不動産会社で営業をやっていると、「不動産のことでお悩みの方って、意外に多いんだな」と、感じることはありませんか?
例えば初対面の方に、不動産業に従事していることをお伝えした時など、その方がご年輩の方だったりすると、不動産の処分や相続に関するお悩みを、打ち明けられることがあると思います。
そういう場合に備え、不動産業の従業者として是非知っておきたい、相続税の減額制度があります。
小規模宅地等の特例というものです。
小規模宅地等の特例は適用要件が厳しく、すべての方に適用されるわけではもちろんありません。
とは言え、土地の評価額を80%減額できるというスゴイ制度で、いわば相続税の減額制度の代表格のような存在です。
不動産の処分や相続のことで悩まれている方に、小規模宅地等の特例についてお話しさせて頂くと、それが後押しとなり、その方自ら悩みを解決するための具体的アクションを起こす方もいたりします。
不動産業従業者は、税制の専門家ではないので、小規模宅地等の特例そのものの詳細については、ご説明を避けるべきでしょう。
とは言えその概要を習得し、折に触れアウトプットすることで、不動産取引の仕事に結び付く場合があります。
是非この機会に、小規模宅地等の特例の概要を、押さえてしまいましょう!
では、どうぞ。
そもそも小規模宅地等の特例とは
私たちは、主に親から財産を相続したら、相続税を納付しなければなりません。
そしてその財産には、もちろん土地建物も含まれます。
相続税には基礎控除があり、税の根拠となる額(課税価格)が基礎控除以下だったら、相続税が課されることはありません。
しかしそれを越える場合、その越えた部分については、それなりに高額な相続税が課されます。
場合によっては、住む家を失いかねいぐらいの額に相当します。
そこで登場したのが、小規模宅地等の特例とされています。
小規模宅地等の特例とは、おおまかに申しますと、相続する土地が一定の要件を満たす場合、その土地の評価額を最大80%減額できる、という制度です。
小規模宅地等の特例を活用すると、課税価格が大幅に下がり、結果として納付額が大幅に減額されたり、また場合によっては非課税になったりします。
小規模宅地等の特例とはこのように、相続を受けた方々にとって、非常に喜ばしい減額制度である、と言うことができます。
小規模宅地等の特例の対象となる3種類の土地
相続を受けた財産の中に、小規模宅地等の特例を適用できる財産が含まれているかどうかを確認するには、その中に、下記に示す3種類の土地が含まれているかどうかを確認します。
1.特定居住用宅地等
一定の要件を満たす居住用宅地のこと。
2.特定事業用宅地等
一定の要件を満たす事業用地のこと。
3.貸付事業用宅地等
一定の要件を満たす不動産賃貸業用地のこと。
そして、これら3種類の土地が、小規模宅地等の特例の適用を受けられかどうかは、更に細かく設けられた適用要件をクリアできるかどうかによります。
以下に、その更に細かい適用要件について順番に見て参りますが、その前に、大前提とし確認しておきたい点を次に記します。
(注)この記事では、特定同族会社事業用宅地等についてのご説明は割愛します。
相続が発生すると、相続財産の所有権は被相続人から相続人に移転する
相続が発生すると、その相続財産の所有権は、亡くなった方から、その相続を受ける方に移転します。
相続の分野では亡くなった方(故人)を被相続人、その方からその財産を承継する方を相続人と言います。
相続が発生すると、その所有権は被相続人(=亡くなった方=故人)から相続人に移転するわけです。
では相続が発生した際に、その相続財産の中に、小規模宅地等の特例を適用できる財産が含まれているかどうかを確認するには、まず一番最初に何を確認すればいいのでしょう?
それは、当初被相続人が所有していた相続財産の中に、上記3つの土地のうち、1つでもあるかどうかの確認です。
ここでのポイントは、被相続人は生前に、相続財産の所有権を持っていた、ということです。
このことは、相続というものの本質を考えれば当たり前ですが、小規模宅地等の特例の複雑な適用要件を確認していると、意外に見失ってしまう場合があるようです。
まずはしっかりと、その点を押さえるようにしましょう。
1.特定居住用宅地等に当たる土地における、小規模宅地等の特例の要件
上記の3種類の土地のうちの1つ、特定居住用宅地等とは、具体的にどういう土地のことでしょう?
