不動産会社で売買営業に携わっていると、「三為(サンタメ)契約」という言葉を耳にすることがあると思います。
「三為契約」とは、表記しますが、民法における「第三者のためにする契約」の略語で、主に不動産の転売等の場面で用いられ、別の言葉で直接移転売買とも言います。
この記事では、不動産売買における三為契約(直接移転売買)の実務を理解する前段階として押さえたい、民法537条の第三者のためにする契約、及び538条、539条について、具体例を交え、わかりやすくご説明します。
是非この機会にそれらを押さえ、不動産売買の三為契約(直接移転売買)の実務の理解に、結び付けていきましょう!
では、どうぞ。
(注)
この記事では、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)の実務については、言及しておりません。
具体例に見る、第三者のためにする契約
まずは例え話です。
今仮に、C子という女性が、Aという男性とお付き合いをしていました。
しかしAには金遣いが荒いところがあったので、C子はAとお別れすることにしました。
そして新たに、Bという男性とお付き合いすることにしました。
AはC子に借金がありました。
そこでC子の今彼Bは、C子の元彼Aから、A所有の車を購入することにしました。
更に今彼Bは元彼Aとの間で、車はBに渡してもらい、そのお金はAでなく、C子に渡す約束を取り交わしました。
Bはこのようにして、AのC子に対する借金を清算しました。
このような事例は、世間ではよくあることかと思います。
でも、通常の捉え方からすれば、車を売ったお金が、本来受け取るべきAでなく、C子に渡るというのには、何となく違和感がありますよね!
果たして、BがAを飛び越えて、直接C子にお金を渡すという約束事は、法律テキにOKなのでしょうか?
実は、このような事例は、法律的にはOKとされています。
ただしその約束が、主に以下2つのポイントを、クリアしている必要があるとされています。
・Bがお金を渡す相手が、Aでなく第三者(ここではC子)であることを、AとBが約束する。
・第三者(ここではC子)は、AとBの約束事による利益を受け取ることを、しっかり意思として表す。
そしてこの辺りのことを、法律で明らかにしているのが、民法537条の第三者のためにする契約です。
民法537条の第三者のためにする契約について
以下に、上記で取り上げた具体例を、民法537条の第三者のためにする契約に照らし合わせて、見ていきます。
民法537条の第三者のためにする契約の条文
まずは、民法537条の第三者のためにする契約の条文から、見ていくことにしましょう。
下記の通りです。
(第三者のためにする契約)
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。
2 前項の契約は、その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない。
3 第一項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。
e-Govポータル 『デジタル庁』
第三者のためにする契約における、「当事者」と「第三者」について
民法537条の第三者のためにする契約では、まず最初の項で、「契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する」と、定めています。
したがって、上記の具体例で言えば、Aが車を売ってBがそのお金を渡すという約束において、当事者の一方であるBが、そのお金を第三者であるC子に給付することを、AとBとで約束したら、C子は、Bに対し、直接そのお金を請求できることになります。
そして、ここで幾つかポイントがあります。
まず、条文における「当事者」とは、上記の具体例で言うAとBのことであり、「第三者」とは、C子のことです。
この点は、大丈夫ですよね!
また、条文における「ある給付」とは、上記の具体例においては、車のお金を渡すこと、である点も、お分かり頂けると思います。
難しいのが、条文の「債務者」だと思います。
条文の「債務者」は、上記の具体例では、Bのことを差します。
どういうことでしょう?
次の項で詳しくご説明します。
第三者のためにする契約における、「債務者」について
民法 537条の第三者のためにする契約における「債務者」とは、契約の当事者が負う債務のうち、第三者がその給付を直接請求できる債務を負う者のことを言います。
何を言ってるか、分からないですよね!
