地上権とは?賃借権との違いや法定地上権を宅建士がわかりやすく解説

宅地建物取引士の資格試験の勉強をしていると、地上権という権利が出てきますよね。

この地上権、資格試験の指導を行っている先生方の中には、「そこまで細かく出題されないので、サラッと押さえておけばOK」とおっしゃる方が多いようです。

確かに宅建試験の過去問を見ても、そこまで出題頻度は多くないようです。

でもこの地上権、何故か不思議と気になりませんか?

宅建試験の参考書での取り上げ方以上の強い存在感を、感じたりしませんでしょうか?

「機会があったら、是非地上権を押さえてスッキリしたい」とお考えの、不動産業従業者の方は、案外多いように思います。

そんなわけで今回、地上権に関する記事をご用意しました。

是非参考にして頂けたらと思います。

では、どうぞ。

目次

地上権とは

地上権とは、おおまかに申しますと、「工作物や竹木を所有するために、他人の土地を使用する権利」のことを言います。

所有者から土地を使わせてもらって、その土地上に、自らが所有する建物、あるいは建物でない工作物を建てたり、竹や樹木を植えたりできる権利のことです。

とは言えこれだけだと、なかなか実態が掴めないと思います。

ましてやこれだけだと、賃借権との違いが見えてこないと思います。

以下、地上権をしっかり捉えるために、様々な角度から、地上権に迫ってみたいと思います。

賃借権との違いに見る地上権

地上権とは、所有者から、その土地を使わせてもらう権利ですが、上述のとおり、これだけだと賃借権との違いが見えてこないと思います。

果たして地上権は、賃借権と何がどう違うのでしょう。

賃借権は債権で地上権は物権

賃借権と地上権との違いを捉えるには、まず賃借権が債権で、地上権が物権であるという点を、押さえると良いようです。

・賃借権→債権

・地上権→物権

では債権とはどういう権利で、物権とはどういう権利なのでしょう。

それは債権とは、人に対する権利であり、一方物権とは、物(ここでは土地)に対する権利とされています。

・債権→人に対する権利

・物権→物に対する権利

今仮に、ある土地をX、その土地の所有者をA、それを使う権利を有する者をBとします。

土地Xを使えるBの権利が賃借権の場合、その権利は、土地Xの所有者であるAに対する権利になります。

したがって、土地Xを使えるというBの権利は、その土地所有者であるAとの約束ごとに基づきます。

「BはAと約束ごとを交わします。その約束ごととは、『Aが所有する土地Xを使わせてもらう』という約束ごとです。よってBは土地Xを使うことができます」といったような形態になります。

このように、土地Xを使えるというBの権利が賃借権の場合、その権利はいわば、Aという人物を介して成立すると言えます。

B→賃借権→A→X

一方、土地Xを使えるBの権利が地上権の場合、その権利はもっと直接的です。

土地Xを使えるというBの権利は、直接的に土地Xにかかります。

B→地上権→X

いかがでしょう?

賃借権と地上権の違いを捉えられそうでしょうか?

これらの違いを更に深めるにあたり、物権という権利について、もう少しご説明します。

地上権は物権ですが、他には地役権がやはり物権です。

そして地役権の形態に着目すると、物権というものの「物に対する権利」という概念が、捉えやすいです。

地役権においては、承役地の所有者が変わっても、その承役地は、そのまま承役地であり続けます。

いわば所有者が変わったという理由だけで、地役権が消滅してしまうことはありません。

これは地役権が、その土地の所有者との約束ごとに基づく権利である債権でなく、その土地に直接掛かる物権だからです。

借地借家法によらない(借地権でない)賃借権と地上権の新たな所有者への対抗

上記でも触れましたが、賃借権と地上権の土地所有者が変わった場合、それぞれどのように扱われるか、改めて見てみたいと思います。

以下のご説明は、現実味は乏しいでしようが、賃借権が債権で、地上権が物権である点に着目した時のそれぞれの違いを捉えやすくなるかと存じます。

今仮に、工作物を設置する目的で、所有者から土地を使わせてもらうことになった2人の権利者がいるとします。

その権利者のうち、一方は地上権によってその土地を使わせてもらうことになり、他方は賃借権によって使わせてもらうことになったとします。

なお、それらの土地上に設置される工作物は、共に借地借家法における建物には当たらないため、これら2つの土地は、借地借家法の適用を受けないとします。

そして数年が経ったある日、その土地のそれぞれの所有者が、そろぞれの土地を売却することになったとします。

さてこの場合、賃借権並びに地上権は、どのように扱われるでしょう?