それは主として、下記2つの土地のことを言います。
・故人が住んでいた土地
・生計一親族が住んでいる土地
以下に、それぞれについて、1つづつご説明します。
1-a.故人が住んでいた土地の場合の特定居住用宅地等について
故人が生前その土地を所有していて、その土地上に建つ家に、現にその故人が住んでいた場合、その土地は、故人が住んでいた土地ということになり、特定居住用宅地等に該当します。
そして、故人が住んでいた土地ということで、特定居住用宅地等に該当する土地は、相続人が下記3者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:配偶者/同居親族/家なき子
この3者のうち、配偶者と同居親族については、お分かり頂けると思います。
分からないのが、家なき子だと思います。
家なき子とは、ここでの詳細は割愛しますが、故人と同居していない親族でも、故人と親族双方が一定の要件を満たしていれば、小規模宅地等の特例が適用できる者のことを言います。
例えば、親元を離れ、東京で部屋を借りて一人暮らしをしている新社会人が居るとします。
その新社会人には、叔父が居るとします。
その叔父は母の兄で、結婚することもなく、祖父母から単独で相続した家で、一人ひっそり暮らしていたとします。
その叔父が亡くなり、その家と土地を、その新社会人が相続したとします。
この時この新社会人は、他にある幾つかの要件をクリアしていれば、特定居住用宅地等を相続した家なき子に該当し、小規模宅地等の特例を適用できる可能性があります。
なお故人が住んでいた土地ということで、特定居住用宅地等に該当する土地を、配偶者が相続した場合、その配偶者は、故人と同居していなくても、小規模宅地等の特例を受けることができるとされています。
1-b.生計一親族が住んでいる土地の場合の特定居住用宅地等について
故人が生前所有していた土地上に建つ家に、故人自身は住んでいませんでしたが、生計一親族が住んでいれば、その土地は、特定居住用宅地等に該当します。
なお生計一親族とは、日常の生活の資を共にする親族のことを言います。
では、故人は住んでいなくて、生計一親族が住んでいる土地とは、どういう状態のこたでしょう?
例えば、父が所有する土地建物に、父と母と大学生の子が住んでいたとします。
やがて父が転勤となり、その家に子だけが残り、父と母は転勤先の地に引っ越したとします。
更に子はまだ大学生なので、父からの仕送りで生活していたとします。
そして父が亡くなり、子がその土地建物を相続したとします。
こういう場合その土地は、生計一親族が住んでいる土地ということになります。
なお、生計一親族が住んでいる土地ということで、特定居住用宅地等に該当する土地は、相続人が下記2者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:配偶者/生計一親族
なおこの場合も、配偶者はその特定居住用宅地等に住んでいなくても、小規模宅地等の特例が適用されます。
小規模宅地等の特例の適用を受けられる特定居住用宅地等の適用面積と減額割合
上述した通り、相続を受けた土地が、特定居住用宅地等に該当し、かつ相続人要件を満たしていれば、その土地は、小規模宅地等の特例の適用を受けることができるとされています。
そしてその場合の適用面積は、330㎡までとなります。
更にその場合の課税価格の減額率が、80%です。
小規模宅地等の特例の適用を受けた特定居住用宅地等の面積が330㎡以上の場合、330㎡まで課税課税を80%減額することが可能です。
2.特定事業用宅地等に当たる土地における、小規模宅地等の特例の要件
特定事業用地等とは、下記2つのうちのどちらかの土地のことを言います。
・故人が事業を営んでいた土地
・生計一親族が事業を営んでいる土地
以下に、それぞれについてご説明します。
2-a.故人が事業を営んでいた土地の場合の特定事業用宅地等について
故人が生前その土地を所有していて、その土地上に建つ店舗等で、現にその故人が事業を営んでいた場合、その土地は、故人が事業を営んでいた土地ということになり、特定事業用宅地等に該当します。
そして、故人が事業を営んでいた土地ということで、特定事業用宅地等に該当する土地は、相続人が下記1者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:親族
