のままにして、新たに生じた約束ごとを追加したり、内容の一部変更を文面化できる手段があったら、それを活用したいところです。
そこで登場するのが覚書です。
つまり覚書とは、不動産の実務において、契約締結の後から新たな約束ごとが生じたり、契約書の内容が一部変更になったりした場合に、契約書の補助的役割として取り交わす書面になります。
2.覚書は、契約の当事者でない者との約束ごとが関係してくる場合に用いられる
また不動産の賃貸なり売買の契約においては、契約の当事者間の約束ごとだけでなく、その隣接地等との約束ごとが関わってくる場合があります。
不動産売買における、越境に関する約束ごとなどがその例です。
このように、契約当事者でない方が関わってくる場合には、やはり覚書が用いられたりします。
なお越境に関する覚書については、後程少し詳しくご説明します。
不動産の覚書の一般的な形式
では覚書は、どのような構成で作られるのでしょう?
まず覚書は、契約書と同様に、2通作成します。
そして当事者双方が記名・押印し、双方それぞれ1通づつ保管します。
そして不動産に関係してくる覚書は、一般的には、下記の5つから構成されています。
1.表示-タイトル
2.上段-「合意した」という事実の記載
3.中段-詳しい合意内容
4.下段1-記名押印欄
5.下段2-不動産の表示
以下に、少し詳しくご説明します。
【不動産の覚書の一般的な形式】
1.表示-タイトル
最初に、「Aに関する覚書」といったタイトルが来ます。
Aには何に関する覚書なのか、そのキーワードが入ります。
2.上段-「合意した」という事実の記載
次に、「BとCは、Dについて、次のとおり合意した。」という文言が来ます。
BとCには覚書の当事者(以下の甲乙)、Dには覚書の対象となる場所が入ります。
この箇所で、「誰と誰が何処のことについて、次のとおり合意した」という事実を、しっかり掲げます。
最後に「次のとおり合意した」と結んで、詳しい合意内容を以下の3に譲るのもポイントです。
3.中段-詳しい合意内容
2から譲られた詳しい合意内容を、箇条書き等で列記します。
4.下段1-記名押印欄
覚書当事者の記名・押印欄がその下に来ます。
日付記入欄、甲の記名押印欄、乙の記名押印欄、という順番で設けます。
5.下段2-不動産の表示
2のDで触れた場所が、どの不動産の敷地内なのか、その不動産の地番・面積を、最後に記します。
覚書の効力を第三者にまで及ばせる方法
不動産の覚書は、賃貸や売買の契約の当事者以外の者が関係してくるときに、用いられる場合があることは、上述した通りです。
そして、その用いられ方の中で特にポピュラーなのが、越境の覚書だと思います。
越境の覚書は、不動産の売買において、まず売主と隣接地所有者が、当事者の甲、乙となって締結します。
そしてその後に、物件が売主から買主に引渡されます。
ところが一般的な覚書の形式だと、ここで問題が生じてしまいます。
この覚書は、前の所有者である売主と、隣接地所有者とで結んでいます。
でも引渡した後は、その売主は、もはやこの覚書とは無関係になってしまいます。
いわば実質的には、覚書が効力を失ってしまうわけです。
このようなタイプの覚書は、そもそも新たな所有者となる買主を保護するために、作成されていたりします。
でも通常の形式では、買主が所有者となった時点で、効力が無くなってしまうわけです。
では引渡し前に、買主と隣接地所有者とが当事者となって、覚書を交わせばいいのでしょうか?
それは出来ません。
物件引渡し前は、買主はその物件の所有者で
も何でもありませんよね!
赤の他人が割って入って、約束ごとを交わすことになってしまいます。
さてこういう場合、どうしたらいいでしょう?