そもそも債務とは、特定の人に対して、特定の行為や給付を提供しなくてはならない義務を言います。
そして、上記具体例のAとBの約束事においては、AとBの債務は、それぞれ下記の通りになります。
・Aの債務→車を渡す。
・Bの債務→お金を渡す。
そして、これら2つの債務のうち、C子が請求できる債務とは、Bが負う「お金を渡す」債務になります。
したがって、ここで言う「債務者」とは、その債務を負う「B」になるわけです。
上記の具体例ではそもそも、AはC子に対し、借金をしていましたが、この借金をしているAのことは、ここで言う「債務者」とは関係ありません。
ここで言う「債務者」とは、あくまで、第三者のためにする約束事の当事者であるAとBのうち、第三者であるC子に対する債務を負う者のことを言います。
したがって、Bになります。
ここでもう1つ、別の例を挙げます。
C子はAと別れ、Bとお付き合いすることにしました。
ある日のこと、お金に困ったBは、こっそりC子の車を売り、そのお金を懐に入れてしまいました。
怒ったC子は、Bに返済を迫りました。
そしてBは、C子の元彼のAに、車を売ってもらうことにしました。
その際、BとAとの間で、お金はAに払うものの、車はBでなく、C子に渡す約束を交わしました。
さて、この具体例においては、民法 537条で言う「債務者」とは、誰でしょう?
もうお分かりですよね!
Aになります。
こちらの具体例における、AとBの債務は、やはり下記のようになりますよね。
・Aの債務→車を渡す。
・Bの債務→お金を渡す。
冒頭の具体例と同じです!
ただしこれら2つの債務のうち、C子が請求できる債務は、Aが負う「車を渡す」債務のほうになります。
したがって、ここで言う「債務者」は、Aになるわけです。
ここでは、第三者のためにする契約においては、契約の当事者は、両方共が債務者になり得る、ということは覚えておきましょう。
実はこの、民法537条の第三者のためにする契約における、「債務者」を正しく捉えることは、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)を押さえる上で、1つの大切なポイントになります。
繰り返しになりますが、民法537の第三者のためにする契約における「債務者」とは、あくまで「第三者がその給付を直接請求できる債務を負う者」になります。
第三者のためにする契約は、その成立時に第三者が存在しなくても良い
民法537条の第三者のためにする契約の2項では、「その成立の時に第三者が現に存しない場合又は第三者が特定していない場合であっても、そのためにその効力を妨げられない」と定めています。
例えば、冒頭の具体例では、第三者をC子とすることが予め決まっていましたが、決まっていない場合、または特定していない場合であっても、AとBの約束事は有効ですよ、ということです。
例えば、AがBに売ろうとしている、自ら所有する車は、実はヴィンテージ物として価値があり、その価値を良く知るBは、まだ特定していない第三者に、Aの車を受け取ってもらい、BがAに渡す額よりも多い額を、その第三者から受け取ろうと考えていたとします。
この場合、AとBとの間で、Aがまだ特定していない第三者に車を給付することを、約束事の1つに組み入れても、全体として、この約束事は有効である、ということです。
民法では、このようなことも、その契約の効果として定めているんですね!
なかなか馴染みない定めですが、実はこの民法537条2項のこの定めも、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)において、大きな力を発揮します!
第三者のためにする契約は、第三者による「受益の意思表示」が必要
民法537条の第三者のためにする契約の3項では、「第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する」と定めています。
第三者のためにする契約では、その契約において、当事者の一方が、第三者にある給付をすることを契約内容に組み入れただけでは、実は、第三者のその利益は、発生しません。
冒頭の具体例では、AとBとの間で、Aが本来受け取るべきお金を、C子に渡すことを約束をしました。
しかしその約束だけでは、そのお金は、C子のものにはならない、ということです。
前述した通り、AとBとの間で、Aが本来受け取るべきお金を、C子に渡すことを約束すれば、C子はBに、直接その給付を請求できらようになりますから、 C子はBに「そのお金、私にちょうだい」と、言うことはできます。
しかしそのお金は、それだけでは、C子のものにはなりません。
そのお金を、本当にC子の物にするためには、「債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示」する必要がある、とされています。
すなわちC子は、「そのお金は、私が貰います!」と、しっかりとその意思を、Bに対して表わす必要がある、というわけです。
民法ではこの意思表示を、「受益の意思表示」と言うとされています。
第三者のためにする契約においては、その第三者の利益は、第三者による受益の意思表示が成されて、初めて発生することになっています。
なお、またしても繰り返しになってしまいますが、第三者が受益の意思表示をする相手は、「債務者」になります。
冒頭の具体例で言えば、C子が受益の意思表示をするべき相手は、Bになります。
Aではありません!