例えば、父がその土地で魚屋さんを営んでいたとします。
父が亡くなり、その土地と店舗を息子が相続し、魚屋も承継したとします。
この場合、その土地が諸要件を満たせば、小規模宅地等の特例が適用されます。
2-b.生計一親族が事業を営んでいる土地の場合の特定事業用宅地等について
故人が生前その土地を所有していて、その土地上に建つ店舗等で、生計一親族現が事業を営んでいた場合、その土地は、生計一親族が事業を営んでいた土地ということになり、特定事業用宅地等に該当します。
そして、生計一親族が事業を営んでいた土地ということで、特定事業用宅地等に該当する土地は、相続人が下記1者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:生計一親族
例えば、父の所有する土地で、父と子で八百屋を営んでいたとします。
事業形態としては、父の個人事業主でした。
やがて父は体調を崩し、子だけで八百屋を切り盛りすることになったとします。
事業形態は、引き続き父の個人事業主だったとします。
やがて父が亡くなり、その土地建物を子が相続し、八百屋も子が承継したとします。
この場合、子は生計一親族となり、その土地が諸要件を満たせば、小規模宅地等の特例が適用されます。
ただし被相続人の生前に、被相続人と相続人との間で賃料の授受があった場合、すなわち賃貸借の場合には、生計一親族に当たらず、使用貸借でなければならないとされています。
特定事業用宅地等における生計一親族に当たるかどうかの判断については、この点以外にも慎重に判断されるようなので、税制の専門家でない不動産業従業者としては、安易な判断は避けましょう。
小規模宅地等の特例の適用を受けられる特定事業用宅地等の適用面積と減額割合
上述した通り、相続を受けた土地が特定事業用宅地等に該当し、かつ相続人要件を満たしていれば、その土地は、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
そしてその場合の適用面積は、400㎡までとなります。
更にその場合の課税価格の減額率が、80%です。
小規模宅地等の特例の適用を受けた特定事業用宅地等の面積が400㎡以上の場合、400㎡まで課税課税を80%減額することが可能です。
3.貸付事業用宅地等に当たる土地における、小規模宅地等の特例の要件
貸付事業用地等についても、やはり下記2つのうちのどちらかのことを言います。
・故人が不動産賃貸業を営んでいた土地
・生計一親族が不動産賃貸業を営んでいる土地
3-a.故人が不動産賃貸業を営んでいた土地の場合の貸付事業用宅地等について
故人が生前その土地を所有し、その土地を土地のまま、あるいは建物を建てるなどして、不動産賃貸業を営んでいた場合、その土地は、故人が不動産賃貸業を営んでいた土地ということになり、貸付事業用宅地等に該当します。
そして、故人が不動産賃貸業を営んでいた土地ということで、特定事業用宅地等に該当する土地は、相続人が下記1者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:親族
なお不動産業でいう宅地には当たりませんが、その土地を駐車場や駐輪場として賃貸業を営んでいた場合であったも、諸条件を満たしていれば、小規模宅地等の特例に適用されます。
3-b.生計一親族が不動産賃貸業を営んでいる土地の場合の貸付事業用宅地等について
故人が生前所有していた土地で、生計一親族が不動産賃貸業を営んでいた場合も、その土地は、「生計一親族が不動産賃貸業を営んでいる土地」ということになり、貸付事業用宅地等に該当します。
そして、生計一親族が不動産賃貸業を営んでいる土地ということで、貸付事業用宅地等に該当する土地は、相続人が下記1者であれば、小規模宅地等の特例が適用されます。
相続人:生計一親族
ただしこの場合も、被相続人と相続人との間では、賃料の授受があってはならず、使用貸借でなければならないとされています。
そしてやはり、貸付事業用宅地等における生計一親族に当たるかどうかの判断は、慎重に判断されるようで、不動産業従業者は、安易に判断してはならないようです。
小規模宅地等の特例の適用を受けられる貸付事業用宅地等の適用面積と減額割合
貸付事業用宅地等に該当し、かつ相続人要件を満たす土地は、小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。