実はこのようなタイプの覚書では、当初の当事者が変わった場合でも、次の該当者にもその効力が及ぶよう、布石が打たれています。
このような場合の次の該当者のことを、法律の言葉で第三者と言います。
越境の覚書では、「本物件を第三者に譲渡したときは、その第三者にも本覚書の効力が及ぶものとする。」といった文言を入れます。
入れる箇所としては、上記「3.中段-詳しい合意内容」の最後尾が一般的です。
そうすることで、物件が引渡された後でも、その覚書にある約束ごとは、買主と隣接地所有者とのあいだで、効力を保持し続けることになるわけです。
越境の覚書の基本形式
越境の覚書は、不動産売買においては、いわば「定番」であるようです。
私の勤務先が所属する宅地宅建取引業協会連合会では、越境の覚書の定型書式が、随時ダウンロードできるようになっています。
他の団体でも、ダウンロードできるようになっていなくても、相談窓口からファックス等で取り寄せることが可能ではいかと思います。
お時間あるときにでも、是非ご確認されておくと良いと思います。
なお参考までに、越境の覚書の基本的な形式を、以下に簡単にまとめておきます。
ただし一部省略していますので、実務においては、所属の団体が示している雛型等を用いるようにして頂けたらと思います。
ポイントは、「『隣接地所有者は、将来建て替え等を行う際に、越境部分を撤去等して解消する』ということに、双方が合意した」という事実を、しっかり掲げることです。
そして、「本物件を第三者に譲渡したときは、その第三者にも本覚書の効力が及ぶ」ということも、忘れずに入れることです。
【越境に関する覚書の形式(一部省略)】
1.表示-タイトル
「越境に関する覚書」
2.上段-「合意した」という事実の記載
「a(以下甲)とb(以下乙)は、a所有の後記表示の土地上のcにつき、b所有の後記表示の土地に越境している部分について、次のとおり合意した。」という文言が来ます。
aには隣接地所有者の氏名、bには売主の氏名、cには建物または工作物が入ります。
越境しているのが建物の一部だったら建物が、ブロックなどの工作物の一部だったら工作物が入ります。
繰り返しになりますが、この箇所で、「誰と誰が何処のことについて、次のとおり合意した」という事実を、しっかり掲げます。
そして最後に「次のとおり合意した」と結んで、詳しい合意内容を以下の3に譲ります。
3.中段-詳しい合意内容
合意内容を、下記の通り箇条書きで示します。最後尾に第三者にも効力を及ばせることをしっかり示します。
・甲所有の土地に定着するcの一部が、乙所有の土地に越境していることを確認する。
・甲は将来、建て替えまたは工作物の付け替えを行う際には、越境部分を撤去するものとする。
・甲または乙が、対象不動産を第三者に譲渡したときは、当該第三者に対し本覚書の内容を承継させるものとし、効力が及ぶものとする。
4.下段1-記名押印欄
覚書当事者の記名・押印欄がその下に来ます。
日付記入欄、甲の記名押印欄、乙の記名押印欄、という順番で設けます。
5.下段2-不動産の表示
2のcで触れた場所が、どの不動産の敷地内なのか、その不動産の登記情報を記します。
・甲の土地の所在・地番・面積(越境が建物の一部の場合は、その建物の所在・家屋場合・種類・構造・延床面積)
・乙の土地の所在・地番・面積
なおこの覚書の形式は、不動産売買において、境界確定後に越境が明らかになっている場合を想定しています。
いわば境界がどこであるかは、確定測量に伴う境界協議で合意済みであることが前提の覚書です。
不動産取引から少し逸れますが、日常生活の中で越境が発覚し、互いに申し合わせて覚書を交わす場合は、互いに確認しあった境界ラインについても、言及しておくことが好ましいようです。
まとめ
いかがでしたか?
覚書は、はじめはなかなか馴染みがないと思いますが、今後折に触れ、必要になってくると思います。
是非この機会にどういうものか、押さえておきましょう!
最後にもう一度、内容を確認しておきます。
□不動産の覚書の主な役割
1.契約書の補助的役割として用いられる
2.契約の当事者でない者との約束ごとが関係してくる場合に用いられる
□不動産の覚書の形式
1.表示-タイトル
2.上段-「合意した」という事実の記載
3.中段-詳しい合意内容
4.下段1-記名押印欄
5.下段2-不動産の表示
□第三者に効力を及ばせる場合に加える文言
「本物件を第三者に譲渡したときは、その第三者にも本覚書の効力が及ぶものとする。」
□越境の覚書のポイント
1.「『隣接地所有者は、将来建て替え等を行う際に、越境部分を撤去等して解消する』ということに、双方が合意した」という事実を掲げる。
2.「本物件を第三者に譲渡したときは、その第三者にも本覚書の効力が及ぶ」を入れる。
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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