不動産会社で売買営業に携わっていると、先輩や上司の方々が、「瑕疵担保責任」とか「43条但し書き」、あるいは「中間省略」といった言葉を、発してるのを耳にしませんか?
実は、これらの言葉には、ある共通点があります。
それは、今となっては他の言葉に引き継がれた、いわば「古い言葉」である、という点です。
この記事では、これら「瑕疵担保責任」、「43条但し書き」、「中間省略」という言葉について、そもそも、今も使い続けてOKなのか、またOKだとすれば、それはどういう場合なのか、見ていきます。
この記事は、幾分ウンチクめいていて、多少鬱陶しい内容かもしれません。
でも一度知っておくと、スッキリすると思います!
では、参りましょう。
瑕疵担保責任・43条但し書き・中間省略という言葉を引き継いだ言葉
冒頭で申し上げた通り、瑕疵担保責任・43条但し書き・中間省略という言葉は、今となっては、他の言葉に引き継がれました。
それぞれ、下記の通りです。
・瑕疵担保責任→契約不適合責任
・43条但し書き→43条2項2号
・中間省略→三為契約(直接移転契約)
以下、それぞれについて、少し詳しく見ていきます。
瑕疵担保責任という言葉について
瑕疵担保責任という言葉は上述の通り、今は契約不適合責任という言葉に引き継がれました。
まずは大前提として、この点をしっかり押さえておきましょう。
しかし、実は厳密に言うと、一部の法律においては、継続して用いて良いとされています。
また、瑕疵という言葉について言えば、それを法律用語としてでなく、一般的な言葉として用いる場合は、以前と今とで大差無いようです。
以下、順番に見ていきましょう。
民法において、瑕疵担保責任という言葉は、契約不適合責任という言葉に
瑕疵担保責任という言葉は、これまで不動産売買において、現行の契約不適合責任と似た意味合いで用いられてきました。
ご存じの通り、契約不適合責任という言葉の出所は民法ですが、瑕疵担保責任という言葉の出所も、やはり民法です。
民法は、2020年に改正され、その時に大きく様変わりしましたが、この瑕疵担保責任という言葉も、この改正によって、契約不適合責任という言葉に置き換えられました。
ポイントは、「併用することになった」のでなく、「置き換えられた」という点です。
不動産売買のベテラン営業員の方々の中には、長年使い慣れた瑕疵担保責任という言葉がなかなか抜けず、今でもカシタンポ、カシタンポとおっしゃる方も、いらっしゃるようです。
でも、民法が出所となる瑕疵担保責任という言葉は、契約不適合責任という言葉に置き換えられたわけですから、厳密には、これは誤りになります。
瑕疵担保責任から契約不適合責任への置き換えを、リアルタイムでご存じない若い不動産売買営業員の方々の中には、逆に、瑕疵担保責任という言葉自体を、よくご存じなかったりすると思います。
そういう場合、ベテランの方々が、瑕疵担保責任という言葉を用いているのを聞くと、ついついその用いり方が、正しいように感じると思います。
でも、不動産売買における契約不適合責任という言葉に関しては、それを用いるべき箇所で、瑕疵担保責任という言葉を用いるのは、誤りとされています。
いくら大先輩が使っていても、その点は真似しないようにしましょう!
品確法・住宅瑕疵担保履行法における、瑕疵、瑕疵担保責任という言葉について
とは言え、この瑕疵、ないし瑕疵担保責任という言葉には、悩ましい一面があります。
実はこの言葉は、一部の法律では、継続して利用して良いことになっています。
不動産売買に携わった経験がある方はご存じと思いますが、買主様が、新築住宅を購入・建築した際には、その売主業者ないし工事請負業者は、保険加入、ありいは保証金供託をしなければなりません。
そして、その辺りのことを定めた法律が、下記の2つです。
・品確法
・住宅瑕疵担保履行法
専門家の方々によれば、これらの法律は民法の特別法であり、民法が改正された際に、やはり色々改正されたそうです。
しかし、これらの法律内にある瑕疵という言葉は、取り除かれたり置き換えられたりすることなく、その後も存置されました。
専門家の方々の中には、品確法と住宅瑕疵担保履行法も民法に揃え、瑕疵という言葉を変えるべき、という見解もあったようです。
しかし、これらの法律の作り手である国土交通省は、瑕疵という言葉を、民法の契約不適合に相当する「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」という意味として定義付け、その言葉自体は存置しました。
そして、瑕疵担保責任という言葉も、例えば「瑕疵担保責任保険」のように、これらの法律に結び付けて用いるのは、今後もOKということになりました。
確かに瑕疵担保責任保険のことを、契約不適合責任保険とは言いませんよね!
