抵当権抹消登記の申請に見る登記申請の基本原則と各必要書類の意味

不動産会社で営業をやっていると、不動産登記の申請は、司法書士さんや土地家屋調士さんにお願いすべきものと思いがちですよね。

でも実は、登記の内容によっては、不動産の所有者様に、ご自分で直接申請して頂けるものがあるのをご存じですか?

例えば、複雑な事情が絡んでいない抵当権の抹消の登記などがそうです。

済ませておかなければならない抵当権抹消登記を、お済ませでない物件所有者様が、時折いらっしゃいますよね。

ご自分で申請して頂ける方法を解っていたら、是非教えて差し上げたいところです。

この記事では、不動産の営業員なら是非知っておきたい、司法書士によらない抵当権抹消登記の申請方法について、分かりやすくをご説明します。

またせっかくの機会ですので、宅建試験の範囲である、不動産登記法における登記申請の原則とその方法、更には必要書類のことやその意味についてもご説明します。

では、参りましょう!

(注)この記事では、前半3項で登記申請の全体像について、後半2項で抵当権抹消登記についてご説明します。

抵当権抹消登記についてすぐにご確認したい方は、前半3項を読みとばして頂けたらと思います。

目次

登記の申請で押さえたい2つの原則

抵当権の抹消の登記についてご説明する前に、少し硬いですが、登記の申請に関する原則のうち、とても重要な2つの原則についてご説明します。

その2つとは、下記の通りです。

・申請主義の原則

・共同申請の原則

以下、順番に見て参りましょう。

申請主義の原則

申請主義の原則とは、「登記は原則として、当事者の申請がなければすることはできません」という原則のことです。

したがって例えば、住宅ローンが完済したとして、実態としては抵当権が解かれたとしても、そのことを抵当権の当事者が申請しなければ、抵当権の登記が抹消されることはありません。

共同申請の原則

共同申請の原則とは、「登記の申請は、登記権利者と登記義務者の双方が、共同して行わなければならない」という原則のことです。

さてここで、また難しい言葉が出てきました。

登記権利者及び登記義務者とは、どういう意味でしょう。

これは宅建試験の勉強をした経験がお有りの方はご存じと思いますが、登記権利者とは、権利に関する登記をすることにより、登記上、直接に利益を受ける登記名義人のことを言います。

また一方登記義務者とは、登記をすることにより、登記上、直接に不利益を受ける登記名義人のことを言います。

とは言え、これでもまだあまりピンと来ないかと思います。

以下に幾つか例を記しておきますので、何となく頭に入れてしまいましょう。

○売買による所有権移転登記:【義務者】売主/【権利者】買主

○抵当権設定登記:【義務者】抵当権設定者(=担保不動産の所有者)/【権利者】抵当権者(=銀行等)

○抵当権抹消登記:【義務者】抵当権者(=銀行等)/【権利者】抵当権設定者(=担保不動産の所有者)

なお抵当権に見て取れる通り、設定と抹消とでは、登記義務者と登記権利者が反対になっている点にも、ご留意頂けたらと思います。

登記を申請する際に必要な2つの重要書類

抵当権の設定登記にせよ抹消登記にせよ、また所有権の移転登記にせよ、登記の申請のおおまかな手順は決まっています。

その手順とは、申請主義の原則、並びに共同申請の原則に則りながら、以下の2つの必要書類を準備し、登記申請書を添えて法務局に申請する、というものです。

そして準備すべき2つの必要書類とは、下記の通りです。

・登記識別情報通知または登記済証

・登記原因証明情報

以下、少しご説明します。

登記識別情報通知または登記済証

法務局としは、登記名義人から何らかの登記の申請を受けたら、その申請が本当に登記名義人本人によるものかどうかを、厳格に確認する必要があります。

登記識別情報とはそのための情報、すなわち登記名義人本人による申請であることを確認するための情報のことです。

そして登記識別情報が記された書類が、登記識別情報通知です。

登記識別情報通知はおおまかに申しますと、従来の登記済証(権利証)と類似の扱われ方をします。

登記識別情報通知や登記済証(権利証)は、不動産の権利の登記をした際に、法務局が登記名義人に対してのみ作成します。

その権利が所有権だったら所有権者に、抵当権だったら抵当権者(銀行等)に対してのみ作成されます。

そして所有権者ないし抵当権者は、その権利を保有し続けている間、それら登記識別情報通知または登記済証(権利証)を、大切に保管することになります。

そしてその後、今度は登記義務者の側の立場として登記の申請をする際に、現に今現在の登記名義人であることを証明するために、法務局に対し、それら登記識別情報通知や登記済証(権利証)を提示することになります。