実はこの回答は、現実的には様々な要因によって、地上権だけでなけ賃借権も存続し続けることが可能となります。

とは言えそれぞれの権利者が、それぞれの権利における標準的な工作物を設置し、かつ登記についても、それぞれの権利における一般的な形式(賃借権は登記せず、地上権は登記する)をとったすれば、それぞれの権利は下記のように扱われます。

・賃借権→新たな所有者は賃借権の権利者に「土地を使わせろ」と言える。

・地上権→新たな所有者は地上権の権利者に「土地を使わせろ」と言えない。

いささか苦しいご説明ではありますが、それぞれの権利の本質として、頭の片隅に置いておいて頂けたらと思います。

借地借家法による(借地権である)賃借権の物権化について

宅地建物取引士の資格試験の勉強をしたことがある方々には、定番の知識と存じますが、建物所有を目的とする土地の賃借権を、借地権と言います。

そして実は賃借権だけでなく、地上権についても、その目的が建物所有の場合には借地権と言います。

すなわち借地権とは、建物所有を目的とする賃借権、及び地上権のことを言いあらわす言葉です。

更に賃借権、及び地上権は、建物所有を目的として借地権となる場合、ご存じの通り様々な保護を受けることになります。

借地権借家法の適用です。

さてここで着目したいのが、借地権でない賃借権と借地権である賃借権との保護の度合いの差異は、どの程度かという点です。

そしてその保護度合いの差異は、借地権でない地上権と借地権である地上権との保護の度合いの差異に比べ、どうかという点です。

実は地上権は、その権利が借地権でなくても、地上権者を充分に保護し得る権利であると言えます。

地上権は物権であり、とても強い権利なので、他の権利や第三者を退ける力があるからです。

ところが一方の賃借権については、借地権でない賃借権と借地権である賃借権との保護の度合いの差異は、とても大きなものであると言えます。

賃借権はそもそも債権であるので、それだけでは、他の権利や第三者を退けるだけの力がありません。

そもそもが債権である賃借権は、その目的が建物所有であり、借地借家法による保護を受けて借地権になった時に、強い権利に生まれ変わります。

不動産会社で営業をやっていると、賃借権はむしろ借地借家法の保護を受けた借地権の賃借権である場合のほうが、身近な存在だったりすると思います。

そしてその権利は決して弱いものではないので、机上で学ぶ地上権との違いを、リアルに実感できないと思います。

不動産の実務において身近な賃借権は、借地借家法によってパワーアップした賃借権であり、元々の賃借権は、それよりも弱い権利であるという点は、押さえおいて良いようです。

なお、法律の専門家の方々によれば、借地借家法によってパワーアップ借地権である賃借権は、物権に近い権利であると言えそうです。

そしてこのように、賃借権が特別法である借地借家法によって、あたかも物権であるような効力を備えることを、賃借権の物権化と言うそうです。

不動産営業にとってより身近な借地権である賃借権は、賃借権が物権化した権利であって、そのことで物権である地上権との違いが認識しづらいですが、そもそもの賃借権は、地上権との違いがもっと明らかであると言えそうです。