不動産売買の営業員として、これらの言葉を実務でもちいる場合は、民法に基づく場合は、契約不適合責任となり、品確法と住宅瑕疵担保履行法に基づく場合は、瑕疵、あるいは瑕疵担保責任となる旨を、整理して押さえておきましょう!
なお、全国宅地建物取引業協会連合会の売買契約書の定型書式においては、品確法と住宅瑕疵担保履行法に結び付く箇所においても、瑕疵という言葉は用いず、契約不適合という言葉を用いています。
法律用語でない瑕疵という言葉について
ところで瑕疵という言葉は、法律用語としての用いられ方以外に、より一般的な言葉として用いられる場合があります。
賃貸物件であれ売買物件であれ、いわゆる事故物件を、不動産業者がレインズ等に掲載する時、物件概要の備考欄に「心理的瑕疵有り」などと、表記したりすると思います。
この時の瑕疵などは、上述した法律用語とは異なった瑕疵の用いり方と言えます。
国語辞典で瑕疵という言葉を引くと、きず、欠陥、欠点といったような意味が出てきます。
法律用語としての瑕疵でなく、これら一般的な言葉としての瑕疵は、契約不適合という言葉に置き換えなければならない、ということはありません。
物件概要の備考欄や、不動産売買契約書の特約等に、心理的瑕疵と表記するのは、現行においても、誤りではないとされています。
確かに心理的瑕疵を、心理的契約不適合とするのは、あまりに無理やりですよね!
43条但し書きという言葉について
建築基準法の第43条には、これまで長い間、通称「43条但し書き」と呼ばれる規程がありました。
この43条但し書きとは、上述の通り、今で言う43条2項2号のことです。
これまでの建築基準法の第43条は、おおまかに記すと、下記のような内容でした。
【これまで(=改正前)の内容】
建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない。ただし、○○○については、この限りではない。
そして○○○の箇所には、前面の通路が建築基準法でなくても、建築物の建設ができるための要件が示されていました。
でもそれが、2018年の改正によって、下記のように変わりました。
【2018年の改正後】
第43条第1項:建築物の敷地は、道路に2m以上接しなければならない。
第43条第2項:前項の規定は、次の各号のいずれかに該当する建築物については、適用しない。
1号:△△△
2号:○○○
すなわち、改正前に「ただし…」以下に示されてい規程が、改正後、2項2号の箇所に移行したわけです。
(ちなみに43条2項1号は、2018年の改正で、新たに加わわった規程です。)
よって今となっては、43条但し書きとは言わず、43条2項2号という言うようになりました。
不動産売買のベテラン営業員の方々の中には、43条但し書きがまだ抜けず、今でもタダシガキ、タダシガキとおっしゃる方がいらっしゃると思います。
でも正しくは、43条2項2号です。
不動産売買営業に携わってまだ間もない方々は、43条2項2号のほうで、押さえておきましょう。
中間省略という言葉について
中間省略という言葉は、上述の通り、三為契約(=直接移転契約)という言葉に引き継がれました。
不動産売買のベテラン営業員の方々の中には、今でもチュウカンショウリャク、チュウカンショウリャクとおっしゃる方が、いらっしゃるかもしれませんが、それは誤りです。
正しくは、そこは三為契約(直接移転契約)になります。
但し、この三為契約(直接移転契約)という言葉は、瑕疵担保責任における契約不適合責任、また43条但し書きにおける43条2項2号という言葉とは、少し位置付けが異なります。
契約不適合責任、そして43条2項2号という言葉は、それぞれ瑕疵担保責任、43条但し書きからそのまま置き換わった言葉ですが、この三為契約(直接移転契約)は、そうではありません。
そもそも現行において、中間省略という手法は禁止されているので、それに置き換わる言葉というものは、現行では存在しません。
但し、当時の中間省略による効果と、同一の効果を得られる手法は、現行でも存在します。
それが、三為契約(直接移転契約)です。