なお、不動産会社で売買営業に携わっていると、売主が持っている所有権の登記識別情報通知や登記済証(権利証)には、馴染みがあると思います。

ところが抵当権の登記識別情報通知や登記済証(権利証)には、あまり馴染みが無いと思います。

抵当権の登記識別情報通知や登記済証(権利証)は、上述の通り、抵当権者(銀行等)が持っていることになっています。

登記原因証明情報

登記申請する際には、原則として、登記原因を証する情報を、法務局に提供しなければなりません。

登記情報を注意深く見ると「原因」という欄があり、そこに「売買」とか「相続」とか「解除」といった表記が確認できると思います。

これら「売買」、「相続」、「解除」等が登記原因です。

そして登記原因証明情報とは、これら登記原因を証明する情報のことを言います。

例えば「売買」を登記原因とする所有権移転登記であれば、売買契約書の内容が、登記原因証明情報に相当します。

不動産会社で売買営業をやっていると、決済の準備をしている際に、移転登記申請を代理する司法書士さんから、売買契約書の写しを求められると思います。

司法書士さんは、その売買契約書の内容に基づいて、登記原因証明情報を作成しています。

登記を申請する際に必要な登記申請書について

上述の通り、登記を申請する際には、登記識別情報通知または登記済証と登記原因証明情報を揃え、登記申請書を添えて申請します。

登記申請書の書式は、法務局の窓口で取得することもできますし、法務局のホームページから取得することも可能です。

登記申請書の用紙を取得したら、そこに必要事項を記入します。

記入すべき内容は、申請する登記によって異なるでしょうが、だいたいは下記の通りだろうと思われます。

なお記入に際しては、必要に応じて、不動産登記情報を取得して記入します。

登記の目的/原因/登記義務者の事項/登記権利者の事項/管轄法務局の事項/登録免許税について/不動産の表情

「抵当権を抹消する」と「抵当権抹消登記」について

ここまで登記を申請する際の原則について、また必要となる書類とそれらの意味合いについて、ご説明して参りました。

ここからは抵当権の抹消の登記を、司法書士によらず自分で行う場合のことについてご説明しますが、その前に、抵当権の抹消の登記とはどういうことか、ご説明します。

抵当権はまず、抵当権を設定した際に、そのことを登記します。

そして、住宅ローン等が完済するなどして、実態として抵当権が解かれたら、登記簿においても、実態と合わせて抵当権を解く必要があります。

「登記を抹消する」と聞くと、今まで登記簿に記されていた抵当権が、登記簿から消えて無くなるような印象を受けます。

そして消えて無くなるとすれば、「抵当権の抹消の登記」という表現には違和感を覚えると思います。

「抵当権を抹消する」とか「抵当権の登記を抹消する」という表現はわかりやすが、それを「登記」というのが、わからないと思います。

ところが実は、抵当権の抹消も、登記申請に基づいて登記される、一つの登記として捉えられるようです。

現に登記簿を見ると、「1番抵当権抹消」という記録を確認することができます。

幾分違和感のある「抵当権抹消登記」という言葉ですが、決して誤りではないようです。

参考まで…。

抵当権の抹消の登記をご自分で申請して頂く方法

では、実際に抵当権の抹消の登記を、不動産の所有者様にご自分で申請して頂くには、どうしたらいいでしょう?

