不動産業に携わっていると、折に触れお客様方から、相続ないし相続税について、質問を受ける場合がありますよね。
また、とりわけ不動産会社の売買営業部においては、上司や先輩方から、折に触れ「相続案件」という言葉を耳にすることがあると思います。
はたして相続税とは、どのように計算されるものなのでしょう?
この記事では、相続税の計算方法について、できるだけ分かりすくご説明します。
では、参りましょう!
不動産業の従業者が相続、ないし相続税を扱う場合の注意点
相続税に限らず、不動産の従業者が、税制についてお客様のご質問等に回答する場合、大前提として、解っておくべきことがあるようです。
それは、(公財)不動産流通推進センターがまとめている、Q&Aを参照していても、折に触れ目にすると思いますが、不動産業の従業者が、お客様から税制についてご質問等を受けた場合、自らの詳細についてのご説明は控えるべき、ということです。
中でも相続税は、極めて難易度の高い税制とされているようで、その制度自体がとても複雑で、税理士さんや税務署等、専門家でないと扱うのは非常に難しい、とされているようです。
しかも他の税制と同じように、制度そのものがちょくちょく見直されたりするので、知っているつもりでお客様にご説明した内容が、実は今年から違っていた、という事態が起こる恐れもあるようです。
したがって、以下にご説明する、相続税の計算方法や控除制度についても、是非日々の業務に生かして頂けたらとは思いますが、あくまで、実務における予備知識として位置付けて頂けたらと思います。
お客様にはくれぐれも、相続ないし相続税の詳細ご説明は控え、お客様自ら、税理士さんや税務署といった専門家の方々に、直結ご確認頂くよう、ご誘導することを、基本スタンスとするようにしましょう!
なお本内容は、令和4年9月時点のものであり、今後見直されたり改正される可能性がございます。
土地や家などの不動産等を相続した場合の相続税の計算の手順
ある方が亡くなり、持っていた土地や家などの不動産、あるいは預貯金や株式など、その方の遺産を相続人が相続した場合には、必要に応じて、相続人は相続税を納付する必要があります。
その相続税の納付額の計算は、非常に複雑ですが、おおまかに申しますと、以下の4つの行程を経て計算されることになっています。
1.被相続人(亡くなった側の方)が残した遺産の中から、課税対象となるものとそうでないものを分け、課税対象となるもの(課税価格と言います)の合計額を出す。
2.1で出した課税価格の合計額から、基礎控除額を差し引いて、課税遺産総額というものを出す。
3.2で出した課税遺産総額を、一旦、法定相続分の割合で分配し、各法定相続人の仮の税額を計算し、次にそれを合算して、法定相続人全員の相続税の総額を出す。
4.3で出した法定相続人全員の相続税の総額を、実際に遺産を分けた割合で各相続人に割り振り、配偶者の税額軽減、障害者控除、未成年者控除、2割加算というものを適用させて、最終的な相続人ごとの納付税額を出す。
以上4つの行程を経て、最終的な相続人ごとの相続税の納付税額が算出されます。
とは言えこれだけだと、よく分からないと思います。
以下、これら4つの行程について、少し詳しめにご説明して参りますが、その前に1点だけ、大前提として押さえておくべきことがあります。
それは、相続税の納付額は、いきなり個々の相続人が相続した財産に着目して計算をするのでなく、まずは遺産全体に着目して計算する、ということです。
例えばある資産家が、お亡くなりにったとします。
その方は、その方名義の土地、家、預貯金、株式など、あれやこれや様々な財産を残して亡くなられたとします。
そしてその財産は、場合によっては仲良く、また場合によっては揉めながら、相続人に分配されます。
ここでポイントになるのは、相続税の納付額の計算を始める際に、一番最初に着目するのが何か、ということです。
一番最初に着目するのは、各相続人に分配された、個々の財産ではありません。
そうではなく、まずは、分配される前に遡(さかのぼ)って、亡くなられた方が残した財産全体に着目する必要があります。
上述した4つの行程で言えば、まずは財産全体に着目して、1から3までの行程の計算を行う、ということです。
そして最後に4番目として、、各相続人に分配された個々の財産に着目する、ということです。
まずはこのことを、しっかり念頭に置いておくようにしましょう。
土地や家など不動産の相続税の計算における、課税価格の合計額の計算について
ではまず最初に、4つある行程のうちの1つ目、課税価格の合計額の計算方法について、見ていきましょう。
課税価格の合計額の計算方法の概要
亡くなられた方の財産は、土地や家などの不動産だったり、預貯金だったり、株式だったりします。
そしてそれらの中には、相続税の課税対象になるものと、課税対象から差し引くべきものとが決められています。
相続税の計算行程は、まず最初に、課税対象から差し引くべきものを差し引き、課税対象となるものを明らかにすることから始めるようです。
そして、この時の課税対象となるもののことを、専門用語で課税価格と言うとされています。
したがって、相続税の計算行程でまず最初に行うこととは、要するに、不動産は不動産で課税価格を計算し、預貯金は預貯金で、株式は株式で課税価格を計算して、最終的にそれらを合算することで、課税価格の合計額を算出する、ということになります。
課税価格から差し引くものの具体例
参考まで、課税価格から差し引くものとは、どういうものがあるのでしょう?