借地借家法による(借地権である)賃借権と地上権との違い

上記で、借地借家法によって物権化した賃借権は、物権である地上権とあまり差異がないといった趣旨のご説明をしました。

とは言え借地権の賃借権は、債権であることに変わりありません。

借地権である地上権のほうが、やはり権利として強いです。

以下に、借地借家法のもとでの賃借権と地上権との違いで、主なものを記しておきます。

【借地権である賃借権(債権)】

賃借権によってその土地を使える権利を有する者は、その土地所有者の承諾を得なければ、第三者に、その土地を使える権利(=その賃借権)を譲渡することはできませんし、転貸することもできません。

また、その土地上に自らが所有する建物も、やはり承諾を得なければ売却することはできません。

【借地権である地上権(物権)】

地上権によってその土地を使える権利を有する者(地上権者)は、その土地所有者の承諾を得ることなく、第三者にその土地を使える権利(=その地上権)を、譲渡することもできますし、又貸しすることもできるとされています。

また、その土地上に自らが所有する建物も、やはり承諾を得ることなく売却することができます。

借地借家法によらない(借地権でない)地上権もある

宅建試験のテキストの借地借家法の項を読んでいると、「建物所有を目的とした賃借権・地上権を借地権と言う」とあり、あたかも地上権はすべて、借地権であるかのような印象を持ちませんか?

でも実は、上記でも少し触れましたが、地上権のすべてが借地権というわけではありません。

土地の賃借権について言えば、建物所有を目的とした賃借権もあれば、駐車場用地のように、建物所有を目的としない賃借権も存在しますよね。

これと同じように地上権も、建物所有を目的としない地上権も存在します。

すなわち、借地権でない地上権も存在します。

ここで今さらですが、民法265条の地上権の内容を、見ておきたいと思います。

(地上権の内容)

第二百六十五条 地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。

e-Govポータル 『デジタル庁』

民法ではこのように、地上権の目的を「工作物又は竹木」としています。

そして更に、この中の「工作物」とは、建物、道路、橋梁、水路、池、井戸、トンネル、テレビ塔、ゴルフ場、鉄塔、地下鉄、地下街などを言い、また「竹木」とは、植林を目的とする樹木や竹類を言うとされています。

このように地上権は、建物以外の所有を目的として設定することができ、それらは、借地借家法における借地権とはなりません。

参考まで…。

区分地上権について

ここまで地上権について、様々な観点からご説明して参りましたが、実は地上権は、ある一定の場合を除いて、今日ではあまり用いられていないようです。

今日においては地上権でなく、類似の権利である賃借権のほうを、用いるケースが多いようです。

とは言え地上権は、その権利の強さゆえ、ある一定の場面においては、今日でもなお重宝されているようです。

どういう場面で重宝されているのでしょう?

それはその土地の所有者から、その土地の地下の一部を使わせてもらい、そこに地下鉄を通したり、その土地の上空の一部を使わせてもらってモノレールや橋を通すなどの場面です。

実はその土地の所有権というものは、その土地の地下にも地上にも及ぶとされています。

その土地に定着する部分を使わせてもらうのでなくても、その土地の地下、ないし地上を使わせてもらうのであれば、使わせてもらうための権利を、しっかりと設定する必要があります。

また地下鉄やモノレールや橋として使わせてもらう以上、土地の所有が変わる度にその権利が危ぶまれるようでは、困ってしまいます。

したがってこういう場面においては、今日でもなを地上権を用いるのが一般的なようです。

なおこのような、土地の地下の一定の範囲、ないし土地の上空の一定の範囲を、使わせてもらう目的として設定される地上権のことを、区分地上権と言うとされています。

区分地上権は、不動産会社で営業を行っているからといって、そうそう取り扱う権利ではないとは思います。

とは言え、このような場面で用いられる区分地上権という権利は、いわば地上権の象徴的な権利であり、賃借権との違いを鮮明に捉えることができる権利かと思います。

是非この機会に、記憶に留めておきましょう!

法定地上権について

地上権についてあと1つだけ、情報共有しておきたいことがございます。

法定地上権です。

法定地上権は、いわば宅建試験の定番でしょうが、この機会に是非一度、おさらいしておきましょう!

