不動産会社の営業員として、扱おうとする不動産の登記簿に「地役権設定」という記述を見つけ、慌てた経験はありませんか?
果たしてこの地役権という権利は、どういう権利なのでしょう?
またその登記簿に記載されている事項は、どういう意味なのでしょう?
この記事では、そんな地役権について、不動産取引の経験がまだ浅い方向けに、分かりやすくご説明します。
是非この機会に、地役権の全体像を掴んでおきましょう!
では、どうぞ。
地役権の概要
地役権とは、おおまかに申しますと、自分の土地の便益を上昇させるために、他人の土地を利用させてもらう権利のことを言います。
とは言えこれだけだと、なかなかイメージが掴めないと思います。
以下に地役権について、少し踏み込んで見ていくことにしましょう。
賃借権との違いに見る地役権の特徴
「他人の土地を利用させてもらう」という点について言えば、地役権は、賃借権と同じ権利であるような印象を受けます。
果たして地役権とはどういう権利で、賃借権と何が違うのでしょう?
以下に具体例を用いて、地役権と賃借権の違いについて、見て行きたいと思います。
(注)この記事のこの項では、地上権については言及しておりません。また物権・債権という言葉は、意図して使用しておりません。
地役権は、2つの土地が親密に関係し合っている
今仮に、隣接しているAとBという土地があるとします。
土地Aは道路に接していますが、土地Bは接していません。
そこで土地Bの所有者が、土地Aの所有者に相談し、道路に出るために、土地Aの一部を使わせてもらうことにしたとします。
この場合、土地Aの所有者と土地Bの所有者とで、取り交わす約束ごととして、以下の2つが考えられます。
1.「土地Bの所有者が、土地Aの所有者から土地Aの一部を借りる」という賃貸借契約。
2.「土地Bの所有者が、土地Aの所有者から土地Aの一部を使わせてもらう」という地役権設定。
ではこのような場合、1の賃借権と2の地役権では、一般的にどちらを採用するでしょう?
この場合、2の地役権設定を採用するのが一般的とされています。
この場合、土地Bの所有者が使わせてもらう土地は、土地Aの一部でなければなりません。
そうでないと、道路に出るという目的を達成できません。
土地Bの所有者としては、使わせてもらう土地が、土地Aの一部である必然性があります。
このように、一方の土地と他方の土地とが、親密に関係し合うような場合には、地役権が採用されるのが一般的です。
地役権は、それに基づく「約束ごと」を承継させたい場合に適している
また土地Bの所有者としては、土地Aの所有者が入れ変わった後も、引き続き、土地Aの一部を使わせてもらう必要があります。
ところがその約束ごとが、1の賃貸借契約だった場合、土地Aの所有者は、土地Aの一部の賃貸借契約を消除して売り渡すのが一般的です。
すなわち、土地Aの所有者が変わったら、土地Bの所有者は、土地Aの一部を利用させてもらえなくなる恐れがあるのです。
すなわち1の賃貸借契約では、「土地Bの所有者が、土地Aの所有者から土地Aの一部を借りる」という約束ごとが、承継されない恐れがあるわけです。
でもそれが、2の地役権設定の場合、主に地役権を登記しておけば、土地Aの所有者が入れ替わっても、引き続き土地Aの一部を使わせてもらうことが可能となります。
このように地役権は、所有者が入れ替わった後も、その権利を承継させたい場合にも、採用されるのが一般的です。
地役権における要役地と承役地
上述したように地役権では、2つの土地が親密に関係し合っています。
そして、親密に関係し合うこれら2の土地には、それぞれに呼び名が定められています。
要役地と承役地です。
地役権における要役地とは
自分の土地の便益を上昇させるために、他人の土地を利用させてもらう権利である地役権においては、利用させてもらうことで、便益が増す土地のほうを、要役地と言います。