この記事では、そのような意味合いで、三為契約(直接移転契約)という言葉を、中間省略から引き継がれた言葉としております。
以下、中間省略が、三為契約(直接移転契約)に引き継がれたということについて、少し詳しく見ていくことにきます。
(注)
現行において、かつての中間省略と同一の効果が得られる手法に、もう1つ、買主の地位の譲渡がありますが、この記事では、買主の地位の譲渡については言及しておりません。
中間省略とは
そもそも中間省略とは、かつての不動産売買において、主に転売等の際に多く用いられた手法で、転売の中間に立つ者(第一の不動産売買においては買主、第二の不動産売買においては売主)が、不動産登記を省略することを言いました。
仮に、買主Bが売主Aから不動産を買い、それを新たな買主Cに転売するとします。
この時、この不動産の所有権は、A→B→Cと移転します。
現行の不動産登記法においては、もしBが、一瞬たりともその所有権を取得したら、そのことをしっかり登記しなければなりません。
しかし以前は、このような転売目的での不動産売買では、その取引の中間に立つ者は、その登記を省略することが許されていました。
そして、それが許されたことにより、中間に立った者(主に不動産業者)は、登記費用や司法書士様への報酬等を支払うことなく、転売差額による利益を得ることができていました。
不動産登記法の改正により、中間省略から三為契約(直接移転契約)へ
このように、主に不動産業者に重宝がられた中間省略でしたが、平成16年に不動産登記法が改正(翌平成17年に施行)され、それを用いることができなくなりました。
改正された不動産登記法のもとでは、転売の中間者が、一瞬たりとも所有権を取得したら、それをしっかり登記しなければならなくなりました。
つまり、登記費用や司法書士様への報酬を支払いをしないで済ませるためには、一瞬たりとも所有権を取得しないようにしなければならなくなったわけです。
そのような状況下で見出だされた手法が、三為契約(直接移転契約)です。
転売の中間者は、三為契約(直接移転契約)によって、所有権を取得することなく転売の中間者に成ることが可能です。
よって三為契約(直接移転契約)は、不動産登記法改正前の中間省略に換わると手法として、広く用いられるようになりました。
新中間省略という言葉を、適切でないとする見解について
かつての中間省略に変わる手法として、現行において、広く用いられる三為契約(直接移転契約)ですが、この手法のことを、中間省略の頭に「新」を付け、新中間省略と言い表す場合があります。
しかし、三為契約(直接移転契約)は、中間省略の中間者に相当する者の登記を、決して省略しているわけではありません。
そもそも、三為契約(直接移転契約)において、中間省略の中間者に相当する者は、所有権を一瞬たりとも取得することはありません。
よって、省略という概念が成立し得えません。
このような実情から、専門家の方々の中には、三為契約(直接移転契約)を、新中間省略と言い表すのは適切でない、とする見解があるそうです。
この見解は、おおいに参考にすべきかと思います。
不動産売買営業において、これから様々な手法を取得していこうとする若い方々は、この見解は習うのが良いよいかと思います。
新中間省略という言葉については、それを自ら積極的に用いるのは控え、三為契約、ないし直接移転契約という言葉を用いるのが良さそうです。
まとめ
いかがでしたか?
いささか回りくどい内容かとは思いますが、一度知ることで、以後スッキリできることと思います!
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう!
□瑕疵担保責任
・民法において→契約不適合責任に
・品確法/住宅瑕疵担保履行法において→瑕疵・瑕疵担保責任は可
・一般的な言葉として→そのまま瑕疵と用いて可(例:心理的瑕疵)
□43条但し書き
→43条2項2号
□中間省略
→三為契約(直接移転契約)
*新中間省略:適切でないとする見解あり
この記事は、以上となります。
最後までお読み頂き、誠にありがとうございました。
コメント