それは例えば、被相続人が残した借金や債務などです。
被相続人が残した預貯金を、これらの返済に充てた場合、充てたその額は、課税価格から差し引くことができます。
また、葬儀費用や納骨費用も、差し引くことができます。
また寄付なども、差し引くことができます。
相続時精算課税制度を活用した贈与の扱いについて
一方課税対象になるもの、すなわち課税価格に含まれるものとしては、例えば、相続時精算課税制度を活用した贈与がそうです。
被相続人から、生前に、相続時精算課税制度を活用して財産の一部を貰った相続人がいらっしゃったら、その贈与分は課税価格に含まれます。
不動産会社で売買営業に携わっていると、住宅購入資金の一部を、相続時精算課税制度を用い、贈与を受ける方がいらっしゃると思います。
それらが、相続税の課税価格に含まれるという点は、押さえておきましょう。
とは言え、この後ご説明する通り、相続税には様々な控除制度が備わっていることから、相続時精算課税制度を用いて受けた贈与に、相続税が課税されるケースは、被相続人の方が、一定規模以上の相当な財産を有していた場合に限られます。
土地や家など不動産の課税価格の計算方法について
被相続人が残した財産は、預貯金以外のものは、鑑定方法によってその価格にバラツキが発生する恐れがあります。
したがって、それらを鑑定する際には、ある一定の基準が必要です。
そのような理由から、国税庁ではその基準になるものとして、財産評価基本通達というものを策定しています。
この項では、その財産評価基本通達の中から、土地や家など不動産に対する、相続税(贈与税も同じです)の課税価格を計算する際の基準について、おおまかにご説明しておきます。
【相続税における土地の評価方法】
相続財産の中に土地がある場合、その土地の課税価格を計算する必要があります。
相続税における土地の課税価格の計算には、路線価(相続税路線価)を用います。
とは言え土地によっては、路線価(相続路線価)が定められていない場合もあります。
そういう場合は倍率方式と言って、固定資産税評価額(固定資産税路線価)に、国税庁がその土地ごとに定めた倍率を掛け合わせ、算出します。
なおその倍率は、路線価を確認する時に広く閲覧されている、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」のwebサイトで閲覧できます。
ただし、正確な相続税評価額は、これらの値に面積を掛ければ算出できる、という単純なものではないようです。
ここからその土地の形状や、借地かそうでないか等、様々な条件を考慮して複雑な修正が施され、最終的な価格となります。
したがって不動産会社の従業者としては、相続税(贈与税も同じ)の土地価格の計算は、路線価(固定資産税路線価)に基づいて計算する、または固定資産税評価額に評価倍率を掛けて計算する、という概要だけ押さえておくようにしましょう。
【相続税における家など建物の評価方法】
相続財産の中に家などの建物もある場合、その建物の課税価格を計算する必要があります。
相続税における家など建物の課税価格の計算には、固定資産税評価額(固定資産税路線価)を用います。
ただし、正確な相続税評価額は、その建物を被相続人が利用していたのか、あるいは貸していたのか等の事情に基づいて修正が加えられたりします。
税制の専門家でない不動産従業者としては、家など建物の相続税の評価は、固定資産税評価額(固定資産税路線価)に基づいて計算する、という概要だけ押さえておくようにしましょう。
土地の課税価格の計算における、小規模宅地等の特例について
被相続人が残した財産に土地がある場合、小規模宅地等の特例というものを、適用できる場合があります。
小規模宅地等の特例が適用されると、相続財産としての土地の価格を、最大で80%減額できる場合があります。
小規模宅地等の特例が適用できるのは、被相続人がその土地を住宅用地として利用していてり、建物賃貸用地として使っていたなどの場合です。
相続の対象として、不動産を多く所有している方々にとって、大きな節税効果が期待でき、魅力的な特例であるようです。