ここではこの点も、しっかり押さえておきましょう!
細かいですが、実はこの、受益の意思表示の相手が「債務者」であるという点も、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)を捉える上で、ちょっとしたポイントになります。
第三者のためにする契約における、第三者の権利の確定について(民法538条)
続く民法538条においては、民法537条の定めに基づいて発生した第三者の権利が、とのように守られるのかについて、定めています。
まずは、条文を見てみましょう。
(第三者の権利の確定)
e-Govポータル 『デジタル庁』
第五百三十八条 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。
2 前条の規定により第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、同条第一項の契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない。
最初の項では、第三者の権利が発生した後、すなわち、第三者が受益の意思表示をした後は、当事者は、これを変更したり消滅させてりできません、と定めています。
冒頭の具体例で言えば、C子が「そのお金貰います!」と意思を明らかして、その権利がC子に発生したら、もはや当事者であるAとBは、それを「やっぱりやめる」などとは言えない、ということです。
更に2項では、第三者の権利が発生した後に、債務者がその第三者に対する債務を履行しない場合には、契約の相手方は、その第三者の承諾を得なければ、契約を解除することができない、と定めにいます。
冒頭の具体例で言えば、C子が受益の意思表示をした後に、BがC子にお金を渡さなかったからといって、Aが勝手に、「この約束事は無かったことにする、車を返せ」とは言えない、ということです。
Aがそう言えるためには、C子の承諾を得る必要がある、というわけです。
民法の538条では、このようにして、537条の定めに基づく第三者の権利を、守っているわけです。
第三者のためにする契約における、債務者の抗弁について(民法539条)
続く民法539条では、民法537条に基づいて、第三者に利益を与える約束をした債務者が、第三者に「ちょと待って…」と言う場合について、定めています。
まずは、条文を見てみましょう。
(債務者の抗弁)
e-Govポータル 『デジタル庁』
第五百三十九条 債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。
冒頭の具体例では、AはBに車を渡し、Bはそのお金をC子に渡す約束をしました。
そしてC子は、早々にお金が必要になったので、早々に受益の意思表示をして、早々に、Bに「お金を早くちょうだい」と、言ってきたとします。
しかしBは、まだAから車を受け取っていません。
この場合、AとBとの間で、「Bは、Aから車を受け取ったら、C子にお金を渡す」と約束していたら、BはC子に対して、「まだAから車を貰っていないから、お金はちょと待って…」と言えますよ、ということです。
債務者であるBは、第三者であるC子に、例えば、お金をすぐに頂戴と言われた場合であっても、そもそもの約束事において、「Aから車を受け取ったらC子にお金を渡す」と決めていたら、その約束事を盾にして、その契約の利益を受ける第三者であるC子の要求に、対抗できますよ、ということです。
民法539の条文は、抗弁とか対抗など、難しい言葉がでてきますが、具体例を落とし込めば、捉え易くなると思います。
実は、この民法539条の債務者の抗弁も、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)を捉える上で、とても大事です。
やはり、ここでしっかり押さえておきましょう!
まとめ
いかがでしたか?
この記事は、不動産実務に直接は関わりませんが、不動産売買における第三者のためにする契約(三為契約=直接移転売買)を捉える上で、知っておきたい、民法における第三者のためにする契約を、見て参りました!
下記に改めて、内容を整理しておきます。
□民法537条1項
契約により、当事者の一方が、第三者にある給付を約束したら、その第三者は、債務者に直接その給付を請求できる。
□民法537条2項
契約が成立した時に、第三者が現に存しなくても、また第三者が特定していないくてもOK。
□民法537条3項
第三者の権利は、第三者が債務者に対して、受益の意思表示をした時に発生する。
□民法538条1項
受益の意思表示によって、第三者の権利が発生したら、当事者は、これを変更したり消滅させたりできない。
□民法538条2項
第三者の権利が発生した後に、債務者が債務を履行しない場合、契約の相手方は、第三者の承諾を得なければ、契約解除できない。
□民法539条
第三者に給付する約束をした債務者は、契約に基づく内容を盾にして、第三者に対抗してよい。
この記事は、以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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