不動産会社で賃貸なり売買なりの営業をやっていると、その権利を第三者に主張する(第三者に対抗する)ためには、登記が大切であることは、何となく分かりますよね。
では、不動産売買でなく賃貸において、その権利を第三者に主張するために大切なのは、何なのでしょう?
権利を第三者に主張するための手段を、対抗要件と言いますが、この記事では、その対抗要件について、整理してご説明します。
対抗要件については、宅建試験用のテキストでも一通り触れていますが、それをまとめて説明してきるテキストは少ないかと思います。
是非この記事を、参考にして頂けたらと思います!
では、参りましょう。
そもそも対抗要件とは
例えばA子さんという女性が、X夫さんとY夫さんという二人の男性と婚約してしまったとします。
そしてしばらくして、A子さんとX夫さんは婚姻届を出し、入籍したとします。
Y夫さんはもはや、A子さんと結婚できなくなりました。
さてこの例において、X夫さんがY夫さんに、「A子さんと結婚したのは私です」と主張できる根拠は、X夫さんがA子さんと一緒に婚姻届を出し、入籍したからと言えます。
唐突な例になってしまいましたが、不動産または動産における対抗要件とは、交際とか結婚における、この婚姻届とか入籍といったようなもののことです。
対抗要件とは不動産とか動産において、それが備わっていれば、備わっていなかったり、あるいは後から遅れて備えた者に対して、その権利を退ける力をもつもののことを言います。
詳しくは後述しますが、例えば、所有権の対抗要件は登記です。
仮に所有者Aさんが、XさんとYさんという二人に、不動産を売ったとします。
そして Xさんはその所有権を登記しましたが、Yさんは登記しませんでした。
この場合XさんはYさんに、当該不動産の所有権を主張できることになります。
なぜなら、所有権の対抗要件は登記であり、所有権を登記しているのはXさんだからです。
成立要件との違いに見る対抗要件
ここで注意したいのが、成立要件と対抗要件の違いです。
成立要件とは、その約束ごとを取り交わした当事者間で、その権利を主張できる要件のことを言います。
例えば上記の例ですと、Xさんは当然にAさんに対し所有権を主張できますが、当初の段階においては、実はYさんも、Aさんに所有権を主張できることになります。
なぜならAさんは、Yさんにもその不動産を売ったからです。
そしてXさんがAさんに、またYさんがAさんに所有権を主張するにあたっては、対抗要件とされる登記を行う必要はありません。
なぜならXさんとAさん、並びなYさんとAさんは約束ごとの当事者であり、必要となるのは成立要件であって、対抗要件ではなあからです。
このように成立要件とは、その約束ごとの成立における、当事者間での要件のことを言います。
一方対抗要件とは、その権利を第三者に対抗するための要件のことを言います。
なお不動産取引においては、売買でも賃貸借でも、民法における成立要件は口約束になります。
一方と他方が互いに納得して、売買なり賃貸借なりの約束を口頭で交わした場合であっても、その当事者間であれば、相手方に対し、その権利を主張することができることになります。
物権と債権との違いに見る対抗要件
ではそれぞれの権利の対抗要件とは、どういうものでしょう?
これからそのことについて、少し踏み込んで見て参りますが、まず結論から申しますと、下記の通りになります。
1.不動産の物権:登記
2.動産の物権:引渡し
3.不動産の賃借権(債権): *ちょっと複雑なので後述します。
4.動産の債権:物権に対抗できない
これらのうち、「3.不動産の賃借権(債権)」については、それを的確に捉えるために、少し予備知識が必要なようです。
それは、物権と債権という権利の種類と、対抗要件との原則的な関係性についてです。
少しややこしいですが、以下にご説明します。
そもそも不動産、動産を問わず、権利の種類は大きく分けて、物権と債権の2種類があります。
このうち物権とは、物を直接的確に支配する権利です。
一方債権とは、特定の人にある行為をさせる権利です。
上記で対抗要件とは、その約束ごとの当事者でなく、第三者に対し、その権利を主張するための要件とご説明しました。
そこで債権という権利の性質に着目してみます。
債権とは、その権利の特性として、そもそも、特定の人に対してのみその力を及ばすので、第三者がどうのこうのという視点は、相容れない性質とされています。
したがって第三者に対し、その権利を主張するための手段である対抗要件というものからは、本来的には距離を置く権利とされています。
さてここで、不動産の取引において身近な権利の1つである、賃借権について整理します。
賃借権は債権になります。
債権である賃借権は、第三者への対抗という視点は、本来的には相容れない性質であり、第三者への主要な対抗要件である登記についても、本来的には馴染まない性質の権利とされています。
更に言えば、債権は物権よりも、その権利の力は弱く、対抗要件を具備していない物権と、債権である賃借権がぶつかり合った場合、物権が優先されます。
加えて債権には、言ってしまえば対抗要件を具備する手段が原則的には無いわけです。
例えば、a子さんがxさんにお人形を貸したとします。やがてa子さんは、そのお人形をy子さんに売りました。
この場合、お人形の所有権(物権)を得たy子さんは、それを賃借(債権)しているx子さんに、お人形をちょうだいと言うことができ、言われたx子さんは、そのお人形をy子さんに引渡さなければなりません。
そしてこの物権と債権との関係性は、出発点としては、実は不動産においても同じです。
とは言え不動産はその特性上、それを失ったら生活の基盤を脅かしかねない存在です。
そこで不動産の賃借権については、まず民法で、対抗要件を具備することが許されています。
そしてその対抗要件とは、登記です。
しかしながら実は、不動産の賃借権を登記するという行為は、非常にハードルが高い行為であるようです。
不動産賃借権を登記するというケースは、現実的には、ほとんど無いようです。
そこで更に、特別法である借地権借家法によって、借地借家法の適用を受ける不動産については、もっと容易に対抗要件を具備できるようになっています。
いかがでしょう?