相続財産から不動産の課税価格を計算する場合には、この小規模宅地等の特例も考慮する必要があります。
土地や家など不動産の相続税の計算における、課税遺産総額の計算について
これまで見て参りましたとおり、相続税の計算において、まず課税価格の合計額を出したら、次の行程に進みます。
相続税の計算においては、課税価格の合計額が算出されたら、規程に則って、一定の額を控除することが出来ることになっています。
そして、課税価格から差し引くことができるこの控除のことを、基礎控除と言います。
そして、課税価格から基礎控除を差し引いて算出されたものを、税制の専門用語で、課税遺産総額と言うとされています。
相続税の計算における2つ目の行程であるこの行程では、要するに、課税価格の合計額から基礎控除を差し引き、課税遺産総額を計算する行程である、ということです。
基礎控除の額は、税制で明確に決まっていて、2022年9月時点での税制においては、「3000万円+600万円×法定相続人の数」になります。
【基礎控除額】
「3000万円+600万円×法定相続人の数」
仮に被相続人(亡くなった方)を本人として、その法定相続人が、妻と子供2人の3人だったとします。
すると基礎控除の額は、3000万円+600万円×3人で、4800万円になります。
したがって例えば、このご家族の被相続人の財産における課税価格の合計額が、8000万円だったとしたら、基礎控除で4800万円差し引くことができ、課税遺産総額は3200万円になります。
なお法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、配偶者と子が居る場合、その方々が法定相続人になります。
この記事では、子が居なかった場合に、法定相続人はどうなるか等、法定相続人についての詳細については割愛します。
とは言え法定相続人については、宅建試験の試験範囲でもありますので、是非一度、ある程度の詳細まで、しっかり理解しておくことをお勧めします。
土地や家など不動産の相続税の計算における、法定相続人全員の相続税の総額の計算について
ここまで課税価格の合計額の計算方法、更に課税遺産総額の計算方法についてご説明して参りました。
相続税の計算における、次の3つ目の行程は、その課税遺産総額を元にして、法定相続人全員の相続税の総額を計算する、というプロセスになります。
実社会においては、様々な事情や背景から、被相続人が残した財産は、必ずしも、民法で定められた法定相続割合通りに分配されるとは限りません。
しかし相続税の税額の計算においては、その財産が、一旦、法定相続人に法定相続割合通りに分配されたものとして、計算することになります。
なお、主な法定相続割合は、下記通りとなります。
【主な法定相続割合】
(*左が「相続人」です。)
配偶者のみ→配偶者:1/1
配偶者と子→配偶者:1/2・子:1/2
配偶者と父母→配偶者:2/3・父母: 1/3
配偶者と兄弟→配偶者:3/4・兄弟: 1/4
したがって例えば、課税遺産総額が3200万円だった場合に、法定相続人が、配偶者と子2人だったら、その3200万円は、配偶者が1600万円、子aが800万円、子bが800万円になります。
更にここから、それぞれの法定相続人が仮に納付すべきとされる、仮の相続税額を計算します。
それぞれの法定相続人の仮の相続税額は、下記の相続税の速算表を元に計算します。
【相続税の速算表】
(*左から「法定相続分に応ずる取得金額」・「税率」・「控除額」の順です。)
1,000万円以下 :10%/-
3,000万円以下:15%/50万円
5,000万円以下:20%/200万円
1億円以下: 30%/700万円
2億円以下:40%/1,700万円
3億円以下:45%/2,700万円
6億円以下:50%/4,200万円
6億円超:55%/7,200万円
この速算表で計算した法定相続人ごとの税額を合計したものが、相続税の総額になります。
したがって例えば、上記、課税遺産総額3200万円を、法定相続割合に従い、配偶者が1600万円、子aが800万円、子bが800万円で分配した場合、それぞれの仮の相続税額は、速算表に当てはめ、配偶者が190万円、子aが80万円、子bが80万円になります。