以下にポイントを押さえながら、順番にご説明します。

抵当権抹消登記の申請は、登記義務者(銀行等)が登記権利者に委任するのが一般的

上記で登記の申請は、「登記義務者と登記権利者による共同申請が原則」とご説明しました。

ただし共同申請は、申請者の一方が他方にその申請を委任した場合であっても、それに伴う必要書類がしっかり添えられていれば成立します。

実は抵当権の抹消登記の申請も、基本的にはこの形を取っていて、登記義務者である抵当権者(銀行等)は、登記権利者(抵当不動産の所有者/抵当権設定者)に、その登記申請を委任し、その際の追加の必要書類として、委任状を添えることで、共同申請の形を成しています。

抵当権の抹消登記の申請においては、文字通りの共同申請の場合に必要な登記識別情報通知または登記済証、登記原因証明情報、登記申請書に加え、委任状が必要書類となる点、押さえておきましょう。

なお不動産売買の所有権移転の登記申請においては、登記義務者と登記権利者の双方が、司法書士を代理人として申請しますが、これも委任状や印鑑証明書等の必要書類を添えることで、共同申請の形を成しています。

抵当権抹消登記の申請における必要書類

ここで改めて、抵当権の抹消登記の申請に必要な書類について整理すると共に、今一度、補足の説明をしておきたいと思います。

【抵当権の登記識別情報通知または登記済証】

上述の通り、登記識別情報通知または登記済証は、不動産の権利の登記をした際に、法務局が登記名義人に対して出す書類です。

抵当権の抹消の際に必要となる登記識別情報通知または登記済証は、当然、抵当権を不動産の権利とするものになります。

抵当権の権利者、すなわち抵当権者は銀行等になります。

抵当権の登記識別情報通知または登記済証は、住宅ローン等が完済したら、抵当権抹消の必要書類一式として、銀行等から抵当不動産の所有者(抵当権設定者)に送られます。

【登記原因証明情報としての抵当権解除証書】

抵当権の抹消における登記原因証明情報は、一般的には銀行等が発行する抵当権解除証書というものになります。

銀行等によっては、他の名称の場合があるようですが、ポイントは、その書類が登記原因証明情報であるかどうかです。

この書類もやはり必要書類一式として、銀行等から送られてきます。

【委任状】

上述の通り、抵当権の抹消の登記の申請では、登記義務者である銀行等は、登記権利者である抵当不動産の所有者に、その登記の申請を委任しますので、その旨が記された委任状をもって、共同申請の形を成します。

委任状もやはり必要書類一式として、銀行等から送られてきます。

【銀行等の資格証明書】

登記を申請する場合には、登記義務者または登記権利者が法人の場合、その法人である当事者は、資格証明書というものを必要書類として添えることになっています。

抵当権抹消登記の申請においては、登記義務者である銀行等は法人になります。

よって銀行等は、資格証明書を添える必要があります。

資格証明書は、具体的には法人の登記事項証明書等です。

その有効期限は、所有権移転登記の申請における印鑑証明書と同じで、3ヶ月とされています。

この書類も必要書類一式として、やはり銀行等から送られてきます。

【登記申請書】

上述の通り、登記申請書の書式は、法務局のホームページから取得できます。

抵当権抹消登記の登記申請書は、「登記の目的」は「抵当権抹消」に、また「原因」は「解除」になります。

抵当権抹消登記の登録免許税

宅建試験のテキスト等でもご確認できると思いますが、付記登記、変更の登記、登記の抹消は、登録免許税が不動産1個につき1000円と定められています。

よって抵当権の抹消の登記の登録免許税は、不動産1個につき1000円です。

戸建ては土地と建物で、それぞれ別の不動産であり、計2戸ですので、その登録免許税は2000円になります。

まとめ

いかがでしたか?

抵当権の抹消の登記は、特別な事情が付加されてなければ、司法書士によらずとも、申請することが可能であり、この申請方法を捉えることで、登記の申請の原則や必要書類の意味の理解も深めることができます。

この記事が、少しでもお役に立てたら幸いです。

最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。

□登記申請における原因

申請主義の原則/共同申請の原則

□登記書の必要書類

・登記識別情報通知または登記済証/登記原因証明情報

・登記申請書

□抵当権抹消登記の必要書類

・登記識別情報通知または登記済証→抵当権のもの

・登記原因証明情報→抵当権解除証書

・委任状

・資格証明書→銀行等の法人登記事項証明書等

・登記申請書

□抵当権抹消登記の登録免許税

1000円/1個

この記事は以上になります。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

はじめまして。宅地建物取引士のケイヒロと申します。40歳代半ば過ぎに不動産会社に転職し、住居賃貸営業、店舗事務所賃貸営業を経て、今は売買営業をやっています。よろしくお願いします。

コメント

コメントする

目次