ややこしいですが、お分かり頂けたでしょうか。
もう一度整理します。
対抗要件とはそもそも、不動産の物権については登記、動産の物権(主に所有権)については引渡しになります。
そして債権については、対抗要件というものは、本来的には馴染まないものとされています。
とは言え不動産は生活基盤となる大切な存在なので、賃借権に限り、民法によって、対抗要件としての登記を認めています。
ただしそれは非常にハードルが高いので、更に借地借家法で、より対抗要件を具備し易くしています。
それぞれの権利の対抗要件
それでは以下に、それぞれの権利の対抗要件について、整理して見ていきましょう。
一部内容が重複しますが、以下に順番に参ります。
不動産の物権(所有権・抵当権・地役権・地上権等)の対抗要件は登記
繰り返しになってしまいますが、不動産の物権の対抗要件は登記になります。
不動産の主要な物権は、所有権の他に、抵当権、地役権、地上権などがあります。
これらの権利に変動があったら、しっかりと登記を行い、対抗要件を具備するのが一般的です。
動産の物権(主に所有権)の対抗要件は引渡し
一方動産、主に所有権の対抗要件は、引渡しになります(ただし一部の動産については、登記や登録になるようです)。
またその動産が、不動産の中に備わっているよえな場合には、その動産と不動産との関係性は、従物と主物ということになり、この場合、主物である不動産が対抗要件を具備したら、その従物である動産についても、第三者に対抗できるようになるとされています。
借地借家法によらない不動産賃借権の対抗要件は登記
上述の通り不動産の賃借権は、債権であっても、対抗要件を具備することが、民法605条で認められています。
そしてその対抗要件とは、登記になります。
しかしながら、登記申請は、共同で申請するものとされており、現実的には、賃貸人から登記申請の協力を得るのは難しい場合が多いようです。
借地借家法による保護を受けることができない不動産、例えば駐車場や資材置場目的で賃借する土地については、対抗要件としての登記を行えるとされているものの、現実的には登記を備えているケースはあまり無いようです。
借地借家法に基づく賃借権のうち、建物賃借権の対抗要件は引渡しでも良い
ご存じの通り、不動産賃借権においては、その不動産に借地借家法が適用それれば、様々な手段で賃借人ご保護されることにのります。
そしてそれは、対抗要件についても同じです。
建物の賃借権は、当然に借地借家法の適用を受けますが、その場合の対抗要件は引渡しになります。
その建物を賃借しようとする人は、賃貸人からその建物の引渡しを受けたら、第三者に対抗できます。
もちろん民法の規定も適用されます。
賃借人は賃借権を登記することができ、賃貸人の協力を得て賃借権を登記したら、賃借人はその賃借権を第三者に主張できます。
とは言え、この賃借権の登記も現実的にはあまり無いようです。
借地借家法に基づく賃借権のうち、土地賃借権の対抗要件は建物登記でも良い
また借地借家法に基づく賃借権のうち、土地賃借権についても、その対抗要件として、土地の賃借権の登記が民法で認められています。
とは言えこれは、やはりハードルが高いため、あまり無いようです。
そこで借地借家法では、その土地の賃借人が、その土地上に建物を建て、それを登記すれば、第三者に対抗できることにしています。
ただしその建物登記は、あくまで借地借家法における土地賃借権の本旨に則したものでなければなりません。
建物の登記は、所有権保存登記でなくても、表題登記でも良いとされていますが、その登記名義人は、土地の賃借権者と同一でなければなりません。
個人名義で賃借した土地に、法人名義で建物登記した場合などは、その土地の対抗要件を具備したことにはならないとされている点、実務においては注意が必要です。
借地借家法に基づく賃借権のうち、土地賃借権の建物滅失時の対抗要件について
上述の通り、借地借家法に基づく土地の賃借権の対抗要件は、建物登記でも良いとされています。
ところで借地権は、借地権存続期間中であれば、建物が滅失しても存在し続けますが、現に建物が滅失してしまった場合、どのようにすれば対抗要件を具備できるのでしょう?
借地借家法は、この点についても定めています。
借地借家法では、建物滅失以前に、その建物が登記されていれば、滅失から2年間に限り、一定の内容を書いた掲示物を、土地の見やすい場所に掲示することで、対抗要件を具備できるとしています。
まとめ
いかがでしたか?
このように見てみると、不動産売買における登記の重要性もさることながら、不動産建物賃貸における引渡しというものが、いかに重要なことであるか、身に染みますね!
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう!
□対抗要件と成立要件
・対抗要件⇒第三者に主張するための要件。
・成立要件⇒当事者に主張するための要件。
□物権と債権の違いと対抗要件
(原則)
・物権⇒対抗要件具備できる。
・債権⇒対抗要件具備できない。
(民法による保護)
・不動産賃借権は登記で対抗できる。
(更に借地借家法による保護)
・借地借家法に基づく賃借権の対抗要件⇒建物賃借権:引渡し/土地賃借権:借地権上の建物登記/建物滅失の土地賃借権:建物滅失以前に登記あれば2年間に限り掲示
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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