上記例で言えば、土地Bのほうが要役地に当たります。
土地Bは、そのままでは道路に出ることができませんが、土地Aの一部を利用させてもらうことで便益が増します。
地役権における承役地とは
一方承役地とは、相手の土地の便益を上昇させるために、利用される側の土地のほうを言います。
上記例で言えば、土地Aのほうが承役地になります。
地役権の種類
では地役権という権利は、実際にどういう場面で用いられるのでしょう。
以下、地役権の主な種類です。
通行地役権
地役権は上記具体例のように、他人の土地を通行させてもらう目的で、設定される場合があります。
この場合、上記具体例のように、要役地・承役地・目的はそれぞれ、下記の通りです。
・要役地:他人の土地を通行させてもらうことで、便益が増すほうの土地
・承役地:その土地の一部を通行目的で利用されるほうの土地
・目的:通行
そしてのような地役権を、一般的に通行地役権と言ったりします。
導管地役権
ある土地に水道管が来ておらず、水道管を引き込むには、隣りの土地の地下を、水道管を通す目的で利用させてもらわなければならない場合があったります。
ところが実は、土地の所有権は、その地下にも及ぶものとされています。
したがってそういう場合、他人の所有する地下を、承諾を得て利用させてもらうということになり、一般的に、特別な権利を設定させてもらう必要があるとされています。
そしてこういう場合に用いられるのが、やはり地役権だったりします。
この場合、地役権における要役地・承役地・目的はそれぞれ、下記の通りとなります。
・要役地:他人の土地の地下の一部に水道管を通させてもらうことで、便益が増すほうの土地
・承役地:その土地の地下の一部に、水道管を通させてあげるほうの土地
・目的:導管
送電線地役権
土地によってはその上空に、電力会社の高圧線が通っている場合があります。
ところが実は、土地の所有権は、その上空にも及ぶものとされています。
したがってそういう場合、電力会社等は、他人の所有する空中を、承諾を得て利用させてもらうということになり、やはり地役権を用いて、その権利内容を明らかにするのが一般的です。
この場合の要役地・承役地・目的はそれぞれ、下記の通りとなります。
・要役地:他人の土地の上空の一部に高圧線を通させてもらうことで、便益が増すほうの土地(その高圧線で送電を行っている発電所がある土地等)
・承役地:その土地の上空の一部に、高圧線を通させてあげるほうの土地
・目的:電線路の設置等
日照地役権・眺望地役権
隣が空地で遮るものが無く、陽当たりがとても良い家があるとします。
そしてその家の持ち主は、その陽当たりの良さを失いたくないために、隣の空地の所有者に、あまり高い建物を立ててほしくないと思っているとします。
こういう場合も、その隣地所有者の理解を得られれば、やはり地役権を設定することが可能です。
隣の土地の一部について、例えば、高さ5メール以上の建物を建てない、という内容の地役権です。
また、このような日照確保を目的とした地役権と同様に、眺望の確保を目的とした地役権も設定できます。
この場合の要役地・承役地・目的はそれぞれ、下記の通りとなります。
・要役地:他人の土地の一部に、建築物の高さ制限を設けさせてもらうことで、便益が増すほうの土地
・承役地:その土地の一部に、建築物の高さ制限が設けられるほうの土地
・目的:日照確保、眺望確保
なおこのような地役権を、一般的に日照地役権、眺望地役権と言ったりします。
地役権の登記について
地役権の登記は、義務ではないとされていますが、一般的には、登記しておくことが望ましいとされています。
不動産会社の営業員として、新たに地役権を設定すべき物件を扱うような場合には、土地所有者様に、しっかり登記して頂くよう申し伝えましょう。
では地役権の登記とは、一体どういうものなのでしょう?