そしてその場合の適用面積は、200㎡までとなります。
更にその場合の課税価格の減額率が、50%です。
小規模宅地等の特例の適用を受けた貸付事業用宅地等の面積が200㎡以上の場合、200㎡まで課税課税を50%減額することが可能です。
小規模宅地等の特例は、相続時精算課税制度と併用できない
小規模宅地等の特例を活用しようとする場合に、知っておきたいとても重要なことがあります。
それは、小規模宅地等の特例は、相続時精算課税制度と併用して活用することはできない、という点です。
例えば、父親が、自ら所有している土地を月極駐車場にして、貸付事業を始めたとします。
数年後、父はその貸主たる地位を、使用貸借によって息子に譲ったとします。
息子は、その土地の所有者ではありませんが、貸主として、その月極駐車場を切り盛りしていました。
いつしか息子は、その月極駐車場を自ら所有したくなり、父から相続時精算課税制度を用いて贈与してもらいました。
この贈与の時点で、その土地の所有権は、父から息子へと移転することになります。
小規模宅地等の特例は、あくまで、その所有者が亡くなることで、その所有権が移転する場合の減額制度です。
よって、相続時精算課税制度との併用は成立し得ません。
【重要】小規模宅地等の特例の適用を受けようとする土地を売却する時の注意点
不動産業の従業者が、小規模宅地等の特例の適用を受けようとしている土地を扱う場合、押さえておかなければならないことがあります。
あるお客様が、不動産会社に中古戸建の売却を依頼してこられたとします。
お話をうかがってみると、お客様はその中古戸建を相続によって取得し、かつその土地について、小規模宅地等の特例を活用しようとしていることが明らかになったとします。
その場合、ある一定の時期まで、その不動産を売却しないほうが良い場合があります。
実は、小規模宅地等の特例の適用を受けようとしている土地は、一定期間所有し続けなければならないことになっています。
財産を相続しようとする方は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内に、相続が発生したことを、申告しなければなりません。
そして、その土地が小規模宅地等の特例の適用を受けるためには、その相続申告期日である10ヶ月間、その土地を保有し続けることが要件になります。
したがって、その保有要件を満たす前に、その土地を売却してしまうと、その土地について小規模宅地等の特例を適用できなくなるのです。
そこで不動産業の従業者としては、売却依頼を受けた不動産が、もし小規模宅地等の特例を受けようとしていたら、慎重に扱う必要があります。
小規模宅地等の特例における保有期間内であっても、不動産の売買契約は可能です。
しかし引渡し日・所有権移転の日は、保有期間を終えた後でなければなりません。
お客様から売却依頼を承った不動産が、小規模宅地等の特例の適用を受けようとしていた場合には、お客様に所有権移転が可能たなる日について、税理士さんや税務署にご確認頂いた上で、進めるようにしましょう。
まとめ
いかがでしたか?
小規模宅地等の特例は、制度として非常に細かく、専門家でない不動産従業者にとっては、非常に取っ付きづらいですが、是非おおまかにでも押さえておくと、きっと役立つも思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□小規模宅地等の特例
1-a.特定居住用宅地等-故人が住んいた土地
相続人:配偶者/同居親族/家なき子
1-b.特定居住用宅地等-生計一親族が事業を営んでいる土地
相続人:配偶者/生計一親族
2-a.特定事業用宅地等-故人が事業を営んでいた土地
相続人:親族
2-b.特定事業用宅地等-生計一親族が事業を営んでいる土地
相続人:生計一親族
3-a.貸付事業用宅地等-故人が不動産賃貸業を営んでいた土地
相続人:親族
3-b.貸付事業用宅地等-生計一親族が不動産賃貸業を営んでいる土地
相続人:生計一親族
□小規模宅地等の特例は、相続時精算課税制度と併用できない
□小規模宅地等の特例の適用を受けようとする土地は、相続申告期日前に所有権を移転できない
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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