よってこの場合、法定相続人全員の相続税の総額は、190万円+80万円+80万円で、350万円になります。
このように、相続税の税額の計算においては、課税価格の合計額から基礎控除を差し引いて、課税遺産総額を出したら、一旦その課税遺産総額を、法定相続人が法定相続割合で相続したものとして、仮の額として、法定相続人全員の相続税の総額を算出する必要があります。
土地や家など不動産の相続税の計算における、実際の相続人ごとの納付税額の計算について
法定相続人全員の相続税の総額を計算できたら、あとはいよいよ最後の4つ目の行程として、実際に相続を受けた相続人ごとに、最終な相続税の納付税額を計算します。
なお最終的に、実際の相続人ごとの納付税額を計算するにあたっては、考慮すべき軽減制度や控除制度があります。
主なものは下記の通りです。
【配偶者の税額軽減】
配偶者が相続した遺産のうち、1億6千万円、または配偶者の法定相続分相当額のどちらか多い金額までは、配偶者には相続税はかからない制度です。
【障害者控除】
相続人が85歳未満の障害者の場合、相続税から一定の額を控除する制度です。
【未成年者控除】
相続人が未成年者の場合、相続税から一定の額を控除する制度です。
【相続税額の2割加算】
相続人が1親等の血族以外、または配偶者以外の人の場合に適用される等の制度です。配偶者、子、親以外の人、例えば兄弟姉妹が相続した場合には、兄弟姉妹の相続税の納付税額は2割増になります。
(注)これら諸制度は、2022年9月時点のものであり、今後見直されたり改正されたりすることごあり得ます。
例えば仮に、課税価格の合計額が8000万円、法定相続人が配偶者と子2人で、その法定相続割合に基づくの相続税の総額が、350万円となる親子3人が居るとします。
この3人は実際には、すべての相続財産を配偶者が相続したとします。
したがって、仮の相続税額350万円の割り振りは、実際には配偶者が350万円、子aが0円、子bが0円になります。
しかし配偶者には、配偶者の税額軽減が適用できます。
この場合、配偶者の実際の相続割合は、法定相続分1/2を越えているので、一見するとその納付税額は、175万円に思えます。
しかし配偶者が相続した遺産は、課税価格の合計額すべてである8000万円であり、1億6千万円以下です。
したがって、配偶者の納付税額も0円になります。
このように、相続税を計算する場合には、法定相続人全員の相続税の総額を、実際に遺産を振り分けた割合に割り振り、配偶者の税額軽減等を適用させて、最終的な相続人ごとの納付税額を算出します。
まとめ
いかがでしたか?
相続税の計算は、本当は様々な条件によってもっと複雑であるようです。
税制の専門家でないと、お客様からのご質問等にご回答するのは控えるべきですが、不動産業の従業者数としては、予備知識として、是非押さえておきたい事項だと思います。
最後にもう一度、内容を確認しておきましょう。
□相続税の計算の行程
1.課税価格の合計額を出す。
被相続人が残した財産から、課税対象となるものとそうでないものを分け、課税対象となるもの(課税価格と言います)の合計額を出す。
2.課税遺産総額を出す。
3.法定相続人全員の相続税の総額を出す。
4.相続人ごとの納付税額を出す。
□相続税の計算のポイント
・相続時精算課税制度を用いた贈与相当額は、課税価格に含まれる。
・土地の課税価格の計算は、路線価(相続税路線価)もしくは、評価倍率に基づく。
・家など建物の課税価格の計算は、固定資産税評価額(固定資産税路線価)に基づく。
・土地の課税価格の計算では、小規模宅地等の特例を活用できる場合がある。
・相続税計算の際の基礎控除は、「3000万円+600万円×法定相続人の数」。
・法定相続人ごとの相続税の計算は、国税庁の「相続税の速算表」に基づく。
・相続人ごとの納付税額の計算では、配偶者の税額軽減、障害者控除、未成年者控除、2割加算を適用させる。
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
コメント