以下、順番に確認していくことにしましょう。
地役権の登記の流れ
地役権の登記には、要役地と承役地という、2つの土地への登記が発生します。
その流れとしてはまず、要役地の所有者と承役地の所有者が共同で、承役地の土地のほうに登記申請します。
更に地役権そのものが設定されるのは、要役地でなく承役地になります。
申請者から法務局への申請も、要役地でなく承役地のほうに申請することになります。
したがって例えば、電線地役権などのように、要役地と承役地の場所が離れていて、それぞれの土地を管轄する法務局が違っていたりする場合には、承役地を管轄する法務局のほうに申請することになります。
また申請業務について言えば、地役権の登記申請も、所有権移転や抵当権設定の登記申請と同じように、専門外の方には難しいケースが多いようです。
したがって実務においては、一般的に司法書士さんにお願いするケースが多いようです。
なお要役地の登記については、承役地への申請を受けて、登記官が職権で登記を行うとされています。
地役権設定と要役地地役権
上述の通り地役権の登記は、承役地への登記の申請を受け、申請通りに承役地の登記が行われ、かつ登記官によって、要役地への登記も行われます。
ではそれぞれの登記は、登記簿にどのように表れるのでしょう。
まず承役地ですが、ある土地に、地役権の承役地の登記が設定されたら、その登記簿の登記の目的の欄に、地役権設定と表記されることになります。
一方要役地については、やはり登記の目的の欄に、要役地地役権と表記されることになります。
登記簿においては、それぞれ承役地が地役権設定で、要役地が要役地地役権という点は、押さえておくと良いようです。
承役地(地役権設定)の登記簿の詳しい内容
では地役権が備わった登記簿には、その他にどのようなことが記されるのでしょう。
まず承役地(地役権設定)の登記簿ですが、そこには下記の事項が記されることになっています。
1.目的
2.範囲
3.要役地
4.地役権図面の番号
以下、少し細かいですが、1つづつ確認しておきます。
1.目的
不動産登記法においては、地役権設定登記を行うときに、その目的を記すことが決められています。
通行、水道管やガス管の導管、電線路の設置等、日照や眺望の確認などが、これに当たります。
2.範囲
一般的に地役権は、その土地の一部に設定されます。
したがって、その土地のどの部分に設定されているかを、登記簿においても明らかにすることになっています。
なお少しややこしいですが、承役地は、地役権が設定された土地全体を指す言葉になります。
土地を1筆ごとに見たときに、その1筆の一部部分に地役権が掛かっていたら、その1筆全体が承役地になります。
地役権が掛かっている部分を、承役地というわけではない点に注意しましょう。
ただし、地役権が掛かっているところが、その1筆全体というケースは有り得ます。
すなわち、承役地=地役権が掛かっているところ、という場合です。
地役権が掛かるところを、後から文筆したような場合です。
電線路の設置を目的とした地役権設定に、時折見受けられます。
そのような場合には、地役権設定の範囲は「全部」と記されます。
3.要役地
その地役権は、どこを要役地とする地役権なのかがわかるよう、要役地(となる土地の地番)が記されます。
4.地役権図面の番号
上記で、その承役地における地役権設定の範囲を記すことはご説明しましたが、より具体的なものとして、法務局に地役権図面というものが備えられることになっています。
そして登記簿には、その地役権図面がどれなのかを明らかにしておくために、地役権図面の番号が記されることになっています。
なお上述した通り、その承役地における地役権設定の範囲が、全部の場合があります。
そういう場合、地役権設定の範囲は、地籍測量図等で明らかになるので、地役権図面は備えられません。
したがってその場合、地役権図面の番号が記されることもありません。
要役地(要役地地役権)の登記簿の詳しい内容
一方、要役地(要役地地役権)の登記簿には、どのような事項が記されるのでしょう?
それは下記の通りです。
1.承役地
2.目的
3.範囲
要役地の登記簿を見たときに、承役地がどこかわかるよう、その地番が記されていると共に、承役地に記された目的と範囲が、こちらにも記されます。
まとめ
いかがでしたか?
地役権は、あまり馴染み薄い権利だと思いますが、不動産取引において、稀に扱う権利だろうと思います。
是非この機会に、その全体像をしっかり押さえておきましょう。
では最後に、もう一度内容を確認しておきます。
□地役権とは
「自分の土地の便益を上昇させるために、他人の土地を利用させてもらう権利」
□賃借権との違い
・2つの土地が親密に関係し合っている。
・権利を承継させたい場合に適している。
□地役権の種類
通行/導管/電線路の設置等/日照確保・眺望確保
□地役権の登記
・地役権設定→承役地
・要役地地役権→要役地
□承役地(地役権設定)の登記簿の内容
目的/範囲/要役地/(地役権図面の番号)
□要役地(要役地地役権)の登記簿の内容
承役地/目的/範囲
この記事は以上となります。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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