さて、そもそも土地と建物は、それぞれ別々の不動産として扱われます。

したがって稀に、土地と建物で所有者が異なる中古一戸建があったりします。

そしてそういう建物は必ず、その下の土地に対して、何らかの権利を有しています。

それは一般的には借地権でしょうが、賃料の無い借地権かもしれませんし、使用貸借権かもしれません。

そうでないと建物の所有者は、「人の土地に勝手に家を建てた」ということになってしまいます。

そしてこれは法律テキにはアウトなので、建物は取り壊され、土地は更地にされることになります。

法定地上権とは、建物ないし土地のどちらか一方に抵当権が実行され、建物と土地とで所有者が違くなり、建物の所有者が、その建物の下の土地を使えなくなるのを防ぐために、法律によって、自動的に設定される地上権のことです。

法定地上権を捉えるには、もし法定地上権が無かったらどうなるかを考えてみると捉え易いです。

建物と土地が同じ所有者のである土地建物について、建物の抵当権が実行され、建物の所有者が変わることになったとします。

この場合、建物を競楽して所有権を得た新たな所有者が、その下の土地を使うことができなかってら、所有権を得た途端に、建物を取り壊さなければなりません。

また、建物と土地が同じ所有者のである土地建物について、土地の抵当権が実行され、土地の所有者が変わったとします。

この場合、引き続き建物を所有し続けていた建物所有者は、やはり建物を取り壊さなければならなくなります。

法定地上権は、このような事態が起こらぬよう自動的に設定されることになっています。

以下、これも宅建試験の定番ですが、法定地上権の4つの成立要件を、確認しておきましょう。

【法定地上権の成立要件4つ】

1.抵当権設定時に、その土地上に建物が存在する。

2.抵当権設定時、土地と建物の所有者が同一である。

3.土地と建物の一方または両方に抵当権が設定されている。

4 .土地または建物の抵当権が実行され競売がなされた結果、土地と建物の所有者が別々になった。

以上4つの要件がすべて揃う時、法定地上権が設定されます。

なお法定地上権が設定される云々のハナシは、あくまで抵当権が実行された後のハナシです。

「予め法定地上権が設定されている」土地というものは、存在し得ません。

まとめ

いかがでしたか?

地上権は何となく捉えづらく、今日では主に区分地上権として用いられる以外、あまり用いられないようです。

また、宅建試験においても、法定地上権を除いては、あまり重要でないとする先生方もいらっしゃるようです。

とは言えその存在感は不思議と大きく、せっかくならその概要だけでも捉え、スッキリしたいところです。

この記事が、そのための機会になれば幸いです。

最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。

□地上権とは

「工作物や竹木を所有するために、他人の土地を使用する権利」

□賃借権と地上権の違い

・賃借権:債権(B→賃借権→A→X)

・地上権:物権(B→地上権→X)

□借地借家法のもとでない賃借権・地上権

・賃借権→新たな所有者は賃借権の権利者に「土地を使わせろ」と言える。

・地上権→新たな所有者は地上権の権利者に「土地を使わせろ」と言えない。

□賃借権の物権化

賃借権が借地借家法等によって、物権であるかのような効力を備えることができる。

□借地借家法のもとでの賃借権・地上権

賃借権:土地所有者の承諾を得なければ、第三者への借地権である賃借権の譲渡、転貸、所有する建物の売却ができない。

地上権:土地所有者の承諾を得なくても、第三者への借地権である地上権の譲渡、転貸、所有する建物の売却ができる。

□地上権の目的(対象となる物)

建物、道路、橋梁、水路、池、井戸、トンネル、テレビ塔、ゴルフ場、鉄塔、地下鉄、地下街などの工作物、植林を目的とする樹木や竹類の竹木。

□区分地上権利

・地下の一部→地下鉄など

・上空の一部→モノレールや橋など

□法定地上権

抵当権の実行によって土地と建物の所有者が別々になったときに、建物が取り壊さなければならない事態を防ぐために自動的に設定される地上権。

この記事は以上となります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

コメント

コメントする

目次